2014年9月29日月曜日

遺言のススメ

司法書士の岡川です。

今までこのブログで相続の話題は色々書きましたが、遺言について書いていないことに気づきました。
ので、今日は遺言の話。

遺言、一般的には「ゆいごん」とも読まれますが、法律用語としては「いごん」と読むのが一般的です。
とはいっても「いごん」という読みが法律で規定されているわけでもないので、どっちで読んでも構わないのですが。
ちなみに広辞苑で調べてみると、「いごん」と「ゆいごん」が別項目で載っていました。

それはさておき、遺言です。

遺言とは、自分が死んだときに効力が生じる意思表示です。
したがって、死ぬ前のことについては遺言として効力を有しません。
例えば、「自分の老後はこの施設に入りたい」といったことを遺言書に書いても、その部分は法的には遺言としての意味は一切ありません。

死後のことについての意思表示ですから、間違いがあっても訂正ができませんし、曖昧な部分を質問することもできません。
したがって、遺言は法律で厳格に方式が定められています。
方式に則っていなければ、それだけで遺言は無効になります。


一般的な遺言の方式としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
この3種類は、きちんと方式が守られていれば、効力としてはどれも同じです。
自筆証書より公正証書の方が強いとかいったことはありません。

自筆証書遺言は、全てを「自書」する遺言です。
住所氏名だけでなく、全文を手書きで書く必要があります。
自分で書くので、費用を節約できて手軽に作成できますが、細かくいろいろなルールが法律で定められており、どこかに不備があると無効になる危険があります。

公正証書遺言は、文字通り公正証書で作成する遺言で、公証役場で作成します。
「遺言者が口述したものを公証人が筆記する」というタテマエですが、実務上は、公証人が先に作成しておき、それを遺言者に読み聞かせて、間違いなければ署名押印するという流れになります。
公証人の手数料が必要だったり証人を用意したりと、自筆証書に比べて手間と費用がかかりますが、紛失や偽造も防げますし、内容的にも確実なものが作成できます。

秘密証書遺言は、自分で作成した遺言を公証役場で封印するもの。
自筆証書と違ってパソコンで作ってもいいのですが、あまり使われていません。
どうせ公証役場に行くなら、公正証書遺言にした方が確実ですからね。
遺言の内容を死ぬまで秘密にしておきたい場合に使うものです。


さて、遺言の内容ですが、死後のことを書いてあっても、遺言として法的に意味のある事項とそうでない事項があります。
遺言書に書いて法的に意味のあるものを「遺言事項」といいます。

遺言事項には、「誰に何を相続させるか」「相続人以外に何を遺贈するか」といった遺産の処分や分配方法に関する事項、未成年後見人の指定や認知などの身分関係に関する事項などがあります。

それ以外に、例えば「兄弟仲良く暮らしなさい」とか「死んだあとは盛大に葬式を挙げて下さい」といったことは、書きたければ書いても構いませんが、書いても法的には意味がありません。
これを「付言事項」といいます。

個人的には、遺言書にはあまりごちゃごちゃと付言事項は書かないほうがよいと考えていますが、この考え方は人それぞれですね。


遺言は、1回書いても、何度でも書き直せます。
遺言を書き直したら、新しい方が有効になり、古い方の内容は撤回したことになります。

遺言は、紛争や面倒な手続を回避するのに非常に役に立ちます(参照→「厄介なのは相続『争い』だけではない」)。
死後に何らかの面倒なことになりそうな事情がある方は、遺言の作成を検討してみてください。


では、今日はこの辺で。

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2014年9月26日金曜日

勾留について

司法書士の岡川です。

前回の記事に書いた通り、逮捕された後に留置されるのは、別件逮捕とか考えなければ最大72時間です。
その間に、これ以上留置する必要がないと判断すれば釈放されます。

そうすると、逮捕された犯人は全員3日で釈放されるのかというとそうではありません。
72時間を超えてさらに留置が必要だということになれば、検察官は裁判所に「勾留」を請求します。
これが認められれば、起訴までさらに10日間(さらに追加で10日間延長可能)拘束することができます。

これが起訴前の被疑者を拘束する限界なので、要するに検察官は、被疑者が逮捕されてから23日以内に、そのまま起訴するか釈放するかを決めなければならないということです。

もちろん、どの段階で釈放されても、それは無罪放免を意味しませんので、起訴することは可能です。


起訴してしまえば、さらに2か月勾留することが可能で、そこからさらに1か月ごとに期間延長することができます(要件がありますが)。
起訴された後に被告人として勾留されているときは、条件次第で保釈されることもあります。


