2017年12月2日土曜日

債権法改正について(11)(履行不能)

司法書士の岡川です。

今日は、債務不履行の2つめの類型である「履行不能」について。

前提知識をざっくり説明すると、「できない」というのを「不能」といいます。
つまり、「債務を履行できない」ってことですね。

実は、「履行不能」の場合に債務がどうなるかという点についてのルールは、現行民法では明記されておりません。
それが条文に明記されるようになります。

第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

まあ、そんなわけで読んでのとおりであります。

ちなみにここでは、「原始的不能」(契約締結より前から不能)と「後発的不能」(契約締結後に不能となる)についての区別がされておりません。

伝統的な理解では、原始的不能の場合、債務不履行の問題ではなく、そもそも契約自体が無効であると考えられています。
法律行為の有効要件のひとつに(別に法律に規定があるわけではありませんが)「実現可能性」という要件があり、実現可能性のない=原始的不能な契約は無効だという理解です。

改正民法では、こういう原始的不能と後発的不能を峻別する考え方を取らず、とりあえず履行が不能な場合はどちらも債務不履行の問題として扱うというルールを明確にしました。

そのうえでの2項です。

これまでは、「原始的不能は契約自体が無効である」ことを前提として、契約締結上の過失の理論(これはマニアックなのでまた別の機会)とかを駆使して損害賠償請求の可能性が確立されていましたが、改正法では、契約自体は有効なので、それを前提に他の債務不履行と区別することなく損害賠償請求の道筋が明らかとなったわけです。
契約締結上の過失による責任と債務不履行責任では、その対象にズレがあります(一般的に前者の方が狭い)ので、改正により債権者に有利になったということができます。


後発的不能の場合については、現行のルールと大した差はありませんね。
条文上明確になったというだけです(文言の問題で、いくらか差は出るかもしれません)。

では、今日はこの辺で。

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