2013年6月11日火曜日

成年後見制度を利用するには?

司法書士の岡川です。

成年後見シリーズ第6回目です(第4回目は、「後見人には誰がなるか?」をご覧ください)

今回はシリーズ最後ですので、成年後見制度を利用するまでの簡単な流れをご紹介します。

成年後見制度には、大きく分けて法定後見と任意後見があることをご紹介しましたが、両者は手続きが全く異なります。


1.法定後見を利用するには?

法定後見(保佐・補助も同じです)は、申立権者が家庭裁判所に後見開始の申立てをしなければなりません。
申立権者は、本人・配偶者・四親等内の親族等です(他にも、市町村長や検察官が申し立てる特殊な例もあります)。

後見開始の申立てをするだけの判断能力があり、本人の意思が確認できるような状況であれば、本人が申立人となって申し立てることも可能です。
そうでない場合は、親族が申立人となって申し立てることになります。


まずは、本人の判断能力の程度と財産状況の確認です。

本人の判断能力がどの程度かを決めるのは医者の仕事なので、診断書が必要になります。

診断書を書くのは医者であれば誰でも構いませんので、必ずしも精神科や心療内科でなくてもよく、内科でも外科でも、皮膚科でも眼科でも構いません。
なので、かかりつけの医者がいれば、その医者に診断書を書いてもらえるか打診してみることになります(歯科医でもいいとか聞いたこともありますが、確認はしていません)。
もっとも、あまりにも専門外の医者は、判断能力の程度について診断書を書いてくれと頼んでも、「専門外なので書けない」と断ることが多いでしょうし、仮に書いてくれたとしても、裁判所の方でその判断の妥当性が疑問視されることになる可能性もあります。
その場合、申立て後に精神科医の「鑑定」をしなければならなくなります(これには別途費用がかかります)。

無事、診断書を書いてくれる医者が見つかれば、裁判所が用意している様式がありますので、それに沿って書いてもらうことになります。

そうして医者に診断書を書いてもらっている間(2~3週間程度かかることもあります)に、同時進行で本人の財産状況を確認します。
預金残高を確認したり、各種契約内容や年金等の受給内容を確認したり、領収書をかき集めたり、とにかく、現金や預貯金、不動産、有価証券等の本人の財産を全部リストアップし、さらに、それらを基に本人の1か月の収支を計算します。
こうして作られるのが財産目録や収支予定表です。

同時に、候補者を誰にするかも決めておかなければなりません(候補者を指定せずに申し立てることも可能です)。


申立書や添付書類等、必要な書類が全部揃ったら、家庭裁判所に申し立てます。
家庭裁判所では、申立人と本人が、裁判所の参与員や調査官といった裁判所職員と面談し、事情を説明したり、提出した書類についての説明をしたりします。

書類に不備がなく、また本人や申立人との面談によって、後見を開始することがが妥当であると判断されれば、後見開始の審判がなされ、後見が開始します。

さらっと書きましたが、ここまでに場合によっては数か月程度かかることもあります。
後見開始の審判をしてしまえば、本人の財産を他人に預けることになりますし、申立ての段階では既に本人の判断能力は低下しているわけですから、申立てにはそれ相応の手順を踏む必要があるわけです。
申立書類一式は、場合によってはA4フラットファイル一冊分くらいになりますので、きちんと整理しておかないと、裁判所で、「あれはどこだ」「さっき見たぞ」とバタバタすることになります。

2.任意後見を利用するには?

任意後見は、制度を利用しようとする段階では家庭裁判所は全く関与しません。
本人(委任者)と受任者(後見人予定者)の契約なので、当事者同士で話し合い、どういう内容の契約にするのかを決めます。
契約内容が決まったら、それを公正証書にします。
つまり、関与するのは公証人です。

司法書士等の専門職が受任者になっているような場合、その受任者が話し合いの結果を基に契約の原案を作成し、それを公証役場に提案して公正証書を作ってもらうことになります。
原案に基づいて公証人が作るものは、様式は公正証書のものに書き換えられますが、中身はほぼ原案通りのものがそのまま書き写されて作られます。
その後、語句を修正したり微調整をしつつ、公正証書作成日を決めます。
この間の公証人との打ち合わせは基本的にその受任者が行います。

そして、公正証書の内容が確定したところで、作成日を迎えることになります。
公正証書は、内容はもう打ち合わせの段階で確定しているのですが、当事者が公証役場に出向いて公証人の面前で確認し、手順を踏まなければ、法的に作成したことになりません。

予約した日に公証役場に行って、手続きを済ませれば、契約締結になります。
もちろん、任意後見契約は、契約を締結した段階ではまだ発効しません

この後は、どういう契約をしたかによって変わってきますが、とりあえず、制度を利用するまでの手続きはここで一段落です。




手続きは以上なのですが、実際に申し立てをするとなれば、やはり、利用を検討する段階から専門家が関与することをお勧めします。
ここでの「専門家」は、司法書士と弁護士です。

法定後見の申立ては、家庭裁判所で行う手続きであり、裁判所提出書類の作成を専門とする国家資格が司法書士です。
しかも、ただ「手続きに詳しい」というだけでなく、独占業務ですから、司法書士(と弁護士)以外が申立手続に業務として関与することは犯罪になります。


任意後見の場合、契約する段階で「申立て」という手続きはありませんので、司法書士法違反の問題は生じませんが、信頼のできる相手を慎重に選びましょう。


そんなわけで、いろいろ書きましたが、後見制度を検討しているなら、地元のリーガルサポートに相談するのが一番確実だと思います。
手前味噌になりますけど、実際に後見業務に関与していて、後見制度の実態などもいろいろ耳にしてみて、自信をもって勧められるだけの実績のある団体だと思います。

では、今日はこの辺で。


成年後見シリーズ

第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型
第3回「任意後見契約について
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?」 ← いまここ
番外編「成年後見の申立てにかかる費用
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)  

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