2013年8月29日木曜日

秘密漏示罪と司法書士の守秘義務

司法書士の岡川です

外交や安全保障に関わる国家機密を公務員が漏洩する行為を禁止する「特定秘密保護法」が政府内で検討されています。
近いうちに国会に提出されるようです。

それはさておき。

他人の秘密を漏らしてはいけないのは、何も公務員だけではありません。
民間人であっても、法律によって守秘義務を課される職業は数多く存在し、それに対する罰則も存在します。
刑法134条には、他人の秘密を漏らした場合に適用される「秘密漏示罪」が規定されています。
条文は次の通りです。
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
ご覧のとおり、秘密を漏らしてはいけないとされている対象が、「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者」に限定されています。

「司法書士」は含まれていませんね。

「秘密を漏らしてはいけないのは、司法書士だって弁護士と同じやろ」という、尤も至極な意見が出るかもしれません。
弁護士が秘密を漏らしたら犯罪なのに、司法書士が秘密を漏らしても問題なし・・・というのは、いかにも不合理です。
どちらも、「他人の依頼により法律事務を行う専門家であり、そこで知った秘密を漏らしてはならない」という状況は類似しています。
そこで、刑法134条には、「弁護士」とあるけど、これを「司法書士」にも「類推」して、「司法書士が秘密を漏らした場合にも刑法134条によって処罰される」と結論づけることが前回紹介した「類推解釈」です。
刑法では、そういう解釈が禁じられます(→類推解釈の禁止)。

「司法書士」は決して刑法134条に規定された「弁護士」に含まれる概念ではありません。
したがって、刑法134条に規定されていない「司法書士」を、刑法134条を類推することで処罰することは、国家による「不意打ち」であり、司法書士の自由を不当に侵害するものであって、許されないのです。
よって、司法書士が秘密を漏らしたとしても、刑法134条の秘密漏示罪によって処罰されることはありません。

司法書士は秘密漏らし放題ですね。

わーい。


・・・という理不尽な制度であるわけがなくて、実は、司法書士には、司法書士法76条(秘密保持義務違反の罪)というものが存在しまして、ここに刑法134条よりも重い「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」という罰則が用意されております。

司法書士法を読まないアホな司法書士がいるとは思いませんが、もし刑法だけ読んで「おっしゃ、134条に『司法書士』が列挙されてない。秘密しゃべり放題だ」とか考えた司法書士が秘密をだだ漏れにする事件が起きたら、もう本当に救いようがないアホなので、即刻逮捕しちゃってください。

では、今日はこの辺で。

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