このように、刑事手続に乗せられた人は、逮捕や勾留によって身体を拘束されることがありますが、それには色々と要件があり、また、期間制限もありますので、必ずしも「犯人は裁判が終わるまでずっと捕まったまま」ということはありません。


では、今日はこの辺で。

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2014年9月25日木曜日

逮捕について

司法書士の岡川です。

警察が何らかの犯罪の被疑者を見つけたら、その人を逮捕することがあります。

実際に逮捕をするのは基本的には警察なのですが、実は、逮捕するのが妥当かどうかを判断する権限を有しているのは、警察ではなくて裁判官です。
逮捕というのは、市民の身体を役人が無理やり拘束するものなので、慎重な手続が必要です。
したがって、公平な第三者(司法機関)である裁判官がまず判断しなければならないとされています。

これは、日本国憲法33条に規定された国民の権利(人身の自由)でもあります。

第33条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。


そこで、原則として、裁判官が予め令状(いわゆる逮捕状)を発付して、警察はその令状に基づいて逮捕することになります。
これを「通常逮捕」といいます。


とはいえ、今まさに犯行が行われている現場にいて、犯人が目の前にいるのに「今から裁判所に令状取りに行ってくるから、ちょっとそこで待ってろ」とか言って犯人を放置して裁判所に令状を請求しに行くというアホなことはできません。
日本国憲法でも明文で例外とされているように、現行犯人を逮捕するのに令状は不要とされています。
これを「現行犯逮捕」といいます。

現行犯逮捕は、警察じゃなくても、一般市民でもすることができます。
ひったくり犯を目撃した人が犯人をその場で取り押さえて警察に引き渡すという行為は、現行犯逮捕ということになりますね。


それからもうひとつ例外がありまして、現行犯ではないものの、一定の重大犯罪の被疑者を見つけたときで、「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき」(刑事訴訟法210条)という要件を満たせば、逮捕状なしで逮捕することができます。
これを「緊急逮捕」といいます。

緊急逮捕は、あくまでも例外中の例外(そのため、憲法違反とする説も無いことは無い)なので、あとから逮捕状を請求しなければなりません。


ちなみに、逮捕によって被疑者を拘束することができるのは、一般的には最大72時間となっています(警察で48時間、検察に送致されて24時間)。
逮捕されるとそのままずっと牢屋に繋がれる…というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、逮捕しただけでは72時間以上留置し続けることはできないのです。
といっても、別の容疑で再逮捕することができますので、重大な事件などでは、実際にはもっと長い間拘束され続けていることが少なくありません(とりあえず最初は死体遺棄容疑で逮捕して、期限切れになる前に殺人容疑で再逮捕するなど)。
それも限界がありますけどね。


なお、上記の現行犯逮捕の要件を満たすような場合を除き、不法に他人を逮捕したら、逮捕罪(刑法220条)という犯罪が成立しますので、絶対にやめましょう。
また、警察が職権濫用して逮捕したような場合は、「特別公務員職権濫用罪」という結構重い犯罪が成立します。
それだけ逮捕というのは重大な行為だということです。


では、今日はこの辺で。

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2014年9月23日火曜日

相殺(そうさい)

司法書士の岡川です。

前回は過失相殺の話をしましたが、その前に「相殺」という言葉について触れておいた方がよかったかもしれないですね。

繰り返しですが、相殺は「そうさい」と読み、「そうさつ」でもなければ「あいさつ」でもありません。
意味としては、「差し引く」とかそんな意味です。

過失相殺は、加害者の過失と、被害者の過失を差し引いて損害賠償の額を決める制度です。


「相殺」という一語で使った場合はまた別の制度で、「こっち側の債権と相手側の同種の債権を対当額で消滅させる意思表示」をいいます。
「対当額」であって「対等額」ではないので注意です。

こっち側の債権を自働債権(「自動」債権ではありません)といい、相手側の債権を受働債権(「受動」債権ではありません)といいます。

どういうことかというと、相手が自分に対して100万円の債権(例えば、売買代金債権)を有しているとします。
その場合、特に条件がなければ、相手はこちらに「100万円よこせ」ということができます。

そのときに、自分が同じ相手に対して別個の同種の債権(例えば、50万円の貸金債権)を有していれば、別個に「50万円返せ」ということもできますが、この両方を一気に精算するために50万円の限度(それ以下であればいくらでも構いませんが)で両方の債権を消滅させることができ、あとは残り50万円の売買代金債権のみが残る、という具合です。

