2015年3月31日火曜日

少年法と刑事手続

司法書士の岡川です。

少年法については、とりあえず今回で最後・・・だと思います。

少年法によると、成人であれば刑罰という制裁が科されるような犯罪を行った者(犯罪少年)も含めて、非行少年は、通常の刑事訴訟手続とは別の少年保護手続に乗ることになります。

そこでは、少年審判という手続が行われるわけですが、これは罪に問うための手続ではなく、国家による再教育のための方法が検討されます。
その中心的な処分が、保護観察や児童自立支援施設等への送致などの保護処分です。


しかし、少年(20歳以下の人)であればどんな違法なことをしても罪に問われることはないというのでは、法秩序を維持するうえで不合理ですし、被害者や社会の納得も得られません
また、「何をやってもお咎めなし」というのでは、そもそも少年の教育という面からもよろしくない。


そこで、少年であっても常に刑事処分が排除されているわけではなく、刑事事件として扱われることがあります。

ただし、通常の手続とは異なる特則が少年法に設けられています。

つまり少年法は、少年事件に特有の「保護処分」についてと、少年事件に適用される「刑事事件の特則」についての、の二本立てとなっているのです。
少年法の目的としても、「非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずる」と定められています。

ベタな言い方でいうところの「車の両輪」ってやつですね。


では、少年法が規定している刑事手続の特則とはどのようなものでしょうか。

まず、刑事事件として裁判所(地方裁判所や簡易裁判所)に行きつくまでの流れが違います。

何度も繰り返している通り、警察で受理された少年事件(ここでは犯罪少年に限定しましょう)は、軽微な犯罪を除いて検察に送致され、全ての事件がまず家庭裁判所に送致されます(全件送致主義)。

その後、家庭裁判所の審判を経て、刑事処分が相当だと判断されると、今度は家庭裁判所から検察官に送致されます。
これを「逆送」といいます。
特に、殺人などの重大犯罪では、原則として逆送しなければなりません。
これは、2000年の改正で新設された制度です。

そして、逆送された事件は、(一部の例外を除き)必ず起訴しなければなりません。
通常の(成人の)事件では、被疑者を起訴するかしないかは検察官の裁量に委ねられているのとは異なります。

その後は、細かい違いはあるものの、基本的には通常の刑事手続が始まります。


手続だけでなく、刑事処分にも少年法は特別の規定を設けています。

まず、懲役や禁錮は、成人とは別の施設(少年刑務所や少年院)に収容されることになります。

それから、18歳未満の少年については刑が緩和されています。
有名なところで、18歳未満の少年には死刑を科すことができません(死刑相当の事件は無期刑となる)。
また、無期刑相当の事件でも有期刑を科すことができるとされています(以前は、必ず有期刑となっていましたが、現行法は裁判官の裁量に委ねられています)。

少年法特有のものとして、「不定期刑」というものもあります(罪刑法定主義によって禁じられている「不確定刑」とは異なります)。
これは、「○年以上○年以下の懲役」のような形で言い渡される刑です。

少年は心身ともに発展途上であることから、改善更生の程度にあわせて、刑期を終える時期についても柔軟に対応することができるようになっているのです。


少年法は、罪を犯した少年に対しても寛容な態度で臨む規定となっていますが、18歳以上の少年は死刑になることもありますし、それ未満の少年であっても無期懲役になる可能性はあります(なお、「無期懲役でも数年で出てこれる」というのはガセです)。
そして、過去何度も行われた少年法改正により、少年にも厳罰化が進んでいます。

そしておそらく今後も、厳罰化は少しずつ進んでいくと思われます。


少年法のあり方は、「少年犯罪を減らすにはどうすべきか」という視点から考える必要があります。

それは、少年を「保護すべき対象」といって甘やかせばいいものでもないし、やみくもに厳罰化していけばよいというものでもありません(例えば、犯罪者を全員死刑にすればそれで社会がよくなるかというとそうでもない)。


