2015年2月14日土曜日

同性カップルに公的証明書を発行する条例

司法書士の岡川です。

渋谷区で、同性カップルに 「婚姻相当」の証明書を発行する条例ができるとかできないとか。
条例案の内容がどこにも出ていないので、批評のしようもないのですが、報道に出ている範囲で。


日本の法律では、同性婚は認められていません。
条例レベルで同性婚を認めることは法律に違反しますので、これはできません。

したがって、この条例も、法的に意味のある(例えば、相続権が発生したり、同一戸籍に入ったりする)同性婚を認めるものではなく、あくまでもその2人の関係を公的に証明するというものです。

これは、同性婚容認派と否定派、どちらからも賛否両論があろうかと思います。

まず、容認派からすれば、同性同士の婚姻を否定することを前提の制度なので、それでは不十分であるという批判がありえます。
ただ、これは渋谷区がどうこうできる話でもないので、仕方ありません。

「法的に意味がないなら何の意味があるのか」という疑問があるかもしれませんが、そもそも同性婚が認められていないことでの不都合というのは、必ずしも法的な裏付けのある(いいかえると、法律婚の制度に原因がある)不利益ではないのです。

例えば、同性カップルが2人で済む家を買う場合、2人の共有名義にしようと思っても、2人で住宅ローンを組むことはできません。
(もちろん、現金で購入すれば共有名義で登記できますが…)
あるいは、賃貸であっても、貸してもらえないことがあります。

これらは同性カップルだからというより、婚姻していないからなのですが、これらは別に、法律で「同性パートナーとの共有はできない」とか「同性カップルが賃貸物件に同居してはならない」と決まっているわけではありません。
あくまでも、「不動産業者や銀行が敬遠する」というだけの話。
また、病院等で家族とそれ以外の扱いに差をつけられるのも、別に法律でそう決まっているわけでもなく、病院側の都合にすぎません。

今までは、こういう不都合を回避するため、同性パートナー同士で「養子縁組」をして、法律上の家族(親子)になるという方法も取られていました。
養子縁組は、例えば1歳差であっても、年上が年下を養子にすることができるので、いびつな形ではありますが、それで不都合をある程度回避しようとしてきたのです。


もっとも、「法的に決まっていない不利益」を取り除くには、「法的な婚姻」である必要はないわけで、この条例案のように公的に認証する制度があれば大分マシになると思います。

報道に出ているところでは、「互いに後見人とする公正証書の提出」が条件となっているとのことで、おそらくこれは、相互に任意後見契約を締結するという話なのでしょう。
後見人には身上配慮義務がありますし、パートナーに何かあったときも「私は婚姻してない他人だから」といって放置することはできません。

この種の条例が広がると、別に同性カップルに限らず、事実婚についても同様の制度ができてくるかもしれませんし、そうなると任意後見の活用事例が増えるかもしれません。

不動産については、相続の問題等も絡んでいるのだと思いますが、証明書の発行前に、「相互に遺言を残す」とかそういう条件があるのかもしれませんね。
婚姻相当であることを証するのですから、そうなっていないとおかしいですからね。


次に、この条例に反対する意見も見ていきましょう。
例えば、「家族制度の破壊につながる」といったことが考えられます。

といっても、これは法律上の家族になることを条例レベルで決めてしまうものでもないので、あまり説得的な批判でもないように思います。
同性同士でマンションを買えるようになっても、家族制度には何の影響もないと思います。

仮に、前提として「法律婚を尊重すべき」という価値判断を維持するとしても、この条例ができたからといって、「同性カップルが証明書を発行してもらえるようになった。だったら異性じゃなくて同性と付き合おう!」という発想になるわけがないですからね。


法律婚として同性婚を認めることは、我が国の家族制度や家族法制度を根本から見直す必要のある問題であり、同性婚を認めない現行制度を今すぐ廃止すべきとは思いません。

ただし、そのことと同性カップルが(不合理な)不利益を受けることを甘受すべきというのは別問題で、法律婚の制度と無関係な(それが想定する範囲を超えた)不利益を被っている現状には何らかの手当てがあっても然るべきでしょう。

その意味で、(もしかしたら、不十分な制度なのかもしれませんが)肯定的に捉えてよいのではないでしょうか。

では、今日はこの辺で。

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