相殺は、一定の条件を満たせば一方的な意思表示で行うことができ、「いや、50万円は別に払うから100万円よこせ」とは言えなくなります。
相殺は、現実に50万円支払ったのと同じ効果が生じるわけです。


一定の条件というのは、例えば、こちら側の債権がまだ弁済期になってない場合は相殺できない(これが許されると、相手側からすれば、弁済期前に強制的に債権を行使されたと同じことになるため)とか、不法行為によって生じた債務を受働債権とすることはできない(政策的なものですが、損害賠償は相殺なんかせずにきちっと現金で支払えということ)とか、そういうことです。

交通事故で怪我をさせて、1000万円の損害賠償債務を負ったとき、相手に対して「お前には1000万円貸してるから、それと相殺してチャラな」ということは許されません。
1000万円きちっと支払う必要があります。
逆に、被害者側から、「1000万円借りてたけど、損害賠償債権と相殺する」ということはできます。


とまあ、制度自体は直感的に分かりやすいものなので、とにかく誤字に注意しましょう。

では、今日はこの辺で。

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2014年9月19日金曜日

過失相殺

司法書士の岡川です。

前回の記事で軽く紹介したとおり、「過失」というのは、不注意とか結果回避義務違反のことをいいます。

過失は、程度によって軽過失と重過失があり、民法上は重過失のみに適用される(軽過失では該当しない)規定とか、刑法上は、重過失の場合には軽過失の場合より重い犯罪が成立する場合(重過失致死傷罪)というのもあります。


ただ、民法における不法行為の要件は「故意又は過失」であり、規定の上では、重過失だろうが軽過失だろうが違いはありません(故意ですら扱いに差がないのですから当然ですね)。

刑法は違反者に対する制裁を目的とした法律なので、軽過失より重過失の方が重く処罰される場合がありますが、民法の不法行為の規定は、損害の賠償を目的としたものなので、軽過失でも損害が大きければそれなりの賠償をしないといけないし、重過失でも損害がなければ賠償の必要がないわけです。


ところで、民法には、刑法にない規定があります。
それが「過失相殺」というものです。

「過失相殺」は、「かしつそうさい」と読みます。

「相殺」を「そうさつ」などと読んではいけません。
「あいさつ」でもありません。


それはさておき、過失相殺とは、他人に損害を与えたときに被害者側にも過失があった場合、賠償額を算定する際に一定額(被害者側の過失分)を差し引くという制度です。

例えば交通事故の場合、衝突したときに被害者も動いていたような場合、被害者側にも何らかの過失があることが少なくありません。
その場合、加害者側の過失と被害者側の過失を比較して、どちらにどれくらいの過失があったか(過失割合)に応じて、損害賠償額が減額されます。
逆に、止まっている被害者に加害者が一方的に追突したような場合は、被害者の過失割合はゼロ(過失相殺なし)ということが多いでしょう。

例えば事故で100万円の損害を与えたとすれば、被害者の過失割合が3割と認定されると、損害賠償額は単純計算で70万円になるということです。

これは、民法の不法行為制度が「損害の公平な分担」という機能をもつものであるから、被害者にも過失があるなら、その分は被害者にも負担させるのが公平だという考えが背景にあります。


刑法にはこのような規定はありません。
被害者に過失があろうがなかろうが、加害者は、過失によって他人を死傷する行為はすべきではなく、そのような行為を刑法は抑止しなければならないからです。
よって、被害者の過失は考慮されずに犯罪が成立することになります。
もちろん、違法性の程度に差はあるでしょうし、それが量刑に反映される可能性はあります。


なお、交通事故で「両方動いているなら過失割合10:0はあり得ない」と誤解している方もいますが、必ずしもそうではなく、被害者が動いていたからといって必ず過失相殺されるわけではありません。

「被害者も動いていたのだから当然賠償額は減額される」とは考えないようにしましょう。


では、今日はこの辺で。

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2014年9月17日水曜日

「過失」の意味

司法書士の岡川です。

故意」と並んで、重要な概念が「過失」です。

民法(私法)上は、不法行為の要件として「故意又は過失」となっている(過失責任の原則)だけでなく、不法行為責任以外にも「過失」が要件となっている規定はたくさんあります。
民法の条文では、「故意」は7回しか出てきませんが、「過失」は36回も出てきます。