個人的には、「制裁」も「教育」も足りていないのだろうなあと感じています。
その意味で、少年法改正の余地はまだまだありそうです。

というわけで、長々と続けてきた少年法シリーズも今日で終わりです。
長々と続いたのは、ちょっと色々あって更新頻度が減ったせいですが。

明日から新年度。
もう少し更新ペースを戻していこうと思います。


では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年
2.少年法の意義と理念
3.少年法における手続と処分
4.少年審判が始まるまで
5.少年審判とはどんな手続か
6.保護処分について
7.少年法と刑事手続  ← いまここ

2015年3月24日火曜日

保護処分について

司法書士の岡川です。

更新が遅いせいで、まだまだ少年法の話が続きます。
今日は保護処分の話。

罪を犯した場合、刑事訴訟手続を経て、懲役や罰金等の刑罰(制裁)を科されるのが基本です。

しかし、少年に非行があった場合、まずは家庭裁判所での審判があります。
家庭裁判所では、その非行少年に「刑罰を科すかどうか」を判断することはありません。

審判の中で非行事実(犯罪も含む)と要保護性が認められた場合に家庭裁判所が下す最終的な判断の中心となるのが「保護処分」です。
保護処分も終局的な判断なので、保護処分となった少年は、そこからさらに刑事処分が行われることはありません。

犯罪少年も含め、非行少年に対しては、基本的に刑事処分ではなく保護処分で対応するというのが少年法の基本的な考え方です。

これが「少年が守られ過ぎている」という批判の対象にもなるわけですが、成人の場合も常に「罪を犯せば必ず刑罰が科される」というものではなく、微罪処分やら起訴猶予やら執行猶予といった制度が用意されており、しかも終局処分の大部分を占めています。
「刑罰を科さずに更生を図る」という考えは、必ずしも少年法特有のものではないのです。


さて、保護処分には、次の3種類あります。
  • 保護観察
  • 児童自立支援施設等送致
  • 少年院送致

いずれも、非行に対する制裁ではなく、「非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整」を行うための処分です。


保護観察というのは、少年院や自立支援施設などの施設に収容するのではなく、かといって野放しにするのでもなく、通常の社会生活を送りながら、保護司や保護観察官の指導監督と補導救護により更生を図る手続です。

保護観察については、実は少年法ではなくて更生保護法という法律に規定されています。
というのも、保護観察は少年法特有のものではなく、例えば仮釈放された人とか執行猶予になった人なども、保護観察に付されることがあります。

保護観察中は、色々な遵守事項が定められており、保護観察官や保護司の面接を受けたり、生活状況の報告をする義務を負っています。


保護処分として保護観察の次に多く用いられるのは、少年院送致です。
少年院は、「未成年者が入る刑務所」といったイメージもあるかもしれませんが、少年院は、必ずしもそうではありません。
刑務所は制裁としての懲役を科す施設であるのに対し、少年院は保護処分として収容される(場合もある)施設だからです。

少年院にもいろいろあって説明が長くなるので、また今度の機会に。


それから、件数としてはあまり多くは無いですが、児童自立支援施設や児童養護施設への送致という保護処分もあります。
文字通り、児童自立支援施設や児童養護施設へ送るわけですが、これらの施設のこともまた機会があれば。


さて、少年法では刑事処分より保護処分が優先されます。
かといって、どんなに凶悪事件であっても常に保護処分で終わるというわけではなく、少年であっても刑事処分が科される場合もあります。

もっとも、家庭裁判所は、有罪無罪を言い渡す権限を有していませんので、刑事処分が相当だと判断すれば、いったん検察官に事件を戻して、検察官から地方裁判所や簡易裁判所に起訴してもらう必要があります。

