2013年7月18日木曜日

無罪の推定(推定無罪)の原則

司法書士の岡川です。

近代法における最も有名な原則のひとつ(だと思われる)が、「無罪の推定」(推定無罪)の原則です。
これは、狭義には、刑事訴訟における挙証責任の分配に関する原則をいいます。
刑事訴訟においては、被告人は「無罪」である推定が働き、被告人を罰するためには、その無罪の推定を破るために検察側が積極的に犯罪を立証しなければなりません。
逆にいえば、被告人が罰されないために、弁護人が積極的に「犯罪をしていないこと」を立証する必要はありません。

被告人を有罪にしたい検察と、被告人を無罪にしたい弁護人が真正面から争っていると、「どっちが正しいか判断がつかない」という状態になることがあります。
しかし、そんな場合でも、裁判所は、必ず終局的な判断(裁判)をしなければならず、判断を回避することは許されません。
このとき、「検察が有罪を立証できていない」ので、裁判所は、必ず無罪を宣告しなければなりません。
「弁護人が無罪を立証できてない」としても、そのことで有罪にはしてはいけないというのが、「無罪の推定」です。
すなわち、この「無罪の推定」は「疑わしきは被告人の利益に」といった法格言と同義です。
近代の刑事訴訟においては、裁判官が合理的な疑いをさしはさむ余地がなく「こいつが犯人だ」と確信できる程度に犯罪事実の証明がなされた場合に限って有罪となるのです。
弁護人としては、被告人が「白」だと証明できなくても、最低限「グレー」にまで持ち込めば良いということになります。

人を罰するというのは、基本的に重大な人権侵害です。
したがって、その人権侵害を正当化するためには、慎重な判断を経なければなりません。
「グレー」で有罪になれば、「犯罪をしたから罰される」というだけでなく「訴訟活動に失敗したから罰される」という場合が出てくるわけで、それを避けるための原則が「無罪の推定」とか「疑わしきは被告人の利益に」といったものなのです。
たとえ「本当は犯人だけどグレーだから無罪になる」という可能性があるとしても、近代刑事訴訟法は、「本当は犯人じゃないのにグレーだから有罪になる」という事態を避ける方を優先したわけです。

刑事訴訟法では、「無罪の推定」(推定無罪)というと、一般的には以上の意味で使われます。
ただ、「推定無罪の原則」というと、少し違った意味で使われることがあります。
すなわち「刑事裁判で有罪と判断されるまで、その人は無罪であることが推定される」(したがって、それまでは、犯罪者であることを前提とした扱いをしてはけない)という意味です。
こちらは、「裁判所が有罪と言っていない以上、有罪として扱ってはいけない」という、いってみれば当然の話ではあるのですが、これも人権を保護するための原則です。

どちらの原則も、本当に守られているのか疑問に思うことも無きにしも非ず・・・ですね。

では、今日はこの辺で。

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