2014年6月29日日曜日

会社法改正のポイント

司法書士の岡川です。

株式会社や持分会社(合同会社合資会社・合名会社)について規定した「会社法」という法律があります。
実は、今から9年前の平成17年(2005年)に成立した比較的新しい法律で、それまでは、会社については「商法」という商行為や商人に関する法律の中で規定されていました。

その会社法ですが、つい最近(平成26年6月20日)、大規模な改正法が成立しました。
まだ施行はされておりませんが、来年には施行されるでしょう。
大部分の中小企業にはあまり影響のない改正ですが、それなりの規模の会社においては色々と対応が必要になってきます。


そしてなんといっても影響の大きいのは、司法試験や司法書士試験の受験生だと思われます(会社法が成立した年もかなり大変だったようですが)。
特に、現行会社法で既に勉強を始めている人は大変です。
新しい概念が出てきたり、既存の概念の定義が複雑になったりしていますので、頑張って覚えなおしましょう。


というわけで、今回の主な改正点の概略をご紹介します。

1.「子会社等」と「親会社等」の新設

現行会社法にも「子会社」「親会社」という概念は存在します。

A会社がB会社の過半数の議決権を有しているような場合のように、経営を支配する関係にある場合、A会社が親会社、B会社が子会社です。
定義上、他の「会社」に経営を支配されている「会社等」(会社、外国会社、組合)が子会社であり、株式会社の経営を支配している会社等が親会社です。

これに「」がつくと、「子会社等」には、会社以外の者に経営を支配されている法人が含まれ、「親会社等」には、法人以外で株式会社の経営を支配している者が含まれます。

とってもややこしいので、会社法と会社法施行規則の定義を図か何かでまとめないと混乱します。


2.「監査等委員会設置会社」の新設

現行法では、「委員会設置会社」という制度があります(会社法制定時に新設された制度ですが)。

取締役会設置会社と委員会設置会社では、機関構成や取締役(会)の権限等に大きな違いがありますが、その中間的な機関構成として、「監査等委員会設置会社」(「等」の位置に注意!)という制度が新設されます。

監査等委員会設置会社は、文字通り、「監査等委員会」を設置する株式会社です。

委員会設置会社と同じく、監査役は設置できず、会計監査人の設置が必須です。
ただし、委員会設置会社と違って執行役が存在せず、取締役会設置会社と同様、業務執行権限は代表取締役にあります。

取締役の任期は、従来の委員会設置会社と同じく1年です。
ただし、監査等委員である取締役の任期は2年で、定款で短縮することができません(これは、監査役と同じですね)。

監査等委員会の権限としては、従来の委員会設置会社における監査委員会の権限とほぼ同じです。
ただし、選任方法が特殊で、監査等委員会の取締役は、株主総会において「監査等委員である取締役」と「それ以外の取締役」を分けて選任しなければなりません。
従来の委員会設置会社の監査委員が取締役会で選任されたのとは異なります。

このような、「監査等委員会設置会社」という制度ができたため、従来の「委員会設置会社」については、「指名委員会等設置会社」に変更されました。
呼称が変更されただけで、基本的には従来の委員会設置会社と同じです。

なお、監査等委員会の「等」は、何が「等」なのか、条文を読んでみても分かりませんでした。
この「等」の意味について、知っている人がいれば教えて下さい。


3.社外取締役・社外監査役の定義の変更

社外取締役や社外監査役の「社外性」について、要件が厳格化されました。

大分規定が細かくなっているので、詳しくは条文を確認してもらうしかないのですが、例えば、親会社の取締役が子会社の取締役に就任する場合、社外取締役ではなくなります(現行法では、親会社の取締役であっても社外性を否定されません)。
また、兄弟会社(親会社が同じ他の会社)の業務執行取締役である場合も、社外取締役でなくなります。


4.監査役の監査の範囲の登記

公開会社でない株式会社の監査役は、定款によって、監査の範囲を会計に関するものに限定することができます。
そして、監査役の権限にこのような限定を付されている場合、当該会社は原則的な「監査役設置会社」の定義から外れます。

にもかかわらず、現行会社法では、監査の範囲を会計に関するものに限定する場合も、何ら区別することなく「監査役設置会社」として登記することになっています。
つまり、登記簿上「監査役設置会社」となっていても、厳密には監査役設置会社でない(監査役に、会計以外の監査権限が無い)こともあり得るわけです。

これは、最初から「おかしい」といわれていたことですが、今回の改正で、監査の範囲を会計に関するものに限定する場合はその旨も登記されることになります。


これらは改正のごくごく一部で、その他にも、特別支配株主の株式売渡請求権(議決権の9割以上を持っている株主は、他の株主から株式全部を売り渡すよう請求できる)が制定されたり、譲渡制限株式を発行する場合に募集株式の総数引受契約に株主総会の特別決議(取締役会設置会社では取締役会決議)が必要になったり、会社分割の際の債権者保護が強化されたりと、他にも重要な改正がたくさんあります。


ただでさえ長くて読みにくい会社法が、さらに文字数も条文数も増えてしまいました。
覚えることが一気に増えて受験勉強は大変になりますが、改正法が施行される前に合格すればよいので、頑張ってください。

