2015年6月26日金曜日

生前に相続することは?

司法書士の岡川です。


「相続は、死亡によって開始する」


五・七・五で、端的に相続の本質を言い表した見事な川柳です。


嘘です(民法882条の条文です。参照→「法律一発ネタその2」)。


我々のように法律を仕事にしている人間にとっては当たり前すぎることなので、あえて気にすることもないのですが、法律を専門としていない方にとっては、必ずしも「当たり前」ではないようで、たまに誤解されている方がいます。

相続というのは、亡くなった方の権利義務を包括的に(まるっとそっくりそのまま)受け継ぐ制度ですので、例外的な場合(生きてるのに死んだとみなされるような場合)を除けば、必ず人が死んで初めて相続が発生します。

家制度が採用されていた戦前の民法では、「隠居」という制度がありました。
その時代は、戸主が隠居すれば家督相続が開始するので、生前であっても次の戸主に地位が承継されることがあったのです。

現行民法では隠居制度はなくなりましたので、人が生きている間にその人の財産を誰かが相続することなどはできません。


「自分が生きている間に子に全財産を譲りたい」とか、「親が生きている間に親の不動産の名義を自分に書き換えたい」という場合、それは相続とは別の形式になります。

典型的には「贈与」という形が考えられます。
贈与は「契約」ですので、贈与者と受贈者との間の合意で財産が移転します。


生きている間に、死んだ後の財産の承継相手を指定しておきたい、というのであれば、遺言とか死因贈与(生きている間に贈与契約をして、死亡した時にその効力が発生するという内容の贈与)といった方法をとることになります。


相続と贈与では、手続的にも税金的にも色々と違いが出てきますので、まずは専門家に相談しましょう。

では、今日はこの辺で。

2015年6月23日火曜日

特別養子縁組

司法書士の岡川です。

養子というのは、血縁関係のない者同士に法的な親子関係を創設する制度です(参照→「養子縁組」)。
一般的には、当事者の合意(一種の契約)に基づき、役所に養子縁組届を提出することで成立します。
これを普通養子といいます。

これとは異なり、特殊な条件のもとに成立する「特別養子縁組」という制度があります。

今日は特別養子縁組のお話。


ちょっと聞き慣れないかもしれませんが、「藁の上からの養子」という言葉があります。
藁の上・・・すなわち生まれたときからの養子です。

すなわち、血の繋がっていない他人の子を貰い受け、自分(達)の実の子とすることをいいます。
ドラマなんかではありがちな設定ですが、実際にも行われており、それがしばしば問題となっています。

「養子」といっても、法律に則って養子縁組をするわけではなく(それは普通の養子)、勝手に実の子として出生届を出すものです。
いうまでもなく、実子ではないのに実子として虚偽の出生届を出しても無効(実親子関係は成立しない)ですし、養子縁組の届出をしていないから養親子関係も成立しません。
さらに、そういった行為自体も犯罪(公正証書原本不実記載罪)となります。

しかし、色々な事情があって、養子ではなくて実子として貰い受けて育てたいという人たちは存在します。
実は、養子縁組でも実親子関係とほぼ同等の身分関係になる(血のつながりの有無に起因する近親婚の禁止等の規定に違いがあるくらい)のですが、そうはいっても「養子ではなく実子として扱いたい」という要請があったわけです。

そういう要請はありつつも、かつては、血のつながりが無い者同士が適法に実親子となる余地がありませんでした。
そのため、違法に実親子関係を作出する(つまり、バレないように虚偽の出生届を出す)という例が後を絶ちませんでした。

それどころか、堂々とこれを斡旋する医師も出てきました。
これが菊田医師事件です。

もしかしたら、ある程度年輩の方は記憶にあるかもしれません。


そんな背景事情があって誕生したのが、特別養子縁組という制度です。
誕生したのは、昭和62年改正ですから、もう30年近く前の話になりますが。

これは、普通養子以上に、養親子関係を実親子関係に近づける制度です。

具体的には、特別養子縁組が成立すると、実親子関係が断絶します。
普通養子では、実親子関係はそのままで新たに養親子関係が作られますので、子には、実親と養親の両方がいることになります。

