2014年9月1日月曜日

逸失利益(交通事故の損害各論)

司法書士の岡川です。

「逸失利益」とは、一般的には、債務不履行や不法行為がなければ本来得られたはずの利益(得べかりし利益)のことをいいます。
この意味での逸失利益とは、「消極的損害」と同義です。
したがって、「休業損害」や「休車損」なども含む概念ということになります。

しかし、交通事故における損害において「逸失利益」といった場合は、特に「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2つ、すなわち「後遺障害や死亡によって喪失した、将来稼げたはずの利益」のことを指します。

交通事故によって後遺障害が残ると、働ける時間が短くなったり、作業効率が落ちたり、場合によっては職種・業種を変えなければならなくなります。
仮に仕事を変えるとした場合、「後遺障害が残ったから一念発起して事務作業にグレードアップしたら所得倍増!」とかいうバラ色の転職人生は基本的には考えられないのであって、普通は、遺憾ながら収入は低くても体に負担がかからない仕事に変更するでしょう。
そうすると「後遺障害がなければ将来稼げていたはずの額」より収入が減少するので、その分の損害が交通事故によって生じたと考えることができます。
これが、後遺障害逸失利益です。

とはいえ、「いくら失ったのか」を算定するのは簡単ではありません。
将来のことである上に、「本来なら稼げていたはずの額」という仮定の話との比較でもあるからです。

そこで、実務上は、ある程度定型的に算定することになります。
そこで用いるのが「労働能力喪失率」で、その割合分だけ労働能力が落ちている(だろう)から、収入が減少している(はず)と考えるのです。

後遺障害の等級ごとに定められていて、最も重い1級だと100%、最も軽い14級だと5%です。
つまり、14級だと「将来にわたって、本来より5%の減収がある」とみなすわけです。

この労働能力喪失率の割合で、喪失期間(原則として67歳までの年数)の収入が基礎収入額より減少すると考え、その減少分が後遺障害逸失利益です。

例えば、年齢37歳で年収500万円の男性(専業主婦の妻と子の3人家族)が等級11級の後遺障害が認定された場合、

5,000,000 × 20% × 15.3725 = 15,372,500円

というのが、後遺障害逸失利益です。
67-37=30年で30を掛ける・・・のではなく、「15.3725」という謎の数字を掛けていますが、これを見て「あ、30年のライプニッツ係数やな」とピンと来たあなたは、まぎれもなく法律マニアというか逸失利益マニアです。
要するにこれは中間利息控除した値ですね(→詳しくは「中間利息控除」を参照)。

なお、後遺障害の程度が低い場合や他覚所見がない神経症状(要するにむち打ち)などの場合は、喪失期間は非常に短い期間(3~10年程度)と認定されます。


同じく、被害者が亡くなった場合、「生きていれば将来稼いでいたであろう収入額」を死亡によって稼げなくなるので、これが死亡逸失利益となります。
ただし、将来の収入まるまるが損害となるわけではなくて、「生きていれば必ず使ったであろう生活費」などは、そこから差し引く必要があります。

例えば、上記と同じく、年齢37歳で年収500万円の独身男性(専業主婦の妻と子の3人家族)が亡くなった場合、

5,000,000 × 70% × 15.3725 = 53,803,750円

が死亡逸失利益になります(あくまでも単純計算したものです)。
70%というのは、この世帯の生活費控除率(30%)を差し引くための割合です。


気づかれた方もいるかもしれませんが、場合によっては後遺障害逸失利益のほうが死亡逸失利益より大きくなることがあります。
例えば、等級1~3級で労働能力喪失率100%とかになると、生活費控除がない分、死亡逸失利益より高額になりますね。

交通事故で損害が大きいのは、必ずしも死亡事故だけではないということです。
皆さん、車(自転車も含む)の運転はくれぐれも慎重に。


では、今日はこの辺で。


この記事が「面白い」「役に立つ」「いいね!」「このネタをパクってしまおう」と思ったら、クリックなどしていただけると励みになります。
↓↓↓↓↓

※ブログの右上に、他のランキングのボタンもあります。それぞれ1日1回クリックできます。

1.交通事故による損害
2.交通事故による損害の分類
3.交通事故の損害項目
4.治療関係費(交通事故の損害各論)
5.入通院の費用(交通事故の損害各論)
6.葬儀関係費(交通事故の損害各論)
7.休業損害(交通事故の損害各論)
8.交通事故の慰謝料(交通事故の損害各論) 
9.逸失利益(交通事故の損害各論) ← いまここ

0 件のコメント:

コメントを投稿