2013年6月13日木曜日

刑の一部執行猶予

司法書士の岡川です。

「刑の一部執行猶予」制度が新設されました。


刑の一部執行猶予法が成立 再犯防止へ社会で更生(共同通信)


刑の一部執行猶予とはどういう制度でしょうか?

それを説明する前に、まず刑の(全部)執行猶予の制度の説明が必要です。

刑の執行猶予とは、現行刑法に規定されている制度で、文字通り「刑の執行」を「猶予」する制度です。
刑の執行とは、懲役刑や禁錮刑であれば、刑務所に収監することですから、それが「猶予」されるということは、「判決は確定したけど、しばらくの間刑務所に入らなくていいよ」というものです。

例えば、懲役なら、3年以下の懲役を言い渡された場合に執行猶予を付することができ、猶予期間は最大5年です。
この猶予された期間に、再び悪いことをしなければ(あるいは、昔の犯罪が判明したりしなければ)、刑の言渡しが効力を失います。

「懲役3年、執行猶予5年」なら、5年間おとなしくしていれば、「懲役3年」は無かったことになるわけです。


刑罰(例えば懲役)は、犯罪を予防するためにある(といわれている)のですが、必ずしも厳しければいいというものでもなく、刑務所に長期間閉じ込めておくことが、逆に社会復帰を妨げ、再犯を誘発する可能性もあります。
したがって、その弊害を避けるために、刑務所に入れずに更生を図るための制度として、執行猶予という制度が存在するわけです。
とはいえ、凶悪な犯罪者に対してはそんなことも言っておられませんし、メリットがデメリットを上回ると考えられるため、執行猶予の対象は、懲役3年以下の比較的軽い犯罪に限定されています。


さて、これが現行法上の執行猶予ですが、これに加えて「一部執行猶予」という制度が新設されました。
余談ですが、「刑の一部執行猶予法が成立」とか書いていますけど、実際は刑の一部執行猶予制度を盛り込んだ刑法等の改正法が成立したのであって、「刑の一部執行猶予法」という名の法律ができたわけではありません。


刑の一部執行猶予の対象は、3年以下の懲役又は禁錮を言い渡された場合です。
全部の執行猶予と違い、罰金の場合は含まれません。

一部を猶予する制度ですので、逆にいえば、その「一部」以外の部分は猶予されずに執行されます。

例えば、「被告人を懲役3年に処する。その刑のうち1年については、5年間執行を猶予する」みたいな判決が出るものと考えられます。

この場合、まず2年間服役します。
そして、2年後に一度釈放されて、そこから5年間猶予期間が与えられます。
この猶予期間にまた悪さをすれば、猶予されていた1年分の刑期を改めて刑務所内で過ごすことになります。
猶予期間の5年間おとなしく過ごせば、残りの1年間は無かったことになり、「懲役2年」だったことになるわけです。


「それは、仮釈放と同じでは?」という疑問もあるかもしれません。
しかし、仮釈放とはいくつかの点で異なります。

仮釈放は、刑を執行する行政の事後的な判断ですが、一部執行猶予は、裁判所が判決を言い渡す段階で決めることです。

仮釈放は、懲役3年以下の刑に限定されていません。
無期懲役でも仮釈放はあります(といっても、最近はほとんど認められなくなってきていますが)。

刑務所の外でおとなしくしなければならない期間も、1年を残して仮釈放された場合はその1年間だけですが、一部執行猶予だと、1年分を猶予する場合であっても、猶予期間は最大5年になることもあります。

仮釈放の場合、仮釈放期間中は「仮に」刑務所の外に出してもらっているだけで、刑期はその間も続いています。
仮釈放中に悪さをしたら、刑務所に戻されて残りの刑期を刑務所で過ごすことになります。
懲役3年で2年で仮釈放になり、その半年後に悪さをしたら、残りの半年は刑務所に戻る、といった感じです。
他方、刑の一部執行猶予は、2年後に一部執行猶予の身になった場合、その半年後に悪さをしたら、猶予されていた1年分の刑期を刑務所内で過ごさなければなりません。


細かい違いはいろいろありますが、仮釈放も、刑の全部の執行猶予も、刑の一部の執行猶予も、懲役の持つ弊害を避け、犯罪者の社会内処遇のメリットを活かすための制度です。

犯罪者に対する処遇は、厳しすぎてもいけませんし、緩すぎてもいけません。
実刑にするでもなく、刑の全部を猶予するわけでもなく、柔軟に対応できる制度ができたので、今後どのように運用されるかに注目ですね。

では、今日はこの辺で。

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