(追記:平成27年度司法書士試験は、改正会社法の施行日にかかわらず、改正後の法律が適用されるようです。受験生の皆さんは気をつけて下さい。→参照

では、今日はこの辺で。


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2014年6月26日木曜日

代表取締役について

司法書士の岡川です。

株式会社には、(一部の大会社を除いて)必ず「代表取締役」が設置されます。
この代表取締役というのは、取締役や監査役と同じく、法律に定められた株式会社の機関です。

代表取締役は、「取締役の代表者」という意味ではなく、「会社の代表である取締役」という意味です。
言い換えれば、代表権を有する取締役のことを代表取締役といいます。
したがって、代表権を有する取締役が2人いれば2人とも代表取締役ですし、取締役全員が代表取締役でも構いません。


会社法では、取締役会設置会社については「取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。」(会社法362条3項)とされ、取締役会設置会社でない株式会社についても「取締役の中から代表取締役を定めることができる。」(会社法349条3項)と規定されていることから、特に「代表取締役」として選定された取締役のみが代表取締役であるというふうに誤解しがちです。

しかし、会社法上の定義としては、前述のとおり「株式会社を代表する取締役」が代表取締役です(会社法47条1項参照)。
そのため、取締役会設置会社でない株式会社において、特に誰かを「代表取締役」として選定しなかった場合、取締役全員が代表取締役であるということになります。
そうすると、肩書としては単に「取締役」と名乗っていても、法的には代表取締役の地位にある場合もある、ということになりますね。

代表取締役の資格としては、取締役であれば誰でも構いませんので、別に社長や会長でなくても代表取締役になれます(法律上は)。
逆に、社長が取締役でなければ、その社長は代表取締役にはなれません。
誰を代表取締役にするかは、定款にどう定められているかによります。


ちなみに、代表取締役というのは、主に株式会社に設置される機関ですので、合同会社合名会社などの持分会社や、その他の多くの法人には存在しません。
もちろん、個人事業主や任意団体にも代表取締役はいません。

別に「『代表者』をかっこよくいったもの」というわけではありませんので、注意しましょう。


では、今日はこの辺で。


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2014年6月24日火曜日

「等」に注意

司法書士の岡川です。

法律の条文を読んでいて、「○○等」という単語が出てきたら要注意です。
「等」がつくかつかないかで、その対象が異なるからです。

例えば、会社法において「役員」といえば「取締役・会計参与・監査役」の3つを意味します。
しかし、会社法で「役員等」とあれば、役員に加えて「執行役」と「会計監査人」を含めた意味になります。

会計監査人というのは、主に大会社で設置されるのですが、文字通り会社の会計について監査する機関です。
会計参与と違って、会計監査人になるには公認会計士か監査法人でなければならず、税理士では会計監査人になれません。


また、「公益法人」といえば、公益社団法人と公益財団法人のことですが、所得税法における「公益法人等」では、公益法人に加えて、NPO法人、医療法人、宗教法人、学校法人、社会福祉法人など、100種類以上の法人が含まれます。
司法書士会も公益法人等の「等」の中のひとつです。


単語の定義が法律によって(場合によっては、同じ法律でも条項によって)微妙に異なることはよくあります(「役員」の定義も、会社法と独禁法ではだいぶ違う)が、そこに「等」がつけば、さらに大幅に異なるのが一般的です。
金融商品取引法でしばしば出てくる「役員等」には、会社の従業員まで含んでいるものもあります。


法律の条文は一字一句漏らさず読まないと、全然意味が違ってくることがありますので、気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年6月23日月曜日

無資格でもタダでやるならいいのか?

司法書士の岡川です。

日本には、士業等の資格者のみが行うことができる「独占業務」というものがあります。

登記業務や裁判所提出書類作成業務であれば司法書士の独占業務ですし、税務代理や税務書類の作成は税理士の独占業務、社会保険関係の書類作成は社会保険労務士の独占業務、特許申請業務は弁理士の独占業務、他士業の独占業務となっていない行政庁へ提出する書類作成は行政書士の独占業務、といった具合です。
当事者を代理して紛争処理を行うのは、弁護士の独占業務で、これに違反するのが、いわゆる「非弁活動」というやつです(但し、140万円以下の紛争に関しては司法書士も業務を行えます)。

それぞれの根拠法(司法書士法やら弁護士法など)によって独占業務とされている業務を、無資格者が業務として行うと犯罪となります。

しばしば「事件屋」と呼ばれる人が示談代行をして弁護士法違反で捕まったり、最近では、行政書士が登記業務を行って司法書士法違反で捕まったり、税務署の関係者が脱税の指南をして税理士法違反で捕まったりするニュースがありました。


では、犯罪者にならないためにどうすればよいか。
これについて、こういう記事がありました。

なぜ家系図作成で逮捕?行政書士法とは何なのか
行政書士やその他先ほどお話しした資格が必要な仕事ですが、報酬をもらうことを目的とする場合のみ、資格がないと法律違反となります。
これは間違いです。

独占業務の法律違反になるのは、無資格者が独占業務とされている「業務を行った」場合、言い換えると「業として」行った場合に限られます。
したがって、例えば父親が所有している不動産の登記申請を子供が代わりにしたり、夫の確定申告書を妻が代わりに作成したりするのは、犯罪ではありません。

どういう場合に「業務」を行ったと評価されるかは、「反復継続して」あるいは、「反復継続の意思をもって」行った場合と解されています(最判昭和39年12月11日集刑153号647頁、税理士法基本通達、参照)。
この場合、実際に反復継続するかどうかは問いません。


では、反復継続する意思をもって、無償でやる場合はどうなるでしょうか。
「無償だったら業務じゃない」というふうに考える人もいるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