刑法では、故意犯処罰の原則がありますが、その例外として過失犯の規定があり、当たり前ですが過失犯の成立には過失が必要になります。


さて、一般的に「故意」が「わざと」という意味であったように、「過失」というのは一般的には「不注意」という意味です。
古典的には、「結果を予見可能であるのに予見しなかったこと」(予見可能性)が過失と考えられていました。

結果が予見できて、かつ、その結果を認容していればそれは「故意」となりますが、結果が発生することが分かってたのに十分に注意を払わず結果を引き起こしたら、それが過失だというわけです。

現在では、単に予見可能性があるだけでなく、予見が可能であることを前提に、「結果回避義務」に違反することが過失であるという考え方が一般的となっています(刑法では、「新過失論」といいます。これに対して、前述の予見可能性を中心とする過失論を「旧過失論」といいます)。

もっとも、過失については民法上も刑法上も学説が対立しており、何が「一般的」な理解なのかを決めるのは難しいのですが・・・。

この考え方によれば、結果を予見することができ(予見可能性)、回避することもでき(結果回避可能性)、回避すべきである(結果回避義務)にもかかわらず、それを怠った(結果回避義務違反)ことで過失が成立します。

過失については、色々書けそうですが、書けば書くほど難しくなるので、とりあえずここで終了しておきます。

では、今日はこの辺で。

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2014年9月16日火曜日

「故意」の意味

司法書士の岡川です。

民法上、不法行為の要件は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」であって、故意(又は過失)が必要とされています。
刑法上、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」として、故意犯処罰の原則が採られています。

いずれも、「故意」が要件となっていますが、ではその「故意」とは何かということが問題となります。

一般的には、「わざと」やることを「故意」といい、法律的にも基本的にはそれほど大きな違いはないのですが、もう少し厳密に考えられています。


なお、民法(私法)上の要件としては、故意だろうが過失だろうが、結局成立するのは不法行為であり、刑法ほど「故意とは何か」という論点は重要視されません(むしろ、過失のほうが問題となります)。
他方で、刑法では、故意と過失で成立する犯罪が異なりますので、故意論というのは非常に大きな意味を持っています(哲学レベルで学説を二分するくらい)。

あまり詳しく書くと深みにはまっていく危険があるので、通説的な理解にとどめておきますと、故意とは「事実(結果)を認識し、(少なくとも)それを認容する心理状態」をいいます(これを「認容説」といいます)。

「これをやると相手が怪我をするかもしれない」と認識しただけでは足りず、「これをやると相手が怪我をするかもしれない。まあ、いいか」と認容すれば、故意が成立すると考えられています。

「故意の成立にはそれで足りる」ということなので、当然ながら積極的に「怪我をさせてやろう」と意図した場合も故意です。

後者を「確定的故意」というのに対し、前者は「未必の故意」といいます。

確定的だろうが不確定的であろうが、故意は故意です。


それでも故意は故意


・・・何でもないです。


ところが、認識していても「認容」までしていなければ、故意は成立しません。
その場合、「認識ある過失」といって、過失が成立する可能性があります(つまり、過失にも「認識ある過失」と「認識なき過失」があるということですね)。


なお、ここでいう認識とか認容というのは、「事実」の認識の問題です。
刑法の論点になりますが、故意が成立するためには、その行為が「違法である」というところまで認識することは必要ないと考えられています。

他人が飼っている犬を怪我させる行為は器物損壊罪に該当しますが、「他人が飼っている犬を怪我させる」ことさえ認識認容してさえいれば、「怪我させる行為が犯罪になる」ことまで知らなくても、故意が成立することになります。

「犯罪とは知らなかった」は通用しないということです。

詳しくは、「違法性の意識」とか「法の不知は害する」とかに書いていますのでご参照ください。

では、今日はこの辺で。

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2014年9月12日金曜日

脅迫と強要と恐喝(と、ついでに強盗)

司法書士の岡川です。

コンビニ店員に土下座を強要した男女4人くらいが恐喝容疑で逮捕されました。
他にもまだ逮捕者が出そうな状況です。

脅迫とか恐喝とか、人を脅しつける行為に対しては色んな名前がついています。
今日はこれらの違いを解説。

まずは前提として、「脅迫」の意味です。

「脅迫」とは、「害悪を加える旨を告知すること」のような意味だと定義されます。

そして、「脅迫罪」の害悪の加害対象は、「生命、身体、自由、名誉、財産」に限定されています。

これらに対して害を加える旨を告知することが「脅迫罪」にあたります。
「告知」は暗示(「暗い夜道は注意しろよ」とか)でもいいのですが、相手を畏怖させる程度のものでなければならないとされています。