検察官に送致する手続を「逆送」といいます(検察官から送致された事件を検察官に戻すのでこう呼ばれます)。

少年の刑事事件については、また次回です。


では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年
2.少年法の意義と理念
3.少年法における手続と処分
4.少年審判が始まるまで
5.少年審判とはどんな手続か
6.保護処分について ← いまここ
7.少年法と刑事手続 

2015年3月19日木曜日

少年審判とはどんな手続か

司法書士の岡川です。

川崎市の中学1年生殺害事件で逮捕された少年が家裁送致になったようですね。
ブログの更新をノロノロとしていたら、図らずも現実の事件の手続と進み具合が一致しました。

警察に逮捕された18歳の少年A(犯罪少年)は、通常の刑事手続と同様に検察官に送致(いわゆる「送検」)されており、次のステップとして検察官から家庭裁判所に送致されました。
検察がいきなり起訴するのではなく、まずは家裁へ全件送致が少年事件の原則です。


さて、家庭裁判所では、少年審判が開始することになります。

何度も繰り返しになりますが、少年審判は刑事訴訟とは異なります。
訴追する側の検察官と弁護する側の弁護人が法廷でバトルを繰り広げることはありません。

少年法22条は、「審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない」と規定しており、司法的機能だけでなく、福祉的機能を有するとされています。
これまた訴訟手続とは違って、少年審判は原則として非公開ですが、平成20年の少年法改正により、一定の事件において被害者が傍聴することができるようになっています。
法を適用して有罪か無罪かを決める訴訟と違い、個別の非行少年の問題に対応しなければならないので、裁判官の裁量が大きいのも特徴です。


少年審判では、少年の要保護性と非行事実が審判の対象です。
つまり、非行少年について保護の必要性(再非行の危険性や矯正可能性など)と、非行事実が審理され、少年の処遇が決められることになります。

審判廷には、少年や裁判官・書記官が出席するのはもちろんですが、場合によっては、家庭裁判所調査官、保護者、付添人(保護者や弁護士等)、その他相当と認められる者(例えば担任の教員など)が出席することもあります。
非行事実の認定のため、検察官が出席することもあります(審判に検察が関与する場合は、少年側に必ず弁護士の付添人がつくことになります)。


審理の結果、最終的には、家庭裁判所は何らかの最終決定を行います。
具体的には、
  • 保護処分をする
  • 刑事処分が相当として検察官に送致する(逆送)
  • 児童福祉法上の措置が相当として都道府県知事や児童相談所に送致する
  • 処分しない(不処分決定)
のいずれかとなります。

保護処分や児童相談所等へ送致される場合は、刑罰を科されることはありません(処罰ではなく教育が行われる)。
他方、検察官に送致されると、ここから通常の事件と同じように刑事訴訟手続(いわゆる刑事裁判)に移行することになります。


川崎のような事件では、原則として逆送されることになります。
なので、この事件が逆送される前に、次回は先に保護処分について紹介しておきましょう。

では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年
2.少年法の意義と理念
3.少年法における手続と処分
4.少年審判が始まるまで
5.少年審判とはどんな手続か ← いまここ
6.保護処分について
7.少年法と刑事手続 

2015年3月18日水曜日

少年審判が始まるまで

司法書士の岡川です。

さて、低速更新の少年法シリーズですが、少年保護事件の中核となる「少年審判」について書こうと思います。

おさらいですが、少年保護事件では、非行少年は家庭裁判所の審判(少年審判)に付されることになります。

実際には、審判に付されない(家庭裁判所において、審判不開始の決定がなされる)場合も多いことは前回書いたとおりですが、審判に付すか付さないかはともかく、多くの事件が家庭裁判所に送られてきます。

今日取り上げるのは、どういう流れで家庭裁判所に送られてきて、審判が始まるのかという話です。

一般の刑事事件では、警察に検挙されて、警察から検察に送致(送検)されて、検察が裁判所に起訴すれば訴訟が始まります。
しかし、少年審判は、これとは少し違った流れになっており、そもそも管轄からして違います(通常の刑事事件は、地方裁判所や簡易裁判所ですが、少年審判は家庭裁判所で行われます)。


