2015年3月8日日曜日

少年法の意義と理念

司法書士の岡川です。

凶悪な少年犯罪が起こるたびに少年法の改正が主張されてきました。
そして実際に度々少年法は改正され、より少年に対して厳しい処分が下されるように変化しています。
最近の改正は、約1年前にあった有期刑の上限の引き上げであり、このブログでも取り上げています(→「少年法改正」)。

今回の事件でも、例にもれず少年法改正の声は大きくなっています。
また何らかの改正があるかもしれません。

少年法は、何度改正されても批判は尽きません。
それも、「少年法のここが悪い」とか「少年法のこの規定は削除すべき」といった批判ではなく、非行少年が「少年法によって守られている」ことそのもの、いわば少年法の根幹自体に批判が根強いのが、この法律に対する批判の特徴のように思います。

そんなに批判の強い少年法は、何のためにあるのでしょうか。


少年法の目的は、1条に「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と規定されています。
つまり、非行少年の健全な育成のために、保護処分や刑事手続の特則について定めているのが少年法です。


何故そんなことをする必要があるのかというと、まずは大前提として、全ての子供には、「健全に成長し発達を遂げる権利」(成長発達権)があります。
これを否定してしまうと話が進まないので、とりあえず、一般論として(非行少年か善良な少年かを問わず)この権利は認められているものとして考えて下さい(実定法上の根拠としては、憲法13条、26条、児童の権利に関する条約など)。

少年は、精神的・肉体的・社会的に未成熟であり、判断能力が不十分な存在です。
そのような存在でありながら大人と同じ社会の中で生きていくことになるので、少年が成長するまでは、大人が保護し、援助する責任があります。

少年に限らず、人が罪を犯すのには、遺伝的要因や環境的要因など、様々な要因が考えられます。
そして特に少年犯罪は、未成熟な少年が劣悪な環境の下に置かれていた(つまり、健全に成長し発達できなかった)ことにより引き起こされるという側面が強いのです。
少年の健全育成に失敗し、非行に追いやったのは、当の少年自身だけではなく、周りの環境(親や社会)の責任も大きいのです。

そして同時に、少年は、未熟であるがゆえに更生する可能性が大人より大きい(可塑性がある)と考えられます。

よって、非行少年が(再び)罪を犯すことのないよう、国家が教育と矯正に介入し、保護しようというのが少年法の理念です(保護主義)。


もっとも、少年法は、少年自身の責任や、「制裁」としての刑事処分を否定しているわけではありません。
14歳未満の少年については、少年法以前に刑法において刑事処分の対象から外されていますが、犯罪少年が犯した罪に対する第一次的責任が少年に帰属することは、大人と違いはありません。
「そのような少年に育ってしまった」ことに対して、親を中心とする社会の責任があるにせよ、少年の犯罪行為に対する刑事責任は、当然その少年にあります。
少年法は、そこまで誰かに「責任転嫁」する法律ではありません。
究極の場合、少年であっても死刑になる可能性は残っているのです。

ただ、未成熟で可塑性のある少年に対し、どのように処遇するのが少年の保護になり、また同時に(少年犯罪を減らすという意味で)社会の利益になるのかを考えて、刑罰とは異なった処分(保護処分)や、刑事手続の特例が用意されています。

少年法で大人より懲役刑の上限が軽くなるのも、「子供のしたことだから大目に見てやる」という意味ではなく、長期間の懲役が逆に少年の更正(ひいては犯罪の抑止)に逆効果だと考えられるからです。

その辺のバランスが難しく、過剰に保護しがちである(と世間から見られる)ことが、しばしば批判の対象となるわけです。


なお、最近、「少年法は戦後の混乱期に飢えて犯罪に走る少年たちを保護するためにできたものであるから、少年法は現代の状況に合っていない」という主張を聞きます。

現行の「少年法」という法律の成立時期については正しいのですが、現行少年法は、旧少年法を全面改正(廃止して新たに制定)したものであり、少年の保護を目的とする少年法自体は大正時代から存在するのです。
そもそも近代的な少年法の考え方は19世紀後半頃に欧米で成立したもので、それが日本にも取り入れられて日本の少年法となったのです。
決して戦後の混乱期の日本という特殊な状況のみを想定した法律ではありませんし、現代でも世界中に同様の少年法制が存在しています。

そして、健全育成の失敗という意味では、状況は変わっていません。

多くの非行少年は、虐待されたり、暴力にされされて育っているという調査があります。
少年が非行に走るのは、貧困だけでなく、虐待や暴力といった要因もあり、現代ではその要因が大きい。
その意味で、少年法の必要性は戦後も今も変わらず存在しています。

実際に、川崎の中1殺害事件の主犯格とみられる18歳の少年は、虐待を受けていたという情報がありますし、飲酒が許容されていた等、かなり劣悪な教育環境に合ったことが窺われます。
まさに、健全育成の失敗から犯罪少年が生まれた事例がここにあるわけです。


確かに「少年法により殺人犯が守られる」ということは、なかなか心情的に納得し難いものです。
特に14歳以上の少年は、刑事責任が否定されていないのですから、あまりに守られ過ぎていると法制度に対する国民の不信も高まります。

窃盗や、せいぜい暴行傷害程度ならまだしも、殺人まで犯したような場合、もはや矯正とか更正とか立ち直りとか社会復帰とかいうことを考える段階は終わっているのではないか?
そういう素朴な疑問に、納得できるように理屈で説明するのは難しいのかもしれません。

例えば、川崎の少年は、日常的に暴力行為があった(それ自体が暴行罪や傷害罪であるから既に犯罪少年である)のであるから、そこで「健全育成」のための矯正ができていなかったのが悔やまれるところです。


少年法が話題になるときは、衝撃的な少年犯罪が起こったときですから、少年法の存在意義を説明してもモヤモヤしたものが残ってしまいます。

次回は、是非はさておき現に少年法は存在するのだから、実際に少年事件はどのような手続になるのかをご紹介します。

では、今日はこの辺で。

少年法シリーズ
1.少年法が対象とする少年
2.少年法の意義と理念 ← いまここ
3.少年法における手続と処分
4.少年審判が始まるまで
5.少年審判とはどんな手続か
6.保護処分について
7.少年法と刑事手続 

0 件のコメント:

コメントを投稿