法律の規定の上で「報酬を得て」することが業務の内容として規定されているもの(行政書士法、弁理士法)や、「報酬を得て」あるいは「報酬を得る目的で」無資格者が業務を行うことが禁止されているもの(弁護士法、社会保険労務士法、公認会計士法等)があります。
これらの場合は、報酬を得て行うことが法律違反なので、逆にいえば報酬を得なければ犯罪にならないということになります。

ただし、上記最高裁判例(司法書士法違反事件)や税理士法の解釈通達にもあるように、上記のような規定でない限り、業務かどうかは、「報酬を得る目的の有無にかかわりなく」判断されます。
つまり、「報酬を得て」ということが、業務の内容、あるいは違反の要件となっていない司法書士法や税理士法上の独占業務については、「タダでやってあげたから業務じゃない」という言い訳は通用しないことになります(土地家屋調査士の業務や、海事代理士の業務も同様)。


つまり、法律でしっかり「報酬を得て」という規定になっていない業務については、タダでやっても犯罪なのです。
また、「報酬」が要件となる場合についても、お金を渡さずとも、何らかの利益を供与すれば、報酬となる可能性があります。


したがって、無資格者は、例えば家族に代わって1回きりの手続をするような場合を除き、専門的な手続を他人の代わりにやることは避けるのが安全です。
「タダなら大丈夫ってネットに書いてたから」といって安心して、犯罪者にならないようご注意ください。

では、今日はこの辺で。

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2014年6月18日水曜日

役員の肩書

司法書士の岡川です。

法律上、株式会社の「役員」とされるのは、取締役・監査役・会計参与(この3つが会社法上の役員)、執行役(会社法施行規則等での役員)、支配人(独禁法上の役員)くらいです。
しかし、現実の会社の経営陣の人たちは、色々な肩書を持っています。

例えば、日本の会社のトップは、基本的に「社長」と名乗っていますし、その下に「副社長」とか「専務」とか「常務」とか「統括部長」といった幹部の人がいます。

「社長」の上に「会長」がいることもありますね。
株式会社の「会長」とは、何の「会」の長なのか長年の疑問です。
ちなみに、以前はWikipediaで「会長」の説明が「取締役会の会長」となっていたのですが、「取締役会長」というのは、「取締役会-長」ではなく「取締役-会長」ですから、たぶんこの説は間違いだと思います(現在では修正されているようです)。
結局何の「会」なんでしょうね。


それはさておき、社長とか副社長とか、これらはすべて、法律上は何の意味もない肩書です。
ニックネームと同じです。
なので、会社に代表取締役(か代表執行役)がいないことは許されませんが、「社長」はいなくても法的には問題ないのです。

会社のトップが「代表取締役社長」と名乗っている場合、法的に意味があるのは「代表取締役」のほうで、「社長」というのは会社内部で決めた呼称にすぎません。

企業統治のためには、肩書があった方が便利だから任意につけているのです(定款で定めることもあります)。

そして、法的に意味がないほうの肩書については、そもそも名乗らなくても構わないものなので、肩書をつけたければ勝手につけて自由に名乗って構いません。

代表取締役が社長である必要はなく、逆に社長が代表取締役である必要もありません。
代表取締役常務がいてもいいし、取締役ですらない社長がいても構いません。

なんなら、代表取締役隊長でも、代表取締役提督でも、代表取締役兵長でも、別に構いません。


最近の会社は、CEOだとかCOOといったオシャレな肩書を付けている人もいますね。
一般的に、CEO(chief executive officer)は最高経営責任者、COO(chief operating officer)は最高執行責任者と訳されますが、日本の会社法制と全く異なるアメリカ等の会社法制における役員の呼称なので、日本の会社法にこれらに相当する役員はない(代表執行役が近いのかな)のですが、まあ、これも名乗るのは自由なのです。


このように、基本的に勝手に名乗っているだけなので、どう名乗ろうが自由なのですが、一点だけ注意が必要です。

それは、代表権を持たない人が社長とか副社長とか会長とかを名乗っていた場合、取引相手がその人を代表者だと誤認して取引すれば、実際には代表権を持っていない人による契約であったとしても、有効に成立してしまうことがあるということ(会社法354条)。
相手方を保護するためですね。

CEOとかCOOとかだとどうなるのか…この辺の判例はありません(たぶん)。

なので、代表者以外にあまり無茶な肩書を付けるのは避けましょう。
何より、ふざけてると思われますし。

では、今日はこの辺で。


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2014年6月17日火曜日

「執行役員」という名の役員じゃない人

司法書士の岡川です。

前回、株式会社の「役員」を紹介しましたが、世の中には「執行役員」という肩書をお持ちの「会社の偉いさん」もおられます。
この「執行役員」とは何者でしょうか。

執行役員は、前回紹介した、委員会設置会社における「執行役」とは異なります。
「執行役」は、委員会設置会社において、取締役会の決定した方針に従って実際に業務執行をする機関として会社法にその地位が規定されています。
また、取締役会から執行役に業務執行の決定を委任することができ、取締役会は業務執行の監督に専念することになります。


これに対し、執行役員というのは、会社法のどこにも出てきません。
つまり、それぞれの会社が勝手に与えた、会社内部の役職ということです。
もちろん、法律上の「役員」ではなく、あくまでも「使用人(=雇われる側の人)の中の偉い人」です。

