2017年7月20日木曜日

債権法改正について(4)(無権代理・表見代理)

司法書士の岡川です。

今日は無権代理と表見代理の部分の改正の話。

条文の順番は逆になりますが、表見代理を理解する前提として、無権代理の話が必要になります。

無権代理というのは、文字通り、権限(代理権)の無い代理行為をいいます。
例えば、全く何の委任も受けてないのに、隣の家の土地と建物を第三者に売ってしまうような場合ですね。

勿論こんなことが正当な行為としてまかり通ってしまうと日本全国大混乱です。

そこで民法は、「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」(113条)と定めています。
ポイントは、無権代理は「無効」じゃなくて「(本人に)効果不帰属」だということですね。
無権代理行為自体は有効だけど効果が本人に帰属しない。
すなわち、売買契約は有効であることが前提となり、しかし効果は本人に帰属しないため隣の家の持主は所有権を失わないということです。
そのうえで、民法は、無権代理行為をした者に後始末(本人から買い取って相手に所有権を移転させるとか、損害賠償をするとか)をすべき責任を負わせています(117条)。

117条の規定は微妙に改正されていますが、細かい話なので条文を確認しておいてください。


ここまでは分かりやすい話。

さて、そうはいっても、相手方の立場としては、正当な代理人だと思って(金も払って)土地と建物を買ったわけです。
後から「実は代理人じゃありませんでした」とか言われても納得できるわけもなく、できればそのまま本人に効果を帰属させたいところです。

そこで民法、代理人が正当な代理権を有していると信じて取引をした相手方を保護する規定を置きました。
それが「表見代理」です。

表見代理を基礎づけているのが、「真実と異なる外観を信じた第三者を(一定の要件の下で)保護する」という考え方(表見法理)です。
表見法理は「権利外観法理」とも呼ばれますが、厳密にいえば両者は異なるとも指摘されます(が、同じようなものと考えても大抵の場面では差支えない)。
表見法理、あるいは権利外観法理の表れとされている規定は、表見代理だけでなく、民法94条2項とか、商法・会社法にも存在します。


それはさておき、現行民法は、表見代理として3つの類型を用意しています。

1.代理権授与の表示による表見代理(109条)
本人が、第三者に対して、「他人に代理権を与えた旨」を表示し、その他人が表示された代理権の範囲内で代理行為をした場合です。
実際には代理権を与えていないのに、本人が(何を思ってか)委任状を与えていたような場合、相手方としてはその委任状を持っている人を代理人と扱って当然だし、逆に委任状を与えたほうが悪いわけで、この場合は本人が「実は無権代理だから効果は自分に帰属しない」と主張することは許されないわけです。

2.権限外の行為の表見代理(110条)
代理人が、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者にとっても代理権があると信じるべき正当な理由があるときです。
昔は「代理権踰越(ゆえつ)」というふうに言われていましたが、前回扱った代理権の「濫用」とは異なります(濫用というのは、あくまでも代理権の範囲内の行為)。
つまり、間違いなく代理人ではあるんだけど、与えられた代理権(基本代理権)の範囲に含まれない行為をしたという場合、しかも代理権の範囲に含まれると信じたことに正当な理由があれば、取引の相手方を保護すべきという考え方です。

3.代理権消滅後の表見代理(112条)
一度代理権を与えたら、その後その代理権が消滅したとしても、それは第三者には簡単にわからないものです。
そこで、代理権が消滅したことを知らなかった相手方は保護されています。

細かい要件論はさておき、このような場合に表見代理が成立することになり、有権代理と同じように扱われます。
これは改正法でも基本的に変わりません。


問題は、表見代理は3つの異なる類型に分かれ、それぞれが要件を定めているわけですが、

本人が他人に代理権授与の表示をした場合において、しかもその他人が表示された代理権の範囲外の代理行為をし、かつ、第三者がそれを代理権の範囲内の行為と信じるべき正当な理由があった場合。

あるいは、

代理権の消滅後に、元の代理権の範囲外の代理行為をして、かつ、第三者がそれを代理権の範囲内の行為と信じるべき正当な理由があった場合。

このような状況にどう対応すべきでしょうか。

判例は、これらの場合に、「2つの条文を重ねて適用する」という手法をとります。
これを「重畳適用」(ちょうじょうてきよう)といいます。
すなわち、前者の場合は、109条と110条の重畳適用、後者の場合は、110条と112条の重畳適用をして、表見代理の成立を認めるのです。

