2013年8月8日木曜日

憲法の番人?内閣法制局長官

司法書士の岡川です。

内閣法制局長官の人事が決定し、それが、内閣法制局内部の人物ではなく、外務省出身者が起用されたことで話題になっています。

内閣法制局長官に小松氏…憲法議論の活発化狙い(読売新聞)
政府は8日午前の閣議で、小松一郎駐仏大使を内閣法制局長官に充て、長官を退任する山本庸幸氏を最高裁判事に起用する人事を決めた。
小松氏への発令は8日付。山本氏への発令は20日付。
小松氏は外務省出身で、内閣法制局の勤務経験がなく、いずれも内閣法制局長官として前例がない。小松氏は集団的自衛権行使を可能にする憲法解釈見直しに前向きとされ、安倍首相は小松氏の起用で、見直しをめぐる議論を活発化させる狙いがある。
内閣法制局長官とは、内閣法制局の長です。
内閣法制局とは、内閣に置かれる機関で、内閣提出法案の審査して法令間の矛盾や憲法適合性をチェックしたり、行政機関の法解釈の統一を図ったり、国内外の法制について調査を行ったりするところです。

報道において、しばしば内閣法制局が「憲法の番人」と紹介されますが、内閣法制局は憲法の番人でもなんでもありません。


国家機関のうち、法令の解釈をするのは、別に司法機関である裁判所の専権事項ではなく、行政府や立法府も独自に行うことができます。
行政府の解釈を「行政解釈」、立法府の解釈を「立法解釈」といいます。

ただし、解釈に争いが生じた場合に、最終的に「これが正しい解釈である」という結論を示すことができる機関が裁判所であり、その中でも最後の最後の判断を下すのが最高裁判所です。

そして、裁判所は、立法府(国会)が作った法律や、行政府の行った処分が憲法に適合しているか審査しする権限を有しています。
日本国憲法は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」(81条)と規定しています。
この、最高裁判所及び下級裁判所が有している、法令等の憲法適合性を審査する権限を違憲審査権といいます。

このように、裁判所は、あらゆる国家作用が憲法に適合するかしないかを最終的に判断し、かつ、適合しない場合にそれを無効にする(なかったことにする)権限を有しているため、裁判所(その中でも特に最高裁判所)のことを、「憲法の番人」と呼ぶのです。

これは、中学校くらいで習いますよね。


さて、そういう役割をもつ裁判所のことを「憲法の番人」と呼ぶのですが、ひるがえって内閣法制局をみてみましょう。

内閣法制局は、あくまで行政府内部で、法令審査や内閣の統一見解の作成を行っている機関です。
どこかの省庁の官僚が作ってきた法案を閣議に出す前にチェックしたり、内閣に助言をしたりするのが仕事であって、それは、行政府内部では極めて重要な役割を担っていますが、裁判所と違って、対外的には、憲法上も法律上も何の権限もありません。

行政解釈というのも、最終的には内閣が決めることなので、いくら内閣法制局長官が集団的自衛権を認めても、内閣が認めなかったら、ただの一官僚の私見にすぎません。
内閣法制局の見解を、内閣がそのまま追認するからこそ、内閣法制局が解釈を牛耳っているかのように見えるわけです。
逆に、内閣法制局なんか無視して、閣議で「あ、そういえば、集団的自衛権は憲法で制限されてなかったわ。」とか決めてしまえば、それが正式な行政解釈になります。

しかも、行政解釈は、司法解釈によって覆される可能性もあります。

そうすると、内閣法制局には、「憲法の番人」たる要素は全くないわけです。


個人的には、法律の素人である政治家が勝手な解釈論を展開するより、政治家は方向性を決めて、後の細かい議論は優秀な官僚が集まる内閣法制局が考え抜いて解釈を示すほうがはるかにマシだと思うので、内閣法制局の役割自体は非常に重要だと思います。
が、別に「番人」じゃないですよ。彼らは。

では、今日はこの辺で。

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