どれくらい偉いのか(どんな権限を持っているのか)は、会社のルールによって決まるので、会社ごとに異なります。
少なくとも、重要な業務執行の決定権はありませんし、代表権もありません。
業務執行の決定は取締役や取締役会の権限であり、代表権を付与できるのは取締役に限られるからです。


一般的には、取締役会が経営の意思決定をし、取締役会の決定に従って執行役員が業務を執行するという役割分担がなされます。
取締役会は、経営方針の決定と監督に専念する一方、業務執行は取締役会を構成しない執行役員に委ねることで、取締役を減らして取締役会の意思決定の効率化が図られています。

このように、本来は「経営(監督)と執行の分離」を目的として作られた執行役員制度ですが、執行役員が会社法上の役員を兼ねているというパターンも少なくありません。
そもそも代表取締役は業務執行権限を有しているわけで、もう何が何やら・・・。


ちなみに、投資法人という種類の法人では、業務を執行する役員(株式会社の取締役にあたる役員)のことを執行役員といいます。
これは、株式会社における執行役員と違って、きちんと法律で規定された機関ですので、区別しましょう。


では、今日はこの辺で。


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2014年6月16日月曜日

株式会社の役員

司法書士の岡川です。

株式会社には、会社の構成員(社員)である「株主」のほか、会社の経営に携わる「役員」が存在します。
「役員」は、いくつかの法律によって別々の定義がなされているため、微妙にその範囲が異なるのですが、取締役や監査役などが役員です。

株主と役員は同一人でも構いません(し、実際に多くの中小零細企業でそうなっています)が、理念的には、株主と役員は別々であることが想定されています(「所有と経営の分離」)。
また、現行会社法の施行により、会社の機関構成がかなり自由になったため、会社にどのような種類の役員がいるかは、会社ごとに異なります。

具体的な役員の種類は次のようなものです。


1.取締役

取締役は、株式会社に必ず置かれる役員です。
会社の経営方針について意思決定を行ったり、業務執行の中心的な役割を担っています。

取締役が3人以上いる場合、定款で取締役会を設置することも可能ですが、取締役会設置会社においては、取締役は取締役会の構成員になります。
かつては、株式会社には取締役会が必置機関(したがって、取締役も最低3人必要)でしたが、現行の会社法の規定では、取締役会を設置するかしないかは自由となっており、少なくとも取締役が1人いればそれで足ります。

2.監査役

監査役は、取締役等の職務執行を監督する役員です。
株式会社では、取締役がアクセルで、監査役がブレーキの役割を果たします。

かつての法律(商法)では、株式会社を作るには、取締役会(3名以上の取締役)と監査役が必置機関でした。
そのため、かつての中小企業においては、夫婦と誰かもう一人(例えば父親)を取締役にして取締役会を構成し、さらに誰か適当な人(例えば母親)を監査役に置いておく、というふうに、名ばかり監査役が大量に存在しました。

監査役制度があまりにも形骸化している上に、実際問題としても小規模な会社で監査役を置くというのは現実的でないため、監査役も必置機関ではなくなりました。

ただし、取締役会を設置する場合等、必ず監査役を置かなければならない機関構成も存在しますので注意しましょう。

3.会計参与

聞き慣れないかもしれませんが、現行会社法では、会計参与という役員が存在します。
現行会社法では、小規模な株式会社の実態に即して、監査役を置かなくてもよくなりました。
そうなると、法律上の監督機関が存在しなくなり、計算書類の適正が担保されなくなります(まあ、もともと名ばかり監査役がその役割を果たしていたかというと、全くそうでもないのですが…)。

その穴を埋めるため、取締役と共同して計算書類を作成する会計参与という役員が新設されました。

この会計参与は、公認会計士か税理士でなければなりません。
すなわち、従来から中小企業の会計や税務の顧問として外から経営に関与してきた会計の専門家を、役員として会社組織の中に組み込む制度です。

まだまだ一般的な制度ではありませんが、会計参与を設置すれば、取締役会設置会社であっても監査役を設置しなくてもよくなるなど、メリットも存在します。

4.執行役

「委員会設置会社」という、特に大規模な会社(ソニーなど。みずほFGも近々委員会設置会社に移行予定)において採用されている機関構成の会社においては、業務執行を行うのは、取締役ではなく執行役という機関になります(取締役は、取締役会の構成員として意思決定を行う機関)。
この執行役は、会社法では役員とはされていませんが、会社法施行規則や独占禁止法、金融商品取引法などにおいては、役員の定義に含まれます。

5.支配人

支配人とは、本店や支店で事業に関する包括的な代理権を付与された人をいいます。
会社組織における地位としては、代理権を付与されている使用人(=雇われる側の人間)なので、会社法や会社法施行規則等では役員とはされていませんが、独占禁止法上は役員に含められています。


ざっと概観しただけですが長くなったので、ここらで切りましょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年6月13日金曜日

「違法」と「不法」の違い

司法書士の岡川です。

今日は少し専門的というよりマニアックな話。

法律に違反していることを、「違法」といったり「不法」といったりしますね。
では、「違法」というのと「不法」というのでは、意味に違いはあるのでしょうか。

日本語の意味としては、どちらも同じように法に背くことをいいます。
法律用語としても、基本的にはどちらも同じ意味です。

条文上は「不法」と規定されている場合は、実質的な意味の違法性を意味することが多い、という説明がされることもあります。
ただ、それも、用例として「そういう例が多い」というだけで、別に「違法」は形式的な違法性で「不法」は実質的な違法性である、という定義の違いがあるわけではありません。