警察や検察が受理した少年事件で、犯罪の嫌疑があるもの、つまり犯罪少年の事件は、全て家庭裁判所に送られることになります。
犯罪の嫌疑がなくても、審判に付すべき事由があると思料される場合も同様です。
一般の刑事事件のように、警察が微罪処分で事件を終わらせたり、検察が不起訴処分で事件を終わらせたりするようなことはありません。

少年保護手続は、少年の処罰を目的としたものではないので、仮に犯罪事実が軽微であり、刑事処分がなされることがない事件(不起訴になるような場合)であったとしても、捜査機関限りで事件を終了させることなく、必ず家庭裁判所が少年の要保護性を判断することになるのです。
これを「全件送致主義」といいます。
もちろん「全件」といっても、犯罪の嫌疑がなく、審判に付すべき事由もないような場合まで送致されるものではありません。

また逆に、犯罪の嫌疑があるからといって、検察官がいきなり地方裁判所や簡易裁判所に起訴することもできません。


犯罪少年は、警察から直接家庭裁判所に送致される場合(罰金以下の刑にあたる犯罪)もありますし、通常の刑事事件のように一度検察官に送致され、検察官から家庭裁判所に送致される場合もあります。
触法少年は、警察から検察に送致されるのではなく、児童相談所長に送致されることがありますが、そこからさらに家庭裁判所に送致されることもあります。
虞犯少年についても、審判に付すのが適当な場合は、警察から家庭裁判所に送致されることになります。

このように、少年の非行事件は、犯罪の嫌疑も審判の必要性もない場合や、児童福祉法上の措置が取られる場合などを除けば、全て家庭裁判所に集められることになります。

その後の手続は、どの類型の非行少年でも同じです。
家庭裁判所に送致された事件で、審判を開始するのが相当であると認められたものは、審判開始の決定がなされます。

このようにして家庭裁判所での審判手続が開始されるわけですが、そこで決めるのは「有罪か無罪か」ではありません。



少年審判の具体的な手続については、また次回に。

では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年
2.少年法の意義と理念
3.少年法における手続と処分
4.少年審判が始まるまで ← いまここ
5.少年審判とはどんな手続か
6.保護処分について
7.少年法と刑事手続 

2015年3月13日金曜日

少年法における手続と処分

司法書士の岡川です。

ちょっと間が空いてしまいましたが、前回に引き続き少年法の話の続きです。

少年法が適用されるのは、罪を犯した少年(犯罪少年)に限らず、触法少年や虞犯少年を含めた「非行少年」であることは以前説明しました。
ということは、少年法における手続は、必ずしも刑事手続逮捕されて起訴されて判決を受けて刑が執行される)とは限らないわけです。

少年法では、3類型の非行少年を「審判に付すべき少年」としており、「家庭裁判所の審判に付する」と規定しています(少年法3条)。
この審判を「少年審判」ともいいますが、ここでいう「審判」は、審理と判断を含めた手続の全体を含む意味です。

つまり、犯罪少年も含めた全ての非行少年については、「刑事事件」ではなく「少年保護事件」として扱われ、地方裁判所や簡易裁判所における「刑事手続」とは別の、家庭裁判所における「保護手続」に乗ることになります。


一般的には、ニュースになるような少年事件は、警察に検挙された犯罪少年が家庭裁判所に送致された事件多いと思われます。
その他にも、一般市民からの通告や家庭裁判所調査官からの報告、14歳未満の少年については都道府県知事や児童相談所長からの送致によっても開始されます。


少年保護手続の対象には犯罪少年も含まれているとはいえ、「犯罪者を裁く」ことを目的としたものではなく、少年を更生させ、再発防止を目的としたものです。
刑事事件のように「有罪か無罪か」を決めて終わりではないので、家庭裁判所に事件が受理された後の非行少年の処遇については、いろいろなルートに分かれます。