改正法は、この判例理論をそのまま条文化し、あえて重畳適用という手法をとらなくても、最初からそういった状況を想定した規定を新設しました。

第109条第2項 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

第112条第2項 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。


民法初学者が重畳適用という法解釈のテクニックを知る機会が失われてしまいましたが、そういうテクニックを駆使しなくても、条文を読めば結論を導けるので、わかりやすくなって良いですね。

では、今日はこの辺で。

2017年7月8日土曜日

債権法改正について(3)(代理)

司法書士の岡川です。

債権法改正の話はまだまだ続きます。
今日は代理に関する部分です。

代理行為の瑕疵に関する規定の変更は、古い判例の存在と条文の文言が明確でないために疑義が生じていた部分をわかりやすく(通説的な解釈に基づいて)記述しなおしたものと考えればよいですね。
代理人の行為能力については、前々回に解説したとおりです。

今日は、それ以外の重要な改正点を取り上げます。


1.復代理人

復代理というのは、代理人がさらに自分の代わりに事務処理する人を選ぶことです。
「代理人の代理人」というわけではなく、復代理人もあくまで本人の代理人になるわけですけども、本人が直接選任するのではなく、代理人が代理人を選任した場合が復代理人となります。
具体的場面でいうと、代理人の委任状は本人が署名押印しますが、復代理人の委任状は、本来の代理人(原代理人)が署名押印するわけですが、復代理人の行為は直接本人に帰属します。

という前提で。

まず、復代理人を選任した原代理人の責任に関する現行民法105条の規定がバッサリ削除されます。
現行法では、原代理人は復代理人の「選任及び監督」について責任を負い、さらに本人の指名に従って復代理人を選任したときは原則として責任を負わないという規定になっています。
つまり、復代理人が選任されたら、原代理人の責任は軽減されるわけです。

が、そもそも本人と原代理人の間には何らかの契約関係(主に委任関係)があるわけで、責任が軽減されるのはおかしいということが主張されてきました。
なのでその見解を採用して、現行民法105条は削除(あとは一般的な債務不履行等のルールに従う)。

2.代理権の濫用

そもそも代理権の濫用というのは、代理人が代理権の範囲内で代理行為を行ったが、それが本人の利益のためでなく、代理人や第三者の利益を図る目的でなされた場合をいいます。
権限外のことをやっているわけではないが、権限を「濫用」した場合です。
現行民法は、代理権濫用の場合の処理について規定を置いていませんので、その処理の仕方に関して学説が対立するわけです。

民法総則を初めて学ぶとき、「動機の錯誤」と同じくらい学説の対立にワクワクする論点だと思います。
それでいて、判例法理である「93条但書類推適用説」という全くもって納得できない無理筋の理屈が通説としてまかり通っている現実を前に、民法解釈学のフリーダムっぷりに頭を抱えるポイントであります(最終的に「民法が悪い」という結論に至るわけですね)。

私も、判例通説がどうしても理解(納得)できなくて、早期の立法的解決を望んだものです・・・(遠い目)。


それが遂に!


・・・あ、その前に93条但書類推適用説って何かを軽く説明するとですね。

93条は前回紹介したとおり心裡留保の規定なわけですが、その但書は、「相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」と定めています。
これを代理権濫用事例に「類推適用」するということで、相手方が代理権濫用の意図を「知り、又は知ることができたとき」は、本人は、代理行為の無効を主張することができる、という考え方で、判例・通説とされています。

ただ、この説明は無理があります。

心裡留保というのは、法律効果を発生させるつもりがないのに意思表示をした場合であって、93条但書が想定しているのは、そのことを相手方が知っている場合にまで意思表示を有効とする必要がないから無効とするものです。

これに対して、代理権濫用というのは、代理人は(自己や第三者の利益を図るために)むしろ効果を発生させる(効果を本人に帰属させる)ことを意図しているわけで、ただ本人以外の経済的利益(本人に対する損害)を与えようとしているに過ぎない。
つまり、効果を発生させ、帰属させることについて代理人の内心と表示に全く不一致はないわけで、93条但書の適用場面と全く状況が異なり(これを「類推の基礎を欠く」という)、そう考えるとこれを無効とすべき理由がないとして、理論的には根強い批判があります。