用例の話でいえば、「不法性」という表現はあまり使われず(使うこともありますが)、性質をいうときは「違法性」というのが一般的ですね。

民法上の「不法行為」という場合は、必ず「不法」です。
これは、「不法行為」でひとつの単語だからです。


もっとも、刑法学の世界では、意識的に違法と不法が使い分けられる場合があります。
すなわち、不法とはドイツ語の「Unrecht」に対応する概念で、違法(性)はドイツ語の「Rechtswidrigkeit」に対応する概念という区別です。

その場合の不法(Unrecht)とは何かというと・・・これは、あまりにも専門的になりすぎるので省略。

ただ形式的な違いとしていえることは、この場合の「不法」は、否定的評価を受ける実体のほうを指す語で、その性質を表す語ではないんですね。
ヴェルツェルという(超有名な)ドイツの刑法学者の見解に基づく区分ですが、違法性とは法秩序との関係性(不調和)を表す概念であり、不法というのは法秩序と調和しない実体そのものを指します。
つまり、「違法性」は賓辞であり、「不法」は実体を表す名詞である、というふうに説明されます(あくまでもヴェルツェルの定義です)。

この場合、「不法」と「責任」が対応して、「違法性」と「有責性」が対応します。

まあ、ここまで厳密な使い分けをするのは、純粋理論的な分野に限られるので、あまり意識しないでいいと思いますが、明らかに両者を使い分けている文脈に出会ったら、上記のような使い分けがされている可能性が高いです。


以上、知っていても生きていく上で何の役にも立たない情報でした。

では、今日はこの辺で。

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2014年6月12日木曜日

合名会社と合資会社

司法書士の岡川です。

合同会社については書いたので、合名会社と合資会社についても書いておきましょう。

合名会社と合資会社は、どちらも「持分会社」の一種です(持分会社の意味については、「合同会社の話」参照)。
会社の構成員は「社員」と呼ばれ、株式ではなく「持分」を有します。

合同会社との違いは、合同会社の社員が「出資した限度で責任を負う」という「有限責任」を負っているのに対し、合名会社では社員(会社の構成員の意味です)の全員が、合資会社では社員の一部が、「無限責任」を負うということです。

・合同会社=全員が有限責任社員
・合名会社=全員が無限責任社員
・合資会社=有限責任社員と無限責任社員が混在

社員が無限責任を負うということは、会社の債務について、社員が無制限に弁済する義務を負うことを意味します。
つまり、株式会社や合同会社では、会社が倒産した場合、「株主や社員の出資金が戻ってこない」という限度で責任を負います(有限責任)。

しかし、合名会社の社員や合資会社の無限責任社員は、債権者から「会社に金が無いなら代わりに社員が金払え」と請求される立場にあるのです。

会社の債務は、全て社員が支払う義務を負うわけで、無限責任社員になるということは、それだけのリスクがあります。
事業のにおける債務が全て個人の負担になるという点で、個人事業主と同じだということになります。


合名会社・合資会社のメリットとしては、「持分会社なので設立が簡単」という点があげられますが、それならあえて無限責任を負わなくてもよい(合同会社を作ればよい)ですし、現行の会社法では、株式会社の設立も昔ほど厳格な要件を求められておりませんから、株式会社の設立がそれほど難しいというわけでもありません。

合名会社や合資会社は、ほとんどが「昔からある会社」です。
株式会社の規制が緩和され、合同会社という形態も選択可能な現行法においては、新規に合名会社や合資会社を設立するメリットはあまり無いと思われます。

では、今日はこの辺で。


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2014年6月11日水曜日

休業損害(交通事故の損害各論)

司法書士の岡川です。

交通事故の損害項目の各論第4弾です。
今日は、休業損害について。

休業損害とは、読んで字のごとく、休業によって生じる損害です。

例えば給与所得者(サラリーマン)の場合がわかり易いのですが、事故で怪我をして、会社を休まなければならなくなったとします。
ノーワーク・ノーペイの原則」(働いていない分は給料が支払われないという原則)がありますので、会社を休めば給料は減額されることになります。

交通事故に遭わなければ出勤できていたはずで、出勤できていれば、その分の給料が支払われていたはず。
よって、交通事故が原因で出勤できずに支払われなかった額は損害となるわけです。
これを休業損害といいます。

「サラリーマンが会社を休んで給料が減額された」という事例であれば、減額された分(もちろん、事故にかこつけてズル休みした分は除きます)が損害なのでわかり易いのですが、どこまでが休業損害と認められるかは、色んな事情により問題が生じます。


1.有給休暇をとった場合

事故で休む時に、律儀に有給休暇とした場合、休んでも給料は減らされません。
有給ですから。

しかし、有給休暇は労働者の権利として自由に使うことのできる休暇であり、それ自体が財産的価値を有します(といっても、それを売ったり買ったりできるものではありませんが)。
事故によって休養のために使われることになれば、その財産的価値が侵害されたことになります。
そこで、有給休暇をとったために、現実にはその間も給料が支払われていたとしても、休業期間に含めて算出した額が休業損害として認められます。


2.事業主の場合

休業しなければ得られていたはずの売上額から、その売上のために必要な経費を差し引いた額が休業損害となります。
ただし、賃料とか光熱費とか従業員の給料等といった固定費については、休業中であっても(すなわち、売上が無い場合も)必要になってきますから、これは差し引かずに計算します。
まあ、当然といえば当然です。