まずは、少年審判を開始するかしないか。
家庭裁判所は、「審判を開始するのが相当であると認めるとき」は審判開始の決定をし、そうでない場合(非行事実が認められない場合や、審判に付す必要がないと判断される場合)は審判不開始決定がなされます。

実は、家庭裁判所における平成25年の既済の保護事件約12万件のうち、半数近くの約54,000件が審判不開始決定で終わっています。


審判開始決定の後は、いろいろと審理が行われて結論が出されるわけですが、次のようなものがあります。

非行少年に対して家庭裁判所が何らかの処分を行うのが相当である場合。

家庭裁判所が非行少年に言い渡す処分を「保護処分」といいますが、保護処分には、保護観察処分、児童自立支援施設や児童養護施設への送致、少年院送致の3種類があります。

保護処分決定がなされたのが約24,000件で、そのうち約20,000件が保護観察で多数を占めます。
少年院送致は3,000件くらいで、児童自立支援施設等への送致は約300件程度です。

犯罪少年の処遇につき、刑事事件に移行させるのが適当な場合は、検察官送致決定がされます。
検察官から家庭裁判所に送致されてきたものを、また検察官に送致するので、これを俗に「逆送」といいます。
逆送されるのは、約5,000件ですが、そのほとんどが道路交通法違反か年齢超過(20歳以上)というパターンです。


その他、児童相談所等に送致されるという処分も少しあります。

保護処分も検察官送致も児童相談所装置も必要が無い、というような場合は、不処分決定がなされます。
これが約21,000件と、保護処分と同じくらいあります。


審判不開始と不処分決定で6割以上を占めるわけですが、一般の刑事事件の起訴率も3~4割程度(つまり、6~7割は不起訴)なので、少年事件でも同じくらいの割合で何らかの処分がなされているということですね。


というわけで、今回は、少年事件ではどういう手続があるのかの概要をご紹介しました。

次回は、少年審判の話か、保護処分の話か、刑事手続の話か、その辺をする予定。

では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年
2.少年法の意義と理念
3.少年法における手続と処分 ← いまここ
4.少年審判が始まるまで
5.少年審判とはどんな手続か
6.保護処分について
7.少年法と刑事手続 

2015年3月8日日曜日

少年法の意義と理念

司法書士の岡川です。

凶悪な少年犯罪が起こるたびに少年法の改正が主張されてきました。
そして実際に度々少年法は改正され、より少年に対して厳しい処分が下されるように変化しています。
最近の改正は、約1年前にあった有期刑の上限の引き上げであり、このブログでも取り上げています(→「少年法改正」)。

今回の事件でも、例にもれず少年法改正の声は大きくなっています。
また何らかの改正があるかもしれません。

少年法は、何度改正されても批判は尽きません。
それも、「少年法のここが悪い」とか「少年法のこの規定は削除すべき」といった批判ではなく、非行少年が「少年法によって守られている」ことそのもの、いわば少年法の根幹自体に批判が根強いのが、この法律に対する批判の特徴のように思います。

そんなに批判の強い少年法は、何のためにあるのでしょうか。


少年法の目的は、1条に「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と規定されています。
つまり、非行少年の健全な育成のために、保護処分や刑事手続の特則について定めているのが少年法です。


何故そんなことをする必要があるのかというと、まずは大前提として、全ての子供には、「健全に成長し発達を遂げる権利」(成長発達権)があります。
これを否定してしまうと話が進まないので、とりあえず、一般論として(非行少年か善良な少年かを問わず)この権利は認められているものとして考えて下さい(実定法上の根拠としては、憲法13条、26条、児童の権利に関する条約など)。

少年は、精神的・肉体的・社会的に未成熟であり、判断能力が不十分な存在です。
そのような存在でありながら大人と同じ社会の中で生きていくことになるので、少年が成長するまでは、大人が保護し、援助する責任があります。