にも拘らず判例・通説になっているのは、「相手方が知り、又は知ることができたときは無効」という規範が結論として妥当というのが大きい。


という背景があり、今回の民法改正では、結論そのままに、理論的には苦しい93条但書などを使うのではなく、上記規範(法理)を実定法上基礎づける根拠条文が新設されました。
第107条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

めでたしめでたし。

3.利益相反行為

現行民法108条には、自己契約(代理人が自分を相手方当事者として契約すること。つまりAさんの代理人であるBさんがAB間の契約を締結するような場合)と双方代理(AさんがBさんとCさんの代理人となり、BC間の契約を締結するような場合)を無権代理とする規定があります。
これらは、本人と代理人の利益が相反するからですが、典型的な自己契約や双方代理以外にも、利益相反が生じる場面はあります。
そこで、一般的に利益相反を禁じる規定が新設されました。

第108条第2項 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

今回紹介した中での最重要ポイントは、なんといっても代理権濫用規定の新設でしょう。
結論的には、判例理論と一致するわけで、その意味で実務への影響はほぼないと考えられますが、何といってもあの民法総則モヤモヤポイント最高峰の代理権濫用理論が立法的に解決されたわけですからね。
(まぁ他方で、要件論として重過失を求めていた信義則説等は立法的に排斥された形になりましたが・・・)

では、今日はこの辺で。

2017年6月26日月曜日

債権法改正について(2)(意思表示)

司法書士の岡川です。

債権法改正について紹介&解説するシリーズ第2弾。(→(1)はこちら
今日は、意思表示に関する規定の改正部分です。

1.心裡留保

そもそも「心裡留保」っていう言葉自体が一般的でない法律用語なので、そこから解説が必要になります。

心裡留保というのは、表意者が真意でないことをわかりながら行う(真意でない)意思表示です。
例えば、自分の車を売る気はないのに、「この車をお前に売ってやる」と相手に告げるような場合ですね。
このように、真意でない意思表示であっても、それが真意でないことを自覚しながらすれば、有効であるというのが民法の原則です(民法93条)。
意思表示を受けた相手方としては、意思表示された以上それが真意であると考えるのが当然ですから、後から「あれは嘘だった」とか言われても知ったこっちゃないわけです。

ただ、相手方も、それが真意でないことを知っていた場合や知ることができた場合は、例外的に無効となります。
嘘だとわかっていたり、すぐに嘘だとわかるような場合にまで、相手方を保護する必要はないからですね。

このルールは、改正によっても基本的に変わりません(文言が改められるだけです)。

さて、嘘だと知っていた相手方を保護する必要がないので無効になるとして、その無効な法律行為(契約)を前提として、第三者が現れた場合にどうするか。
例えば、無効な契約でAからBに車が売られ、その後Bから事情を知らないCに車が売られたような場合です。
この第三者(C)は保護する必要があるのではないか、とも考えられますが、現行民法にはこのCをどうするかについて規定はありません。

判例・通説は、明文の規定はないけれども、(94条2項を類推適用して)善意の第三者には無効を対抗できないと考えています。

今回の改正で、この点が93条2項として明文化されます。
第93条第2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

2.錯誤

「錯誤」というのは、平たくいえば「勘違い」です。
Aを買うつもりでBを買ってしまった、というような場合ですね。平たくいえば。

現行民法は、このような錯誤に基づく意思表示を当然に無効と規定しています。

が、民法における錯誤の概念については、考え方が大きく対立しておりました。
そもそも錯誤の定義からして、伝統的には「内心的効果意思と表示上の効果意思の不一致」というふうに考えられていましたが、この場合、「動機の錯誤」は錯誤になるのか(Bを買うつもりでBを買ったんだけども、Bを買おうと思った動機部分に勘違いがあったような場合)といった問題があります。

伝統的な理解からはこれが原則として否定され(例外的に「動機も表示されていたような場合は錯誤になりうる」とか考えたりする)ますが、現実的に錯誤が問題になる場合というのは、大部分は動機の錯誤なんで、これを95条の適用対象外にしていいのか?って話になるわけです。
そこで近時の有力説は、伝統的な定義を否定して、ざっくりいうと「動機も含めて真意と表示が一致しなければ錯誤なんだ」というふうに考えたりします。