売上額は、基本的には確定申告書を基準に算定します。
そのため、売上を過少申告していたり、経費を架空計上していたりしたら、面倒なことになります。
日頃から、税務申告は正直に行っておきましょう。

なお、自分が休む代わりに誰かを雇用した場合などは、その支出分も損害として認められます。


3.専業主婦(主夫)の場合

専業主婦(主夫)は、怪我で入院したからといって、給料が減るということはありません。
しかし、専業主婦の家事労働は、現実に対価を得ていないとしても、財産的な利益を生じるものであると考えられています。
したがって、休んだ分は、休業損害として認められます。
具体的な額は、女性労働者の平均賃金を基に算出されることになります。

また、臨時に家政婦を雇った場合などは、必要と認められる範囲内でその費用も損害と認められます。


4.無職の場合

基本的には、休業損害は認められません。
休業も何も、最初から仕事していなければ減収もなく、損害が生じていませんからね。

ただし、就職予定があった場合や、近いうちに就職する蓋然性があった場合などは、予定された時点以降は就職して収入を得られていたはずなので、そこで得られたはずの収入分が休業損害として認められます。


現実問題として、そう簡単に仕事を休めないということはあるでしょうが、最初にきちんと治療をしたり安静にしておかなければ、一生後悔することにもなりかねません。
休業損害は補償してもらえるということも頭に入れて、対応を考えましょう。

ちなみに、いうまでもありませんが、「大した怪我ではないから働けるのに、交通事故を口実に働かない」というのは単なるサボりですので、給料がもらえず、休業損害も認められない、ということになります。
そこは誠実さが必要です。

では、今日はこの辺で。


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4.治療関係費(交通事故の損害各論)
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2014年6月10日火曜日

ノーワーク・ノーペイの原則

司法書士の岡川です。

当たり前といえば当たり前なのですが、賃金(給料)というのは、働かなければもらえません。

会社に雇われている人が、何らかの事情(病気や怪我等)で出勤できなかったり、無断で仕事をサボったりして、労働しなかった場合、その分の賃金は発生しません。

これを、「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます(pay=賃金)。
「働かざる者食うべからず」をちょっと今風にカタカナ語でいってみた感じですね。


自分自身が原因で働いていない場合(自ら休暇をとった場合、遅刻、サボり等)に対価である賃金をもらえないのは当然ですが、必ずしも自分のせいでない事情によって働けない場合についても(例えば、電車が止まって職場に行けなかった場合や、休みの日に交通事故にあって入院した場合など)、この原則は妥当します。
その実定法上の根拠としては、民法第536条1項の「危険負担」の規定です。

危険負担とは、債務が履行されない場合に、その不利益を債権者と債務者のどちらに負担させるかという問題なのですが、民法536条は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」という原則を規定しています。

労働債務の債務者が労働者で、反対給付とは、その労働の対価である賃金になりますね。

つまり、不可抗力によって労働できない場合なども、賃金をもらえないということです。

他方、働けない原因が会社側にある場合は、働かなくてもお金をもらえます(民法第536条2項の反対給付請求権や、労働基準法26条の休業手当規定)。
いくらもらえるかは、事情によります(民法が適用される場合か、労働基準法が適用される場合かによっても異なる)。


それから、年次有給休暇というのは、ノーワーク・ノーペイの例外です。
有給休暇を使って休んでいる分に関しては、休んでいてもお金をもらえます。
これは労働者の権利として保護されています。

なお、労働契約で、「働かなくても一定額の給料をあげる」という契約をすることは別に構いません。


では、今日はこの辺で。


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2014年6月9日月曜日

暴行と傷害の違い

司法書士の岡川です。

「暴行」と「傷害」、どちらも犯罪であることに変わりありませんが、暴行罪と傷害罪では犯罪類型が異なります。
同じようなもんだろうと思われるかもしれませんが、きちんと違いがあるのです。


暴行罪というのは、「不法な有形力の行使」を内容とする犯罪です。

典型的には、殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたり、というのがこれにあたりますが、石を投げつけたり、水鉄砲で水をかけたり、塩を振りかけたりするのも、場合によっては暴行罪が成立します。
けっこう範囲の広い犯罪ですが、その代わり比較的軽い類型になっています(最高でも懲役2年)。

ただし、暴行によって相手が怪我をした場合、傷害罪が成立するので、法定刑も最高で懲役15年まで跳ね上がります。
比較的軽い暴行罪で済むのは、相手が怪我をしなかった場合に限られるのです。


傷害罪というのは、人を傷害した場合に成立します。

一般的には、暴行によって相手が怪我をした場合、というのが考えられますが、暴行によらない傷害というのもありえます。
例えば、毒物を混入して相手の体調に異変を生じさせたら、傷害罪ですね。


暴行罪には、未遂犯処罰規定がありません。
すなわち、「暴行未遂」では、犯罪は成立しません。

他方、「傷害未遂罪」という犯罪は存在しませんが、傷害の未遂は暴行罪が成立する可能性があります。
これは、有形力の行使の結果としての傷害が、未遂に終わった場合の話です。
ただし、「暴行によらない傷害」の未遂を処罰する規定は存在しません。
「毒物を混入したが相手がそれを飲まなかった」という場合には、暴行罪は成立しませんし傷害未遂罪も存在しません(その他の特別法上の犯罪が成立する可能性はあります)。


