2013年9月10日火曜日

プロボクサーに正当防衛は成立しないのか?

司法書士の岡川です。

俗に、「空手の有段者とかプロボクサーは、肉体自体が凶器になるから、正当防衛が成立しない」といった話がありますが、これに対してボクサーが怒りを綴っています。

ただ、根本的に誤解をしておられるようです。

長谷川穂積、ボクサーへの法律に怒り「プロだから殴ってだめは納得いかない」(ORYCONSTYLE)
ボクシング元世界2階級王者の長谷川穂積が、9日付の自身のブログで、プロボクサーであれば状況にかかわらず法律によって手が出せないことに怒りを覚えている。
「プロボクサーは凶器だから手を出したらダメて法律はなんのため? 打ち所が悪くて事故になるようなことがあっても、プロボクサーだから手を出すなてこと?」
「柔道や空手はプロがないからよくて、ボクサーはプロの肩書きがあるから出すなて? 1対10でも凶器だからだめてことか? じゃプロボクサー同士なら町でケンカしてもいいてことか? そんな法律おかしいわ」
「町で人を殴るためにプロになるためじゃないけど、プロになっても自分や仲間や大切な人を守るときも生きてたらあると思う」

そもそも、「プロボクサーは凶器だから手を出したらダメ」というような法律はありません。
「プロボクサーであれば状況にかかわらず法律によって手が出せない」という前提が誤りです。

確かに、正当防衛が成立するかどうかの判断において、プロボクサーであることも「ひとつの判断要素」として考慮されるでしょう。
正当防衛というのは、反撃が必要最小限でなければならず、不必要に過剰な反撃行為は許されません。
場合によっては人を殺しても罪に問われない(正当化される)制度なので、それ相応の理由(やむを得ない反撃であること)が必要なのです。

そうすると、一般人と比べて格闘技術も攻撃力も高いプロボクサーは、反撃行為が過剰になる可能性が高いため、正当防衛が成立しにくいとはいえます。
しかし、「プロボクサーでないこと」は、正当防衛の絶対的な要件ではなく、あくまでも「ひとつの判断要素」です。
「プロボクサーは自身の拳が凶器だから」というのも一種の比喩であって、「凶器とみなす」という法律があるわけではありません。
それに、たとえ本当に凶器をもっていたとしても、要件さえ満たせば正当防衛が成立することはありえます。

あくまでも程度問題であり、「素手で反撃するより、包丁で反撃したほうが正当防衛が認められにくい」といったのと同じレベルの問題なのです。
場合によっては、包丁で反撃しても許されるのと同様に、状況次第でプロボクサーにも正当防衛は認められます。

そういうわけなので、「ボクサーはプロの肩書きがあるから出すな」というような決まりはありませんし、逆に「柔道や空手はプロがないからよい」というものでもありません。
誰から聞いたのか分かりませんが、プロかプロでないかは、全く関係ありません。
柔道や空手であっても、プロボクサーとほぼ同じことがいえます。

「1対10でも凶器だからだめ」ということもありません。
あくまでもケースバイケースで、どのような反撃をしたか、によります。


「そんな法律おかしいわ」と書かれているようですが、おっしゃるとおり、そんな法律おかしいですね。
そんな法律が本当にあれば・・・の話ですけど。

なお、正当防衛は例外的に違法性を否定するものです。
プロだろうがアマチュアだろうが、またボクサーだろうが公務員だろうが、簡単に正当防衛が成立することはありません。
逃げられる状況なら逃げる、というのが、犯罪成立を免れる最も確実な方法だということを覚えておきましょう。

では、今日はこの辺で。

1 件のコメント:

  1. 私にとっては、「がんばれ元気」というボクシング漫画で読んだのが最古の記憶です。正当防衛不成立にまでは言及していませんでしたが。

    返信削除