脅迫した上で、「人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害」すれば、強要罪が成立します。
加害の対象は、脅迫罪と同じく「生命、身体、自由、名誉、財産」に限定されています。
悪さレベルが脅迫罪よりワンランク上になるので、法定刑も少し重くなります(最高で懲役3年。脅迫罪は最高で2年)。

ちなみに、脅迫ではなく、暴行を用いて「人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害」やった場合も強要罪です。


脅迫や暴行によって財物を要求することを「恐喝」といいます。
平たくいえば、「カツアゲ」というやつが恐喝です。
脅迫の加害対象は特に限定されておらず、恐喝すれば恐喝罪です。
脅迫しただけでなく、金も奪うので、悪さレベルは格段に上であり、法定刑も最高で懲役10年まで跳ね上がります。

コンビニ土下座事件では、土下座を要求する(これは強要罪)だけでなく、金品を要求したから、恐喝罪に問われているということです。


恐喝罪での脅迫は、「相手を畏怖させる程度」のものでなければなりませんが、さらにそれが「相手の反抗を抑圧する程度」になれば、成立する犯罪は脅迫罪から強盗罪にグレードアップする可能性があります。
ここまでくれば、文句なしに凶悪なので、法定刑もそれに合わせて最高で有期懲役の上限ぎりぎり20年になります。


その他にも、脅迫行為が要件となっている犯罪はいろいろあります。

善良な皆さんは、むやみやたらと他人に害悪を告知することはやめましょう。

では、今日はこの辺で。

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2014年9月10日水曜日

「過料」の意味と執行方法

司法書士の岡川です。

(※最後に追記あり)

歩きタバコ自体はイラッとするものの、それを警察が取り締まっていないことについては特に気にしたことはなかったのですが、気になる方はいるみたいです。

歩きタバコは「犯罪」ではない?警察官が、路上喫煙を取り締まらない理由
しかしこれ、私も以前は勘違いしていたのですが、警察官が歩きタバコを捕まえたり、罰金を払わせることはできません。
(警察官によっては注意してくれますが、厳密には彼らの業務対象外)

確かに東京都内には地方自治体の条例によって、歩きタバコに罰金刑を設定しているところもあります。
しかしこれは「過料」という行政罰であり、刑事罰ではない=犯罪ではないのです。

うーん・・・。

この議員さんは、せっかく条例を調べられたみたいなので、それを発信するならもう少し正確に書いていただけるとよかったのですが、やはり刑事罰と行政罰の違いは理解されにくいようです・・・。


歩きタバコに罰金を支払わせることができない。これは正しい。
だから警察の取り締まりの対象外。これもまあ正しい。

しかし、「罰金刑を設定しているところもある」「それは『過料』という行政罰であり、刑事罰ではない」というのは、色々と矛盾しています。

「罰金刑」というのは、まさしく「刑事罰としての財産刑」のことを指します。
「金を徴収する罰」のことを総称して「罰金」というのではありません(参照→「ルール違反をした場合に支払うお金」)。

「過料」であるなら、それは刑事罰ではないし罰金刑でもないわけです。

過料は過料、罰金は罰金です。
ウチはウチ、ヨソはヨソなのです。


ここまでは言葉の問題なのですが、さらに問題は次の点。
刑事罰ではないので、実は強制力もそれほどなかったりします。

何をもって「強制力もそれほどない」というかは、人の受け止め方次第ではありますが、
ですが行政罰である「過料」の場合、公権力がこうした処罰を下してくれません。
じゃあ、ゴネて払わなかったらどうなるの??
非訟事件手続法の第121条によると、

>過料の裁判の執行は、民事執行法(昭和五十四年法律第四号)
>その他強制執行の手続に関する法令の規定に従ってする。

とのことで、まあ簡単に言いますと税金の滞納のように民事上の強制執行がされることになるようです。

実は、これは誤りです。
非訟事件手続法を調べられたのは惜しいんですけど、実は根拠条文が全く違うんです(参照→「過料についてもう少し詳しく」)。


過料にも2種類あって、国の機関が科すものと、地方自治体の長が科すものがあります。
前者については、確かに非訟事件手続法に則って検察官が民事執行法に則って執行します。

※追記:国の機関というのは、具体的には裁判所です。

しかし、条例によって地方自治体の長が科す過料については、非訟事件手続法ではなくて地方自治法が根拠条文になっていまして、

(地方自治法231条の3第3項)
普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。

とあり、「滞納処分の例による」のです。
これはつまり、民事執行の手続ではなく、税金滞納と同じ自力執行権が認められているという意味です。
要するに、税金と同じように、役所の徴税担当の職員によって差押えをくらうということですね。

