2013年12月11日水曜日

「共謀罪」と現行法の違い

司法書士の岡川です

ここにきて急にまた共謀罪の話が出てきました。
正確には、組織犯罪処罰法の改正案なのですが、今まで何度も国会に提出されては廃案になってきたものが、次期通常国会にまた法案が出されるとか出されないとか。
特定秘密保護法が成立したところなので、不穏な空気が漂っていますね。

これまた政治的な話題になりますので、例によって法案の是非はひとまず置いて、今日は普通に刑法のお話をします。

現行刑法や特別刑法には、いろんな犯罪類型が存在しますが、それらは通常、他人の法益(法によって保護すべき利益)に対する侵害となるような行為です。
刑法というのは、法益侵害を防ぐためのものですから、法益と無関係なものを犯罪を規定しても意味がないからです。
無意味な犯罪類型を設けて、それによって犯罪者を処罰すれば、国家による不当な人権侵害ということになってしまいます。

そういうわけで、犯罪は、何らかの意味で法益に関係するのですが、必ずしも「現実的に法益が侵害された場合」のみが犯罪になるわけれはありません。
法益侵害という結果との「距離」によって、いくつかのパターンが存在します。

まず、実際に法益侵害結果をもたらした場合、これは「既遂犯」といいます。
犯罪の基本類型ですね。
殺人既遂罪は、人を刺して相手が死んだ段階で成立します。

法益侵害結果から少し離れて、犯罪に着手したけれど、結果の発生に至らなかった場合は、「未遂犯」といいます。
殺人未遂罪は、人を刺したけど相手が死ななかった場合ですね。
未遂罪は、個別の規定において、未遂を罰するとされている場合にのみ成立します。

さらに法益侵害結果から離れて、犯罪に着手する前、準備をした段階で成立する犯罪を「予備罪」といいます。
殺人予備罪なら、人を刺すためのナイフを準備して待ち構えている段階ですね。
予備が処罰対象となっているのは、一定の重大な犯罪に限られます。

もっと法益侵害結果から離れて、犯罪の謀議をした段階で成立する犯罪を「陰謀罪」といいます。
陰謀罪は、殺人にすら規定されておらず、刑法典には「内乱陰謀罪」「外患誘致陰謀罪」「外患援助陰謀罪」「私戦陰謀罪」のみ存在します。
要するに、陰謀罪があるのは、武力革命とか戦争を起こす場合に限られています。


さて、共謀罪というのは、現行法においては、極めて限定された特殊な犯罪類型においてのみ「陰謀罪」として個別に規定されている「謀議のみで犯罪成立」という規定を、組織犯罪については、もっと一般的に(一定以上の重い犯罪に)適用しようとするものです。


何度も廃案になったことからも分かるとおり、これは極めて批判の強い法案です。
その一方で、テロ対策のために必要性が訴えられて、何度も議題に挙がっています。

極論、暴論、陰謀論、感情論、その他しょうもない主張に振り回されることなく、冷静に議論が行われることを望みます。

では、今日はこの辺で。

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