少年に限らず、人が罪を犯すのには、遺伝的要因や環境的要因など、様々な要因が考えられます。
そして特に少年犯罪は、未成熟な少年が劣悪な環境の下に置かれていた(つまり、健全に成長し発達できなかった)ことにより引き起こされるという側面が強いのです。
少年の健全育成に失敗し、非行に追いやったのは、当の少年自身だけではなく、周りの環境(親や社会)の責任も大きいのです。

そして同時に、少年は、未熟であるがゆえに更生する可能性が大人より大きい(可塑性がある)と考えられます。

よって、非行少年が(再び)罪を犯すことのないよう、国家が教育と矯正に介入し、保護しようというのが少年法の理念です(保護主義)。


もっとも、少年法は、少年自身の責任や、「制裁」としての刑事処分を否定しているわけではありません。
14歳未満の少年については、少年法以前に刑法において刑事処分の対象から外されていますが、犯罪少年が犯した罪に対する第一次的責任が少年に帰属することは、大人と違いはありません。
「そのような少年に育ってしまった」ことに対して、親を中心とする社会の責任があるにせよ、少年の犯罪行為に対する刑事責任は、当然その少年にあります。
少年法は、そこまで誰かに「責任転嫁」する法律ではありません。
究極の場合、少年であっても死刑になる可能性は残っているのです。

ただ、未成熟で可塑性のある少年に対し、どのように処遇するのが少年の保護になり、また同時に(少年犯罪を減らすという意味で)社会の利益になるのかを考えて、刑罰とは異なった処分(保護処分)や、刑事手続の特例が用意されています。

少年法で大人より懲役刑の上限が軽くなるのも、「子供のしたことだから大目に見てやる」という意味ではなく、長期間の懲役が逆に少年の更正(ひいては犯罪の抑止)に逆効果だと考えられるからです。

その辺のバランスが難しく、過剰に保護しがちである(と世間から見られる)ことが、しばしば批判の対象となるわけです。


なお、最近、「少年法は戦後の混乱期に飢えて犯罪に走る少年たちを保護するためにできたものであるから、少年法は現代の状況に合っていない」という主張を聞きます。

現行の「少年法」という法律の成立時期については正しいのですが、現行少年法は、旧少年法を全面改正(廃止して新たに制定)したものであり、少年の保護を目的とする少年法自体は大正時代から存在するのです。
そもそも近代的な少年法の考え方は19世紀後半頃に欧米で成立したもので、それが日本にも取り入れられて日本の少年法となったのです。
決して戦後の混乱期の日本という特殊な状況のみを想定した法律ではありませんし、現代でも世界中に同様の少年法制が存在しています。

そして、健全育成の失敗という意味では、状況は変わっていません。

多くの非行少年は、虐待されたり、暴力にされされて育っているという調査があります。
少年が非行に走るのは、貧困だけでなく、虐待や暴力といった要因もあり、現代ではその要因が大きい。
その意味で、少年法の必要性は戦後も今も変わらず存在しています。

実際に、川崎の中1殺害事件の主犯格とみられる18歳の少年は、虐待を受けていたという情報がありますし、飲酒が許容されていた等、かなり劣悪な教育環境に合ったことが窺われます。
まさに、健全育成の失敗から犯罪少年が生まれた事例がここにあるわけです。


確かに「少年法により殺人犯が守られる」ということは、なかなか心情的に納得し難いものです。
特に14歳以上の少年は、刑事責任が否定されていないのですから、あまりに守られ過ぎていると法制度に対する国民の不信も高まります。

窃盗や、せいぜい暴行傷害程度ならまだしも、殺人まで犯したような場合、もはや矯正とか更正とか立ち直りとか社会復帰とかいうことを考える段階は終わっているのではないか?
そういう素朴な疑問に、納得できるように理屈で説明するのは難しいのかもしれません。