これに対して特別養子縁組では、実親子関係は完全に終了します(ただ、近親婚については一定の制限が残ります)。
つまり、実親との関係では、血のつながりはあっても、法律上は、文字通り「親でも子でもない」ことになります。
実親が死んでも相続権は生じませんし、逆に子が死んだときも実親に相続権は発生しません。

そして、特別養子は養親の戸籍に入籍することになりますが、ここには「養子」とも「養親」とも記載されません。
そのため、戸籍上の親子関係は、血の繋がった実親子関係とほぼ同じ形になります。
ただ一点、「民法817条の2による裁判確定」という記載がなされるので、そこから特別養子縁組であることが読み取れますが、それ以外に養子であることを示すような記載は一切出てきません。


このように、他人の子を自分の実子にしたい人にとってはありがたい制度ですが、やはり、身分関係をガラッと入れ替える強力な制度であるため、普通養子縁組のように、気軽に「届出をすれば成立」というわけにはいきません。

特別養子縁組をするには、いくつかの要件があります。

1.養親は夫婦が共同でならなければならない(独身者は不可)。
2.養親は少なくとも一方が25歳以上(もう一方は20歳以上)でなければならない。
3.養子は6歳未満でなければならない。
4.実親の同意が必要

こういった要件を満たし、家庭裁判所に縁組請求を行い、裁判所が「子の利益のため特に必要があると認め」たときに審判によって成立します(これが、戸籍に出てくる「民法817条の2による裁判」です)。
しかも、審判の前提に6か月の試験養育期間が設けられ、その間の監護状況も考慮されます。

もとの実親子関係が断絶し、新たな実親子関係(と同等の関係)を創出する制度なので、とんでもない親と縁組しまっては大変です。
そのため、厳しいチェックが入るわけですね。


特別養子縁組は、血のつながりのないところに実親子関係を作り出す方法として、藁の上の養子の問題を立法的に解決するためにできた制度です。

それでもまだ、虚偽の出生届を出す人(繰り返しですが、無効ですし犯罪です)は後を絶ちません。

これには、要件や手続きが厳格であることと、戸籍上どうしても痕跡が残ってしまうことがネックとなっているのでしょう。
しかし、要件や手続きが厳格なのも、それ相応の理由があるわけですし、痕跡が残るのも、子が自らの出自を知る権利を奪わないためのものです。
そこは理解した上で、上手く利用することが求められます。


せっかくの制度ですから、必要とする方に周知され、もっと活用されるとよいですね。

では、今日はこの辺で。

2015年6月18日木曜日

法律一発ネタ(その10)

司法書士の岡川です。

「コピーライト」(copyright)と「コピーライター」(copywriter)は日本語にすると似てるけど、意味は全然違います(ライトの綴りに注意)。

では、今日はこれだけ。

2015年6月15日月曜日

少年院について

司法書士の岡川です。

神戸連続児童殺傷事件(いわゆる酒鬼薔薇事件)の元少年Aが手記を発表したことが話題になっています。
元少年Aは事件当時14歳でしたので、刑務所に入ることなく、少年法に基づいて少年保護事件として扱われ、最終的に少年院に送致されました。

以前紹介した「保護処分」の話で、少年院の話は後回しにしていましたので、忘れないうちに書いておきましょう(既に忘れてたというのは内緒)。

少年院について規定しているのは、「少年院法」という法律です。

実は昨年、この少年院法が全面的に改正されました。
もっと正確にいいますと、今までの「少年院法」(昭和23年法律第169号)が廃止されて、新しい「少年院法」(平成26年法律第58条)が制定されました。
この新少年院法が今年の6月1日から改正法が施行されています(ただし、一部だけ7月1日施行です)。

つまり、同じ「少年院法」ですが、実は今は去年までとは全く別の法律が施行されているんですね。

どれくらい違うかというと、旧法は20条までだったのに対し、現行の新法は147条まであります。
さらに、少年鑑別所については旧少年院法の中でちょろっとだけ規定されていましたが、少年院法から独立した「少年鑑別所法」という法律が新たに制定されました。


