2015年12月26日土曜日

「事件」の「被告」になるということ

司法書士の岡川です。

法律用語と日常用語の意味が異なることはよくあることです。

日常用語としてぼやっとした意味で使っているけど、法律用語としては厳密な意味が決まっている場合は気をつけて使わないといけないのですが、逆に、法律用語としては大した深い意味はないのに、一般の人にとっては身構えてしまうような用語というのもあります。


まず「被告」という法律用語。

ニュースでもよく聞きますね。
殺人事件の被告に死刑が言い渡されたとか。

ニュース等では、刑事事件起訴された人を「○○被告」として報道されるので、「被告」という用語には犯罪者のイメージが付きまといます。

しかし、何も悪いこと(犯罪)をしていなくても、誰でも「被告」になる可能性があります。

「被告」というのは、法律用語では、民事事件で「訴えられた側」を意味します。
民事事件というのは、金銭や人間関係の問題ですので、当事者が自由に訴えることができ、訴えられたら誰もが「被告」になります(訴えた側は「原告」といいます)。

訴えられた人が、訴状等で「被告」と呼ばれることに対して、「犯罪者扱いされた」と怒ることがありますが、法律用語としては全くそのような意味はありません。
ただ単に「訴えられた人」というだけのことで、それ以上の意味はないのでご安心ください。

逆に、法律用語としては、刑事事件で起訴された人のことは「被告人」といい、「被告」とはいいません。
刑事事件で起訴された人を「被告」と呼称するのは典型的なマスコミ用語です。

私も司法書士として「被告の代理人」をすることがありますが、これは犯罪者の弁護人になっているわけではありません。



それから、「事件」という単語にも悪いイメージがあるかもしれません。

「事件」と聞けば、何となく、会議室ではなく現場で起きるようなモノ、例えば殺人とか強盗とかをイメージしがちです。

ドラマでは「これは事故ではなく事件だ」とかいう言い回しもよく聞きます。
ここでいう「事件」は、殺人=犯罪の意味になります。


が、もちろん、「事件」というのは犯罪のことではありません。

「民事事件」といういい方もあるとおり、「事件」はもっと広く、ニュートラルな意味です。

すなわち、「事柄」とか「案件」くらいの意味しかありません。
オシャレに「ケース」といってもよいですね。

裁判所では、審理の対象となる事柄を全て「事件」といいます。

誰かが誰かを「金返せ」と訴えれば「貸金返還請求事件」となります。
成年後見人をつけてほしいと申し立てれば、「後見開始審判申立事件」となります。

なので、それぞれのケースで「この事件は…」とかいわれても、別に何か犯罪が起こったわけではありません。
「事件の当事者」といわれても、別に犯人扱いされているわけではありません。

裁判所だけでなく、司法書士や弁護士のように、裁判手続にかかわる人間も、それぞれのケースを全部「事件」と呼びます。


「事件の被告になった」というと何だか悪人のような感じがしますが、実は犯罪とは何の関係もないことになります。

本当に何の関係もないので、「事件の当事者」とか「被告」とかいわれても、怒らないで冷静に対処してくださいね。

では、今日はこの辺で。

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