例えば、川崎の少年は、日常的に暴力行為があった(それ自体が暴行罪や傷害罪であるから既に犯罪少年である)のであるから、そこで「健全育成」のための矯正ができていなかったのが悔やまれるところです。


少年法が話題になるときは、衝撃的な少年犯罪が起こったときですから、少年法の存在意義を説明してもモヤモヤしたものが残ってしまいます。

次回は、是非はさておき現に少年法は存在するのだから、実際に少年事件はどのような手続になるのかをご紹介します。

では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年
2.少年法の意義と理念 ← いまここ
3.少年法における手続と処分
4.少年審判が始まるまで
5.少年審判とはどんな手続か
6.保護処分について
7.少年法と刑事手続 

2015年3月3日火曜日

少年法が対象とする少年

司法書士の岡川です。

少年(20歳未満の者)が犯罪を行っても「少年法に守られている」といわれます。
事実、守られているのですが、具体的にはどう守られているのでしょうか。
改めて少年法について書いていこうと思います。


そもそも少年法は、犯罪少年(罪を犯した少年)だけを対象とした法律ではありません。
少年法1条には、「非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」とあり、「非行少年」が対象とされています。

この非行少年には、「犯罪少年」「触法少年」「虞犯少年」の3種類があります(「虞犯」は「ぐはん」と読みます)。

「犯罪少年」は文字通り犯罪(に該当する行為)をした少年です。
「殺人」とか「窃盗」とか、刑法その他の刑罰法令に規定された行為をすれば、一般的には「罪を犯した」ということになりますが、刑法41条に「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と規定されているため、14歳未満の行為では犯罪が成立しません。
誤解している方もあるかもしれませんが、14歳未満に犯罪が成立しないというのは少年法の規定ではなくて、刑法の規定なのです。
そのため、「犯罪少年」とは「14歳以上20歳未満で、刑罰法令に違反する行為をした者」ということになります。

では、責任年齢14歳未満の少年の場合はどうなるかというと、「14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年」という類型に該当します。
これを「触法少年」といいます。

14歳未満では犯罪が成立しないので、何をやっても刑事処分の対象とはなりませんが、少年法ではそういう少年も非行少年の中に含めて保護処分の対象としています。

さらに、一定の事由(虞犯事由)があって、その性格や環境に照らして、将来罪を犯したり刑罰法令に違反するおそれ(虞犯性)がある少年も非行少年に含まれます。
これを「虞犯少年」といいます。

虞犯事由としては、

  • 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
  • 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
  • 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
  • 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。

の4つが挙げられます。

刑法は、必ず「罪を犯した人」に対して適用され、「罪を犯しそうな人」を処罰の対象とすることはありません。
そんなことをすれば、処罰の対象が際限なく広がり、国家が国民の権利、自由を不当に制約することになるからです。

※(やや専門的なので読み飛ばしてもよいですが)犯罪論では、犯罪という事象の客観面を重視し、具体的な「行為」を刑罰の対象とする考え方を客観主義といいます。これに対して、刑事責任の基礎を「悪い性格」とか「性格の危険性」に求める考え方を主観主義といいます。主観主義では、犯罪行為は、行為者の危険な性格の表れ(徴表)と考え、行為それ自体ではなく、そこに表れている性格を問題とします。そうであれば、極論すれば、実際に犯罪行為がなくても、その危険な性格を認識できれば、処罰の対象とすることが正当化され得ることにもなります。そこで、現代の日本では基本的に客観主義に立脚した犯罪論が支配的となっています。(以上、細かい解説終わり)

ただし、少年法は必ずしも非行少年を処罰することを目的とした法律ではありません。
虞犯少年が、犯罪少年や触法少年になってしまう前に、その性格を矯正するための措置を取ることができるようになっています。