まあそれはさておき、そんな少年院の話です。

少年院とは、非行少年の処遇を行う施設です。
一般的なイメージとしては、「未成年者用の刑務所」といったところでしょうか。

もっとも、それは正確ではありません。
「未成年者用の刑務所」ということでいうと、実は「少年刑務所」という、正真正銘「未成年者用の刑務所」が存在します。

確かに、少年院は、犯罪少年に対する懲役刑を科すために収容する施設としても使われます。
少年法は、「懲役又は禁錮の言渡しを受けた16歳に満たない少年に対しては、・・・16歳に達するまでの間、少年院において、その刑を執行することができる。」と定めており、この規定に基づいて収容される場合に限っていえば、「未成年者用の刑務所」といえます。

しかし、それだけではなく、少年院には「保護処分の執行を受ける者」も収容します。
保護処分の一種として「少年院送致」というものがあり、少年院の役割は、少年刑務所というよりは、むしろ保護処分のための施設というのがメインです。


非行少年には、罪を犯した「犯罪少年」だけでなく、犯罪が成立しない「触法少年」や「虞犯少年」という類型も含まれています。
犯罪少年が通常の刑事手続に乗って刑罰を科されるのではなく、保護処分として少年院に送致されることもありますし、触法少年や虞犯少年が少年院送致がなされることもありえます。

いずれの場合も、保護処分は、犯罪者に対する制裁(刑罰)ではありませんから、受刑者を収容するための施設である刑務所とは本質的に異なるわけです。
そこで行われるのは、「矯正教育」です。


さて、少年院には、第一種~第四種があります。
このうち第一種~第三種が保護処分の執行ための少年院で、第四種が刑の執行のための少年院です。

第四種は旧法には無かった分類ですね。

第三種は、「保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満のもの」を収容する、旧法でいうところの医療少年院に相当します。

旧法は、年齢(16歳前後)によって初等少年院と中等少年院に分かれていましたが、新法ではその区分はせず、第一種にまとめられています。

では、残りの第二種は何かというと、犯罪傾向が進んだ少年を収容するところで、旧法でいうところの特別少年院に相当します。


最初に書いたとおり、少年院法が改正され、非行少年の社会復帰の支援等も細かく法定されました。

非行少年を一生隔離するわけにはいきませんから、いずれ退院して社会で生活することになります。
そのとき再び非行(犯罪)に走ることのないよう、効果的な矯正教育がなされないといけません。

人を更正させるのは、非常に難しいことですけど、改正少年院法がうまく機能すると良いですね。


では、今日はこの辺で。

2015年6月9日火曜日

訴状を受け取らないとどうなる?

司法書士の岡川です。

民事の訴えを提起するときは、必ず裁判所に「訴状」を提出して行います。

実は簡易裁判所では口頭でも訴えを提起することは可能なのですが、実際には、雛型(チェック方式になってたりする)を渡されてとりあえず書面に書くよう案内されます。

この訴状は、裁判所用に1通、そして被告(訴える相手方)に送る用に1通(被告が複数なら、人数分)を用意しておき、両方裁判所に提出します。
裁判所用を「正本」といい、被告に送る用を「副本」と言います。


訴状を提出したら、裁判所で、内容に形式的な誤りが無いかといったの審査を受けまして、誤りがあれば補正を促され、なければ原告(訴えた側です)と第1回口頭弁論期日の日程調整です。

期日調整も終われば、裁判所は、訴状(の副本)を被告に送りつけることになります。

これを、訴状の「送達」といいます。


訴訟手続は、原告と被告という当事者同士の対決ですから、双方の言い分は相手方に届いていることが前提となります。
そこで、訴状も被告に送達されなければ、それ以上手続きを進めることができなくなります。


そうすると、被告が「面倒だから無視してしまえ!」と思って、あえて訴状を受け取らなかったらどうなるか。

訴状の送達は、「特別送達」という特殊な郵便で送られてきます。
これは書留郵便と同じく、訴状がポストに投函されることなく、必ず本人や同居の家族等が受取のサインをしなければならないものです。

となれば、不在者票とかが入っていても無視し続ければ、「訴状を受け取らない」ということが可能になります。


保管期間が過ぎれば、訴状は裁判所に戻ってきてしまいます。

特別送達ができない場合、前回紹介したように、執行官に持って行ってもらうという方法があります。
とはいえ、執行官送達も、執行官の訪問を無視し続ければ、送達不可ということになります。