どうやら「税金の滞納のように」という点は押さえておられるようなのですが、そもそも税金の滞納は「民事上の強制執行」ではないのです。
このへんは地方税法などをお読みくださいませませ。


危険ドラッグの規制に関する議論の最中のようですが、行政罰たる過料の迅速性(罰金と違って、裁判を経ることがない)というメリットも踏まえていただき、危険な薬物の撲滅に向けて最良の方法を見つけていただきたいですね。

では、今日はこの辺で。


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※追記
さっそく、前掲ブログ記事を書いた議員さんが訂正記事を出しておられます。

行政マンも間違える「行政罰」の違い…危険ドラッグは、警察官により取り締まられます

素早い対応ですね。

少し補足です。

上記議員ブログでは、「刑事罰」を限定的な意味で用いています。
すなわち、
刑事刑法上の刑罰・・・刑事罰
行政刑法上の刑罰・・・行政刑罰
というふうに定義するものです。

「刑事罰」をこの意味で使うことがあるらしいことは確認とれました(私の書棚にある古い行政法の入門書で、刑事罰と行政刑罰を対概念とするものがありました)が、当ブログでは「刑事罰」は、行政刑罰をも含む「刑罰」と同義として使っています(刑事法学上、これが一般的な用法だと思います)。

上記の分類は、行政法学独特の用法のようですが、手元の行政法の書籍にも行政刑罰が刑事罰として記されているところをみると、行政法学においてどこまで一般的な定義なのかは不明です。

刑事法学では、刑事刑法と行政刑法を区別することは一般的ですが、刑事罰と行政刑罰を対比させるのはあまり見かけません(ちなみに、私は刑事法系)。

この点、注意してお読みください。
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2014年9月9日火曜日

法律を適応する?

司法書士の岡川です。

昨日に引き続き、用語の定義ネタ。

「○○法を適応する」みたいな表現をよく見かけます。
タイプミスの場合も一定割合あるでしょうが、法律やルールは「適応する」ものだと思いこんでいる方もいるようです。

「適応する」というのは、環境とか状況に合うことをいいます。

で、法令などのルールを具体的状況に当てはめて用いることは、正しくは「適用」といいます。
法律は「適応」(てきおう)するものじゃなくて、「適用」(てきよう)するものです。

これは、間違うと結構恥ずかしいので注意しましょう。


ちなみに、同じ「てきよう」でも、要点を抜粋したものは「摘要」です(書類の「摘要欄」など)。


今日のネタもこれ以上膨らませようがないですね。

では、今日はこの辺で。

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2014年9月8日月曜日

「譲渡」という語

司法書士の岡川です。

「譲渡する」というと、何となく「タダであげる」という意味に思われることもありますが、法律上は「譲渡」には「タダ」という意味は含んでおりません。
とにかく物とか権利とかを、「こっちからあっちへ移転させる」のが「譲渡」です。

つまり、有償譲渡も無償譲渡もあります。

有償譲渡は、典型的には売買契約で、物を譲渡する代わりに代金を支払ってもらう。
無償譲渡は、典型的には贈与契約で、物を譲渡する代わりに何ももらわない。

なので、「譲渡する」というだけでは、法的な性質(何契約なのか)が確定しません。


譲渡するのは、物に限らず、債権を譲渡するということもあります。
これを債権譲渡といいます。

もちろん、タダで譲渡する場合もあれば、有償で譲渡する場合もあります。


まあ、そういうわけですが、これは単語の意味の問題なので、これ以上話を膨らませることができません。

では、今日はこの辺で。

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2014年9月6日土曜日

公式サイトオープン

司法書士の岡川です。

今日は告知です。

私の事務所ホームページがオープンしました。

岡川総合法務事務所

まだ、ところどころ未完成の部分がありますが、順次更新していきます。

当ブログともども、よろしくお願いします。

なお、当ブログは、「知って得する情報や別にそうでもない情報をあなたに!」を掲げていますが、ホームページのほうは、「別にそうでもない情報」のほうはあまり載っていません。


暇つぶしに法律の勉強をされる方や、大学のレポートのネタを仕入れたい方などは、引き続き、当ブログのほうをご覧ください。

では、今日はこの辺で。

2014年9月4日木曜日

ペットの相続

司法書士の岡川です。

前回、動物は権利の主体にはなりえない(少なくとも現行法上は)という話をしました。
ついでなので、動物が権利の主体でないことの当然の帰結として、ペットに遺産を相続させることもできません。

