2018年1月23日火曜日

債権法改正について(13)(債務不履行に基づく解除)

司法書士の岡川です。

さて今年も債権法改正について。
少し条文は飛びますが、前回までの債務不履行の話に関連して債務不履行に基づく契約解除についても改正されていますので、今回は解除について取り上げます。


まず、541条の改正は、軽微な債務不履行は解除できないという趣旨の但し書きが追加されましたが、これ自体は確立した判例が明文化されたものです。

また、表題が「履行遅滞等による解除権」から「催告による解除」に変わっています。
これは、542条が「催告によらない解除」(いわゆる無催告解除)という表題で整理(現行542条と543条を統合)されたので、それとの対比ですね。

そこで改正542条を見てみると、まず1項は、
・1号は、現行543条本文
・2号は、新設
・3号は、新設
・4号は、現行542条
・5号は、新設
となっており、2項は「一部解除」について新設されました。

新設された条文を個別に見ていきましょう。

542条1項2号 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。


債務者が履行を拒絶している場合に、催告せずに解除できるかどうかは現行法上明確でなく、履行不能の場合に準じてこれを肯定する学説・裁判例もありました。
意思を明確に表示した場合にまで、改めて催告を要すると無駄な労力なので、改正法では無催告解除の一類型として明記されました。
ただし、「拒絶する意思を明確に表示」した場合なので、履行不能に準じるような(催告が無意味な)場合に限定されます。


それから3号は飛ばして、5号は、

542条1項5号 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

ざっくりとした規定ですね。
1~4号に該当しない事案であっても、催告する必要もないような場合は5号で拾われる感じです。
催告したところで、契約の目的を達成できないような場合は、やはり催告は無意味なので、無催告解除が認められます。


それから2項では、「一部解除」について明記されました。

542条2項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

一部が履行不能とか履行拒絶の場合に、その一部のみ解除すれば足りる場合は、その一部の無催告解除が認められることが明確になりました。

他方で、一部のみの履行不能や履行拒絶の場合でも、全部を無催告解除できる場合があります。
それが、さっき飛ばした1項3号に掲げられています。

542条1項3号 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。


現行の543条は、「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。」となっていましたが、一部履行不能の場合に加えて一部履行拒絶の場合も加え、かつ、「残存する部分のみでは契約をした目的を達することができない」という要件が加わっています。


新しくなった文言は以上ですが、現行民法から削除された部分があります。
それが、543条但し書きです。

実はこれが大きな改正になります。

現行543条は、上記のとおり、履行不能の場合に無催告解除ができる旨の規定ですが、但し書きとして「ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」とされていました。

つまり、債務不履行に基づいて解除をするには、「債務者の責めに帰することができない事由」があってはならない、逆にいうと、「債務者の責めに帰することができる事由=帰責事由」の存在が要件とされていました。
これは、543条にしかない規定ですが、履行不能の場合に限らず、履行遅滞の場合についても同様に解されており、「債務不履行解除には帰責事由が必要」というのが、現行法の一般的な解釈(判例)です。

これには有力な批判があります。
すなわち、解除というのは(損害賠償責任と違って)、債務者に対するペナルティではなく、債権者(契約の相手方)が、契約関係から離脱する手段であるから、帰責事由がないという理由で契約関係を維持するのは不合理である。
債務不履行があったら、債務者の帰責事由の有無にかかわらず解除=契約関係の解消を認めるべきであって、帰責事由があれば損害賠償等で解決すればよい。
というかそもそも、履行遅滞の場合に帰責事由が必要なんて条文上書いてないやんけ。

…と。

改正法では、543条但し書きを削ることにより、上記のような「解除は契約関係の解消を目的とする制度なので、債務者に帰責事由があるかどうかとは無関係」という考え方に立つことが明確になりました。
但し書きが削られたことで、解除に関する考え方が大きく変わった(もちろん、実務上も具体的事案での結論が変わってくる)わけですね。
地味に要注意です。


逆に、改正法の543条には次のような条文が新設されます。

第543条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

当然といえば当然なのですけど、債権者に帰責事由がある場合に、債権者から契約解除するのは認められないということです。


あと細かい改正でいうと、545条3項の新設(現行法が誤解を生みかねない表現になっていたため、念のため)と、548条も若干変わってます。
改正548条は、

第548条 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。

現行法の「自己の行為」となっていたところが「故意」となり、さらに但し書きが追加されました。
ということは、「故意も過失もない行為」や、「解除権を有することを知らずにした行為」が要件に当てはまらなくなったということになります。


解除についてはこんなところで終わり。
次は、ずっと飛ばしてた受領遅滞の話に戻ります。

では、今日はこの辺で。

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