それから、過失の場合、「過失暴行罪」という犯罪は存在しませんが、「過失傷害罪」というのは存在します。

「殴るつもりはなかったのに、間違って殴ってしまった」という場合、相手が怪我をしなければ無罪です。


このように、ある行為が暴行なのか傷害なのかで大きく結論が異なってきますが、「何をもって傷害というか」は、見解が分かれています。
例えば、「無理やり相手の髪の毛を切る行為は傷害か」という議論です。

この点、判例・通説では、髪の毛を切っても傷害にはならないと解されています(生理的機能障害説)。
他方、無理やり引き抜いたら傷害罪が成立する可能性があります。


なお、いうまでもありませんが、犯罪が成立しない行為であっても、違法なものは違法なので、不法行為が成立する可能性はあります。
ご注意ください。

では、今日はこの辺で。


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2014年6月6日金曜日

合同会社の話

司法書士の岡川です。

昨日の記事に出てきましたが、合同会社というのは耳慣れない言葉だな、と思われた方も少なからずおられると思いますので、ついでに合同会社の話もしておきましょう。

日本の会社法に規定された「会社」には、「株式会社」だけでなく「持分会社」という形態が存在します。

株式会社は、会社構成員(株主)の地位が「株式」の形で細分化され、所有と経営が(理念的には)分離した会社形態です(詳しくは「所有と経営の分離」参照)。
これに対し、所有と経営の分離が(ほぼ)なされておらず、会社構成員が持分権を有するとともに経営にも参加する会社形態を「持分会社」といいます。
持分会社の構成員の地位は株式のように自由に譲渡することもできません。


この持分会社は、社員(構成員)の責任に応じて、「合名会社」「合資会社」「合同会社」の3種類が存在します。
中でも合同会社は、会社法制定によって新しく創設された会社形態です。

合同会社は、全ての社員が「有限責任」を負う持分会社です(厳密には、間接有限責任といいます)。
有限責任とは、出資額の限度で責任を負うことをいいます。
つまり、会社が解散することになれば、既に出資したお金は戻ってきません(その意味で責任を負う)が、それ以上に責任を負うことはないということです。
この点では、株式会社における株主と共通です。


理念的には、株式会社と持分会社には大きな違いがありますが、現実には、多くの株式会社(特に、大多数を占める中小零細企業)では、定款で株式に譲渡制限が付されていて自由な株式譲渡はできないし、株主が一人(又は少数)で株主自身が取締役になっています。
株式会社であっても、持分会社のような閉鎖的な会社形態をとっていることが多いのです。
特に合同会社は、社員の責任の点でも株式会社と共通していますので、多くの株式会社とほとんど差がありません。


では、あえて合同会社を作るメリットは何かというと、設立費用が若干安いということがあります。

まず、定款認証が必要ないので、公証人手数料が5万円ほど浮きます。
さらに、設立登記の登録免許税の最低額が6万円と低額です(株式会社は最低15万円)。
それから、役員の任期が無いので、定期的な役員変更登記が必要ありません。

大規模な合同会社になると、決算公告が必要ないとか、株主平等原則がないとか、持分会社であることのメリットが他にもあるのですが、中小企業レベルでは、登記手続にかかる費用が安くて済むことが大きなメリットです。


それでも多くの中小企業が株式会社を選ぶのは、やはり信用力とイメージの差でしょうね。
数万円をケチって融資を受けられないリスクを負うくらいなら、株式会社を選ぶ、ということです。

というわけで、起業を考えている方で、「できる限り初期費用を抑えたい」とお考えの方などは、合同会社も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

では、今日はこの辺で。


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2014年6月5日木曜日

日本餃子協会VS日本餃子協会

司法書士の岡川です。

(追記有り。追記部分は下線)

ネット上で、「日本餃子協会」という団体が色々と話題になっています。

まず、少し前に、日本餃子協会の公式キャラクターとして誕生した「ちゃおず君」が衝撃的だとして話題になりました。

そして、しばらくして、今度は日本餃子協会の「公式サイトが面白い」と話題に。


ところが、「ちゃおず君の日本餃子協会」と、「公式サイトが面白い日本餃子協会」は、全く別団体だということです。
しかも、ちゃおず君のほうの協会が「日本餃子協会」を商標登録しており、公式サイトが面白いほうの協会に、名称を使わないよう求めているということです。


整理しますと、

合同会社日本餃子協会
読み にっぽんぎょうざきょうかい
代表 松崎成吉
公式キャラクター ちゃおず君
備考 以前から餃子の食べ歩きをブログで公開する等活動。メディアで取り上げられることもあったらしい。「日本餃子協会」の商標登録。


日本餃子協会(任意団体)
読み にほんぎょうざきょうかい
代表 木下淳一
公式キャラクター 餃子野郎
備考 以前からメディア等に取り上げられるなど、積極的に活動。公式サイトが話題に。


これは、どちらが正統の日本餃子協会になるのでしょうか。

活動履歴や実績からいうと、餃子野郎のほう(以下「野郎協会」)が正統っぽい感じがします(ただし、実績の判断材料はHP上で公開されているものに限る)が、商標権を有するのは、ちゃおず君のほう(以下「ちゃおず協会」)です。

日本の商標法では、同じ商標は先に出願したほうが勝ちという制度になっています(先願主義)ので、仮に野郎協会が昔から使っていても、先にちゃおず協会が出願して登録が認められてしまえば、ちゃおず協会が正当な権利者となります。
不服申立の制度はありますけどね。

そして、今のところ、正式にちゃおず協会に商標登録が認められていることから、法的には、「日本餃子協会」と名乗れるのは、ちゃおず協会のほうだということになりそうです。
野郎協会のほうは、何らかの対策が必要です。


ところで、同じような団体に「日本唐揚協会」というものがあります。
こちらも、唐揚検定とかベストカラアゲニストとかでメディア等でもしばしば話題になる団体です。
ちなみに2014年のベストカラアゲニストは、声優の下野紘さんが3連覇したみたいですね。

まあ、それはさておき、「日本唐揚協会」の商標はどうなってるのかな、と思って調べてみましたら、こちらも登録されていました

あ、やっぱりこういうのは登録するんですね。


商標 日本唐揚協会
権利者 松崎 成吉





ん?