遺産を相続するということは、被相続人の権利義務を承継するということを意味しますから、権利を承継できない動物(ペット)に相続させることができないのは当然なのです。

もちろん、遺贈することも贈与することもできません。

そして、動物が被相続人が飼っているペットであるなら、権利を承継するどころか、ペット自身が承継される財産権の客体となります。
つまり、他の預貯金とか不動産とかと同列でペット自身が遺産になるということです。

さて、そうなると、身寄りのない人の場合や、家族が動物嫌いの場合、自分の死んだ後のペットの生活が心配になります。
信頼できる人に譲るなどの手段を考えるしかありません。


直接的にペットに財産を相続させることはできませんが、「自分の遺産をペットのために使わせる」ということは可能です。
つまり、特定の信頼できる相手に財産を譲渡したり預けて、その使途を指定しておくのです。

方法としては、負担付贈与とか信託とか、いくつかの枠組みが考えられます。

これで、疑似的にペットに遺産を相続させる(ような形にする)ことが、ある程度可能です。


本気でペットの相続について検討したい方は、お近くのペット相続に詳しい専門家にご相談ください。
誰が専門家なのかは、わかりません。

では、今日はこの辺で。

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2014年9月2日火曜日

盲導犬を傷害する罪

司法書士の岡川です

最近、盲導犬が何者かに刺される事件が起こっています。
これに対し、全日本盲導犬使用者の会が緊急声明を出し、次のように述べています。
「動物の愛護及び管理に関する法律第44条」の厳格な適用を求めると共に、刑法における人間に対する傷害罪の適応や、身体障害者補助犬法により明確な厳しい罰則を設けるなどを含め、補助犬を傷つける行為に対する厳罰の法制化の検討を望みます。(原文ママ)
民主党の海江田代表も「本当に器物損壊(容疑)でいいのか」と述べたようです。

こちらは趣旨がよく分かりませんが。

大の犬好きの私としましては、盲導犬に限らず、およそ犬を故意に傷つける行為には、傷害罪を類推適用可能なんじゃないかとか、個人的にはそう思いますけど、そういうわけにはいかないのが、近代法の大原則(→罪刑法定主義)。

現行法では、盲導犬は「物」であり、刑法261条が「他人の物を…傷害した者」を器物損壊の構成要件として規定している以上、盲導犬を刺す行為は、まぎれもなく器物損壊罪の実行行為にほかならず、「人の身体を傷害した者」を構成要件とする傷害罪の適用が問題となる余地はありません。
もちろん、同時に動物愛護法違反にもなりますが、器物損壊のほうが刑が重いので、その意味では厳しい方の容疑で捜査されています(ちなみに、両罪はおそらく観念的競合となります)。


では、なぜ動物を傷害する行為が、傷害罪の法定刑(最高で懲役15年)に比べて圧倒的に軽い(最高でも懲役3年)のでしょうか。

これは、形式的には「器物損壊罪の法定刑が軽いから」ということなのですが、そもそも「動物への傷害」が「人の傷害」(傷害罪)ではなく「物の損壊」(器物損壊罪)のほうに含められた理由を考えると、近代法が動物を権利の主体として想定していないということに尽きます。

「権利の客体」でしかない動物が、「権利の主体」である人と同列に扱われることはありませんので、動物の生命や身体は、権利の主体である人の権利利益を介してのみ保護されます。
つまり、法的には財産権の侵害という構成になるわけですが、「財産の保護」が「身体の保護」より劣るのは当然で、それが刑の軽重に繋がっているのです。

そうはいっても、動物傷害行為は、単なる財産的な損害だけでなく、飼い主に対する精神的ダメージも大きい(そのため、ペットが死傷する事件で慰謝料が認められる事例も増えています)ことを考えれば、器物損壊罪の法定刑をもう少し引き上げる(あるいは、器物損壊罪と動物傷害罪を分離する)ことは検討の余地があるのではないかと思います。


また、発想を変えて、「動物の権利」というものを正面から認めて、動物を「物」以上の立場に押し上げるという考え方もありえます。
実際に、哲学者のピーター・シンガーに代表されるように、動物の権利を認めるべきであるとする思想的立場も存在します。
この場合、動物の身体は、「人の財産権」を媒介にしなくても、直接権利侵害と構成することができますので、場合によってはもっと重い刑が妥当だと考えることができるかもしれません。

