2017年10月25日水曜日

債権法改正について(9)(不能による選択債権の特定)

司法書士の岡川です。

今日取り上げるのは、「不能による選択債権の特定」に関する規律の改正。

特にこれだけ1回使って取り上げるほど重要な改正でもないんですが、他の改正とあまり関連性がないので、仕方なく。

とりあえず改正法を見てみましょう。

第410条 債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

前提として、選択債権というものがあります。

一般的に債権というのは、「Aという物の引渡しを受ける権利」といったふうに、その目的が特定されています。
ただ、場合によっては、「債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まる」という契約もあり得ます。

「AかBかCを売る」というような契約も可能なのです。


もちろん、履行すべき債務が特定されないままでは具合が悪いので、実際にどれを給付するかは、どこかのタイミングで誰かが「選択」しないといけません。
この場合の選択権は、原則として(特約がない限り)債務者が有しています(民法406条)。


さて、現行法は、選択債権の一部について給付が不能の場合(例えば「AかBかCを引き渡す」という債権があったとしてAが滅失したような場合)、原則として残存債権のみ請求できる(「BかCを引き渡せ」という債権のみが残る)と規定しています(現行民法410条1項)。

そして例外的に、「選択権を有しない当事者の過失」で給付が不能となった場合は、このルールが適用されない(同条2項)ので、不能となった給付(「Aを引き渡せ」という債権)も選択できることになります。
もちろん、不能となった給付そのものを求めることは無理なので、実際には、不能となった給付を選択したうえで債務不履行に基づく損害賠償請求をすることになりますが。

で、このルールが若干変更となりまして、基本的には不能となった後も(どの給付も)選択可能ということになり、例外が「選択権を有する者の過失による」場合となりました。

一部の給付が不能となった場合のルールをまとめると、こんな感じ。

(現行法)
原則:残存債権のみ請求可能
例外:選択権を有しない当事者の過失による場合、不能となった債権も選択可能

(改正法)
原則:不能となった債権も選択可能
例外:選択権を有する者の過失による場合、残存債権のみ請求可能


例えば、選択権が債務者にある場合において、債権者と債務者の双方に過失がなく一部の給付が不能となった場合を考えてみます。

現行法では、「選択権を有しない当事者(=債権者)の過失によらないから、例外の適用場面ではない」ので、現行法の原則ルールが適用されて、債権者は残存債権のみ請求可能となります。
改正法では、「選択権を有する者(債務者)の過失によらないから、例外の適用場面ではない」ので、改正法の原則ルールが適用されて、債務者は、不能となった給付も選択可能となります。


なんだかややこしいけど、まあ、条文そのままなので、そのまま覚えたらいいですね。

では、今日はこの辺で。

2017年10月5日木曜日

債権法改正について(8)(法定利率)

司法書士の岡川です。

債権法改正の話で、8回目にしてようやく債権法にたどり着きました。

今日は法定利率のお話。

世の中には「利息」というものがあります。
利子ともいいます。

例えばお金を貸して一定期間経ってから返してもらう場合、元々の金額(元金とか元本とかいう)に何%か「おまけ」がついてくるあれです。

で、この利息の額を決める際の、元本に対する割合のことを「利率」といいます。

実は、利息というのは、お金を貸せば当然にもらえるものではなくて、基本的には当事者間で「この貸金に対しては利息をもらうよ」という合意がなければなりません(これを利息契約という)。
例外的に、当然に利息が発生することもあるのですが(例えば、商人間の取引には当然に利息請求権が発生する)。


さて、利息契約があったとしても、利率を定めないこともあります。
普通は「何%の利息を支払う」というふうに利率まで含めて定めるでしょうけど、うっかり「何月何日までに元本と利息を返還する」みたいにざっくりした貸金契約をしてしまうこともあります。
あるいは、特に利息契約をしなくても法律上当然に利息が発生するような場合であれば、無意識のうちに利息は発生しているので、利率を決めていなかったりするかもしれません。

「利息が発生することは確かでも利率が決まっていない」という場合、何%の利息を付して返せばよいのか。
これを定めるのが法定利率です。

現行民法は、法定利率は年5分(1年間に5%)と定めています(404条)。


ただ、イマドキ銀行にお金を預けても0.001%とかいう超低金利時代、5%は高すぎる!という批判がありました。
といっても、消費者金融とか銀行とかでお金を借りたら15%~20%とか普通にとられるし、預金の金利と比較する必然性は無いんじゃなかろうか…とも思わなくもないですが、まあ、とにかく5%は高すぎるというわけ。

そこで、こういう規定になりました。

第404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年3パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
4 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
5 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。


えーい、ややこしい!

ごちゃごちゃ書いていますが、結論的には、「最初は3%だけど3年ごとに変動する(小数点以下切り捨て)」ということです。
詳しい計算式は覚えなくても法務大臣が計算してくれます。
いや、法務大臣は計算しないけど。

ついでにいうと、商法から商事法定利率の規定(現行法では、商行為によって生じた債務の法定利率は年6分)も削除されて、民法に従うことになります。

商事消滅時効の規定も削られて商事法定利率の規定も削られると、商行為かどうかで結論が変わる場面が減りますね。


では、今日はこの辺で。