実際に上手く機能しているかどうかはさておき、少年法の理念や目的には色々な側面があります。
虞犯少年が少年法の対象となっていることからも分かるように、少年法は、単に「犯罪少年の刑を軽くするための法律」ではありません。
罪を犯した少年の再犯を防ぎ、罪を犯す前の少年の犯罪を防ぐというのも少年法のひとつの側面なのです。

次回、少年法の理念とか目的とか、その辺の話をしようと思います。

では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年 ← いまここ
2.少年法の意義と理念
3.少年法における手続と処分
4.少年審判が始まるまで
5.少年審判とはどんな手続か
6.保護処分について
7.少年法と刑事手続

2015年3月2日月曜日

少年犯罪の「質」の変化

司法書士の岡川です。

名古屋大学の女子学生による老女殺害事件。
川崎の中学1年生殺人事件。

いずれも最近起きた衝撃的な少年犯罪です。


凶悪な少年犯罪というのは、昔からしばしば発生しており、決して増加しているわけではありません。
統計でみれば少年事件はここ10年で減少傾向にあり、特に凶悪犯(殺人や強盗など)の減少が著しい。

さすがに最近は、テレビで「少年犯罪が増えている」という解説をする人はあまりいませんが、その代わり、「少年犯罪の質が変化している」とか「少年犯罪が凶悪化している」といった薄っぺらいコメントをするコメンテーターは根強く存在します。

彼らは、印象だけで喋っているのでしょうが、テレビで話題になるような事件は、もともと凶悪で異常なものなのです。
そして、そういう事件は今に始まったことではありません。

例えば、佐世保の小6女児同級生殺害事件は2004年なので11年前、光市母子殺害事件は1999年なので16年前、神戸児童連続殺人事件(いわゆる酒鬼薔薇事件)は1997年なので18年前、山形マット死事件は1993年なので22年前、女子高生コンクリート詰め殺人事件は1988年なので27年前の事件です。

それより以前にも、有名な凶悪少年犯罪はいくつも発生しています。
そしてそのたびに世間に衝撃を与えてきたのです。

死刑を選択する際の、いわゆる「永山基準」で有名な永山則夫事件も少年事件であり、これは1968年ですから47年も前の事件です。


「質が変化した」というコメントする方々は、何をもって「質」といい、それがどう変化したと言っているのでしょうか。

確かに、インターネットやスマホ、SNSやソーシャルゲームといったツールが普及し、犯行の動機、経緯、背景等は変化しました。
それによって、全く新たな形態の犯罪(出会い系サイト詐欺とか)が発生したというのは事実です。
しかし、それらが無かった事件に異常な行動をする少年がいなかったかというとそうでもないし、残虐な殺害方法が無かったかといえばそんなこともありません。
殺人事件等の凶悪犯罪に関していえば、別に「質」は変化していないでしょう。
昔も今も、凶悪なことに変わりはありません。

「首を切断して校門の前に置く」という行動を起こした少年が現れたのは、スマホはもちろん、パソコンもそれほど普及していなかった頃の話です。
集団で「女子高生を誘拐し、強姦し、監禁し、暴行し、コンクリート詰めにして遺棄する」という行動を起こした少年らが現れたのは、さらにその10年近く前の話です。
昔から、ナイフで首を切ったり、集団で暴行して殺害したりという話はあったのです。

少年か成年かにかかわらず、世間に衝撃を与える凶悪な犯罪は、常に発生し続けてきました。
凶悪な犯罪を防ぐのに、昔との「質の変化」なんか考えても仕方がない。
そういう犯罪は、毎回「異質」なのですから、「昔」と「今」で犯罪の質が変化したのではなくて、「前回の事件」と「今回の事件」が違っていたというだけの話。

そして、時代とか社会の変化のようなところに、特異な凶悪犯罪の本質はありませんし、異常な凶悪犯罪を防止する手がかりもありません。

少年犯罪が報道されるたびに、薄っぺらいコメントをテレビで聞くことになるのでウンザリです。

では、今日はこの辺で。