ただし、大前提として近代法の立場を転換し、「人」以外の存在が権利の主体たりえることを認めなければなりません。
今のところ、そこまでラディカルな立法は行われていません。


今回は、盲導犬という特殊な犬であり、視覚障害者を危険に晒しかねないという事情があります。
この点を考慮して、「身体障害者補助犬法により明確な厳しい罰則」というのは、ひとつのアイデアではありますが、「人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」という暴行罪と比しても、それほど厳しい罰則を付すことは難しいのではないかとも考えられます。

バランスが難しいところですね。

では、今日はこの辺で。

2014年9月1日月曜日

逸失利益(交通事故の損害各論)

司法書士の岡川です。

「逸失利益」とは、一般的には、債務不履行や不法行為がなければ本来得られたはずの利益(得べかりし利益)のことをいいます。
この意味での逸失利益とは、「消極的損害」と同義です。
したがって、「休業損害」や「休車損」なども含む概念ということになります。

しかし、交通事故における損害において「逸失利益」といった場合は、特に「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2つ、すなわち「後遺障害や死亡によって喪失した、将来稼げたはずの利益」のことを指します。

交通事故によって後遺障害が残ると、働ける時間が短くなったり、作業効率が落ちたり、場合によっては職種・業種を変えなければならなくなります。
仮に仕事を変えるとした場合、「後遺障害が残ったから一念発起して事務作業にグレードアップしたら所得倍増!」とかいうバラ色の転職人生は基本的には考えられないのであって、普通は、遺憾ながら収入は低くても体に負担がかからない仕事に変更するでしょう。
そうすると「後遺障害がなければ将来稼げていたはずの額」より収入が減少するので、その分の損害が交通事故によって生じたと考えることができます。
これが、後遺障害逸失利益です。

とはいえ、「いくら失ったのか」を算定するのは簡単ではありません。
将来のことである上に、「本来なら稼げていたはずの額」という仮定の話との比較でもあるからです。

そこで、実務上は、ある程度定型的に算定することになります。
そこで用いるのが「労働能力喪失率」で、その割合分だけ労働能力が落ちている(だろう)から、収入が減少している(はず)と考えるのです。

後遺障害の等級ごとに定められていて、最も重い1級だと100%、最も軽い14級だと5%です。
つまり、14級だと「将来にわたって、本来より5%の減収がある」とみなすわけです。

この労働能力喪失率の割合で、喪失期間(原則として67歳までの年数)の収入が基礎収入額より減少すると考え、その減少分が後遺障害逸失利益です。

例えば、年齢37歳で年収500万円の男性(専業主婦の妻と子の3人家族)が等級11級の後遺障害が認定された場合、

5,000,000 × 20% × 15.3725 = 15,372,500円

というのが、後遺障害逸失利益です。
67-37=30年で30を掛ける・・・のではなく、「15.3725」という謎の数字を掛けていますが、これを見て「あ、30年のライプニッツ係数やな」とピンと来たあなたは、まぎれもなく法律マニアというか逸失利益マニアです。
要するにこれは中間利息控除した値ですね(→詳しくは「中間利息控除」を参照)。

なお、後遺障害の程度が低い場合や他覚所見がない神経症状(要するにむち打ち)などの場合は、喪失期間は非常に短い期間(3~10年程度)と認定されます。


同じく、被害者が亡くなった場合、「生きていれば将来稼いでいたであろう収入額」を死亡によって稼げなくなるので、これが死亡逸失利益となります。
ただし、将来の収入まるまるが損害となるわけではなくて、「生きていれば必ず使ったであろう生活費」などは、そこから差し引く必要があります。

例えば、上記と同じく、年齢37歳で年収500万円の独身男性(専業主婦の妻と子の3人家族)が亡くなった場合、

5,000,000 × 70% × 15.3725 = 53,803,750円

が死亡逸失利益になります(あくまでも単純計算したものです)。
70%というのは、この世帯の生活費控除率(30%)を差し引くための割合です。


気づかれた方もいるかもしれませんが、場合によっては後遺障害逸失利益のほうが死亡逸失利益より大きくなることがあります。
例えば、等級1~3級で労働能力喪失率100%とかになると、生活費控除がない分、死亡逸失利益より高額になりますね。

交通事故で損害が大きいのは、必ずしも死亡事故だけではないということです。
皆さん、車(自転車も含む)の運転はくれぐれも慎重に。


では、今日はこの辺で。


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2.交通事故による損害の分類
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