あなたもしや、ちゃおず協会代表の認定ギョーザニストさんでは…?



これは一体…!?


・・・。



では、今日はこの辺で。


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2014年6月4日水曜日

取締役や監査役になれる最低年齢

司法書士の岡川です。

実は会社法では、株式会社の役員(取締役等)の欠格事由として「未成年者」というのは規定されていません。
したがって、会社法上、親権者の同意さえあれば取締役になることができます。

しかし、取締役会設置会社以外の会社においては、取締役の就任には、就任承諾書に押した印鑑に係る印鑑証明書が就任登記申請の添付書類となっています。

そうすると、印鑑登録をしていない人は、

印鑑証明書を添付することができない=登記申請ができない=取締役の登記をすることができない

ということになります。

そこで、印鑑登録をできる年齢は何歳かということになりますが、これは市町村によっても異なり、だいたい15~16歳くらいになれば可能となります。
ということは、15~16歳くらいにならなければ、事実上取締役になれないというわけです。

他方、取締役会設置会社の場合、代表取締役の就任登記には印鑑証明書を添付する必要がありますが、単なる取締役の就任登記には印鑑証明書を添付することになっていません。

ということは、取締役会設置会社の平取締役であれば、小学生でも取締役になれるということです(親権者の同意は必要)。

ただしこの場合も、代表取締役を選定した取締役会議事録には原則として出席取締役全員が押印し、その印鑑に係る印鑑証明書を添付する必要があります。
小学生が平取締役になると、ここで代表取締役就任登記が申請できないという問題が生じます。
まあ、この問題は、代表者印を議事録に押印して出席取締役の押印を省略するとか、代表取締役の選任機関を取締役会ではなく株主総会にするとか、小学生は代表取締役選任のための取締役会を欠席してもらうとかで回避できますね。


同じような理屈で、小学生でも監査役に就任することが可能です。
監査役の就任登記には、印鑑証明書の添付が求められていないので。
(同じく、代表取締役選任の取締役会に出席監査役として押印が必要な場面になれば、取締役会を欠席してもらいましょう。)


では、この理屈で、もっと低年齢の、例えば幼稚園児の取締役とか監査役とかも登記できちゃったりする?…となりそうですが、そこまでいくと今度は意思能力が問題となってきますので、さすがに就任することはできません。


さあ、小学生高学年くらいの、企業経営に興味のある皆さん。
明日から取締役会設置会社の平取締役とかに就任してみませんか?

私はオススメしませんけどね!

では、今日はこの辺で。

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2014年6月3日火曜日

破産と免責

司法書士の岡川です。

前回、倒産の話をしたので、その関連で、破産について基本的な情報を書いておきます。

破産というのは、「借金が棒引き(チャラ)になる制度」というイメージの方が多いと思います。
そのイメージは、ほぼ正しいのですが、厳密にいうと正確ではありません。

会社等の法人が破産した場合、その法人は解散してしまうので「破産=全てチャラ」といっても間違いではありません。

しかし、個人の自己破産の場合は、もう少し正確に理解しておく必要があります。

「破産する」といった場合、昔は「破産宣告」を受けることをいいましたが、現在は「破産手続開始決定」がなされることをいいます。
実体としては一緒なのですが呼び方が変わっています。

この破産手続というのは、実は「借金をチャラにする手続」ではありません。
破産手続自体は、残っている財産で売れるもの(売ることが法律上禁止されていないもの)は売って、その代金を債権者に公平に分配するという制度です。

つまり、破産手続が開始すると、その時点での財産を公平に分けることになり、公平に分け終わったときに破産手続が終わります。

これが原則的な「破産」の制度です。
つまり、破産しただけでは、全財産の売却代金から返済しきれなかった債務は残ることになります。

ただ、それだけでは借金が残った破産者の生活再建ができません。
そこで、「免責」という制度があります。

この免責というのが破産者の残りの債務を免除する、つまり「借金をチャラにする」制度なのです。

破産手続開始申立の他に、免責許可申立をして、裁判所が免責許可の決定をすれば借金がチャラになります(もっとも、免責許可の申立ては、破産手続開始の申立てをすれば同時に申し立てられたものとみなされます)。


借金の相談を受けたとき、便宜的に「破産できる」とか「破産できない」とかいう説明をすることもありますが、厳密にいえば、大抵の場合、(借金が返せない以上は)破産自体はできるのです。
ただ、「免責を受けることができない」という場合があるだけで。

厳密に説明する場合は、「破産はできますが、免責については・・・」という説明になります。

なお、最初に述べたとおり、法人については、破産すれば最終的に法人自体が解散して消滅してしまうので、免責がどうとかいう問題にはなりません。

では、今日はこの辺で。


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