これを認めると、負けそうな被告は、受取拒否し続ければ裁判を回避できるということになります。
それはあまりにも理不尽です。

そこで、「書留郵便に付する送達」という方法(通称「付郵便送達」)があります。
これは、被告がそこに住んでいることが間違いない場合に用いられるもので、普通の書留郵便で発送する方法です。

付郵便送達の(原告にとって)いいところは、仮に相手が受け取らなくても、発送時に送達があったものとみなされるという点です。

被告にとっては不利な制度なので、いきなり付郵便送達になることはありませんが、そこに住んでいるのに特別送達を受け取らない場合は、原告の申立てで付郵便になることがあります。


付郵便送達がされた場合、被告がいくら「俺は訴状なんか受け取ってないから裁判は無効だ」と主張しても、それは受け取ってないほうが悪いということになります。

付郵便送達という制度がある以上、裁判所からの手紙は、きちんと受け取っておくほうが身のためです。
きちんと受け取ったうえで、適切な対応を考えましょう。



適切な対応・・・とりあえず届いた書面を持って司法書士に相談したりとかですね! (宣伝)

では、今日はこの辺で。

2015年6月6日土曜日

執行官による送達のお仕事

司法書士の岡川です。

一般的には、裁判所からの書類(例えば、期日呼出状とか)は、郵便物として郵便配達員が持っていくのですが、相手が受け取らない場合などに執行官に頼めば、執行官が相手方のところへ直々に持っていく手続をとることができます。
裁判書類の送達は、執行手続ではありませんが、これも執行官の仕事なのです。

これを執行官送達といいます。


といっても、あまり利用はされていません。
なんせ執行官に動いてもらう以上、手数料がかかります(前回ご紹介したとおり、執行官は利用者の手数料が収入となります)。
そして、たいていの場合、郵便で送れば事足りますので、書類を運ぶのにわざわざ数少ない執行官に動いていただく必要はないわけです。

最悪の場合、郵便物を相手が受け取らなくても手続は進められますので、判決をもらいたいだけなら、無理に相手に受け取ってもらわなくてもよい。
逆に、どうしても受け取ってもらって裁判所に出てきてもらいたいなら、執行官に持っていってもらうと良いということになります。

主に利用されるのは、「夜なら家にいるはずなのに!」という場合に、夜間(といっても、常識的な時間なので、夜の11時とか12時とかにはなりません)に持っていってもらうときです(夜間送達)。

夜にいきなり「執行官である!」と言って裁判所の職員が玄関に立ってたら、やっぱりびっくりして受け取っちゃいますよね。
(※「執行官である!」と言うかどうかは未確認です。)


さて、執行官の「お手紙配達業務」ですが、あまり知られてないところ(当社調べ)として、実は、裁判所からの書類だけでなく、私文書の送付もやってくれたりするのです。

それが、執行官法附則9条に規定されています。

(告知書等の送付についての暫定措置)
第9条 執行官は、当分の間、第1条に定めるもののほか、私法上の法律関係に関する告知書又は催告書の送付の事務を取り扱うものとする。

そもそも現行の執行官法ができる前(「執行官」ではなく「執達吏」「執行吏」であった時代)から、文書の送達事務は執行官の仕事でした。

執達吏規則には、執達吏の職務範囲として「裁判外の非訟事件に関する送達」が掲げられており、例として債権譲渡通知や賃貸借契約解約申入の告知などが挙げられています。
郵便制度が今ほど発達していなかった時代にできた制度ですので、重要な法律文書の送達には執行吏が活躍していた(あるいは、期待されていた)のでしょう。

で、今の時代であれば、別にそんなの郵便局に頼んでおけば足りるので、執行官の職務範囲から外すかどうか、というのが現行執行官法制定時に議論はあったのですが、とりあえず暫定措置として「当分の間」職務範囲として残ったわけです。


ま、「当分の間」とかいって、もう50年間も前の話ですけど。


結局、まだ見直しはされていないようです。

といっても、実際のところどれだけ利用されているのかは分かりません。
本当に受け付けてくれるんだろうか・・・?


皆さんも、機会があったら執行官に催告書の送付を頼んでみてくださいね。


では、今日はこの辺で。