2018年5月16日水曜日

債権法改正について(19)(詐害行為取消権4)

司法書士の岡川です。

債権法改正、今日のテーマは詐害行為取消権。
詐害行為取消権の話も皆さんそろそろ飽きてきた頃じゃないですか?
私は飽きました。

でも、もう終わりです。あと一息!


詐害行為取消権が行使された場合の効果についても条文上細かく規定されるようになりました。

第425条 詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

現行法では、「前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。」と定められており、取消の効力は、その相手方である受益者や転得者に対してのみ(相対的に)生じて債務者には効力が及ばないというルールになっています。
そうすると、例えば「債務者に効力が及ばないのに、取消後の目的物を債務者に返還させる」ことをどう説明するのか?(「債務者にとっては有効」な契約によって引き渡した目的物なので、返すといわれても受け取る理由がない)という問題等もありました。

改正法では、効力の及ぶ範囲として「債務者及び」という文言が追加されました。

ただし、あくまでも、債務者に対して効力が及ぶというだけで、全ての受益者・転得者に対して効力が及ぶというわけではありません。
424条の5でも出てきましたが(参照→「債権法改正について(16)(詐害行為取消権1)」)、改正法では現行法より色んな意味で相対性が限定されているものの、完全に取消しの絶対効までを定めたものではないといえます。


債務者に対して取消の効力が及ぶことになったので、取消後の処理についても新たな規律が必要になります。

第425条の2 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。

第425条の3 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。

第425条の4 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
一 第425条の2に規定する行為が取り消された場合 その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
二 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。) その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

細かくかかれていますが、要するに、契約が取り消された場合は、相互に元に戻しましょうという当然の話です。
現行法では、債務者には効力が及ばないという前提があったので、例えば受益者が債務者に不動産を返したとしても、受益者は債務者に対して「代わりに売買代金を返せ」と請求する権利はありませんでした(不当利得の返還請求という形での解決を図るしかない)。
前提が変わったので、この反対給付の請求権をストレートに認めることになったわけですね。


というわけで、詐害行為取消権の改正はこれで終わりです。
大きく変わっているので、試験勉強している人とかは、整理し直しておきましょう。

では、今日はこの辺で。