まあそんな具合で、詳しくは民法総則の基本書とかで勉強してもらったら良いんですけど、とにかく95条が適用される範囲は大きな争いがあったわけです。

今回の改正で、この対立を立法的に解決することになります。

現行の規定は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」というシンプルなものだったわけですが、こうなります。
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

ご覧のとおり、1項2号で、動機の錯誤が錯誤に当たると明言しちゃいまして、かつ、2項で動機の錯誤については表示されていたときに取消の対象となると定めました。
基本的には、伝統的な理解をベースにした判例の立場(動機表示錯誤説)を、民法のルールとして明確に採用したと考えられます。

また、錯誤の効果は、現行の「無効」ではなく、「取り消すことができる」に変更されています。
錯誤も結局は表意者保護の規定ですから取り消すことができれば十分です(そこで、現行民法における解釈でも「取消的無効」といわれていました)し、理論的には動機の錯誤も含めて錯誤というなら、「そもそも意思が存在しないんだから当然に無効」という理屈(明治時代の民法起草者はこう考えていた)が自明ではないからです。

無効から取消に変わったことで、色々と影響がありますので注意が必要です(取消に関する諸規定が適用されるようになる等)。

そのほかにも現行法に規定されていない法理が色々と明文化されています。

第95条第3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

現行法は、「表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」と規定していましたが、解釈として改正法と同じような例外の例外が認められていたので、ルール的には今までと変わりません(明確になっただけ)。
さらに、現行法では第三者保護規定がなく、判例は、錯誤無効は常に第三者に対抗できると解していましたが、

第95条第4項 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

というように、(有力説の考え方を取り入れて)第三者保護規定が新設されました。

3.詐欺

詐欺に基づく意思表示は取り消すことができるという基本的なルールはそのままです。
細かいところで、この取消を「善意の第三者に対抗することができない」という現行の規定が「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」と変更されました。
学説における有力説が取り入れられたものです。


4.意思表示の効力発生時期

基本的には現行の到達時に効力が発生するというルールがそのまま維持されます(「隔地者」という文言が条文から消えました)。
なお、

第97条第2項 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

という規定が新設されましたが、従来からの解釈がそのまま明文化されただけです。



意思表示に関しては、かなり大幅に改正され、多くの条項が追加されています。
とはいえ、その大部分は、学説の対立に(一応の)決着をつけたものであって、ルール自体が大転換するようなものでもありません。

多くの論点が消失したことで、試験勉強をしている人にはうれしいかもしれません。
まあ、そうはいっても新たな論点が出てくるんでしょうけどね(条文の文言だけからは一意に定まらないのが法解釈というもの)。

では、今日はこの辺で。

2017年6月16日金曜日

債権法改正について(1)(意思能力・行為能力)

司法書士の岡川です。

前回も紹介しましたが、民法の一部を改正する法律、いわゆる債権法改正(もう少し厳密にいうと「民法(債権関係)改正」)が成立しました。
3年以内に施行される予定です。

契約関係の基本的なルールである民法が変わるので、皆さんの生活にも大きな影響があるかもしれません(例えば、法学部の学生生活と法律系資格試験受験生の勉強生活への影響は計り知れない。その他の一般市民の生活への影響は、まぁ、そんなに・・・)。


このブログでも、何回かに分けて重要な改正について紹介&解説していこうと思います。

基本的には、条文を前から順番に追っていきますが、関連する事項はまとめて解説しますね。

というわけで、まず今日取り上げるのは第1編「総則」部分の改正です。


1.意思能力

まずは、意思能力に関する明文規定が置かれました。

第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

「意思無能力者が行った契約は、当然に無効となる」ということを定めた条文が新設されたわけで、一見するとかなり重要な改正のようにも見えますが、意思無能力者の法律行為が無効なのは、完全に確立した判例であり、かつ、学説上も「そんなの条文に書いてない」といって反対するような見解も皆無なわけでして、実務上全く影響はない改正となっております。
みんなが当然のように認めてきた法理を、条文に書いただけのお話。

関連して、意思無能力者について、意思表示の受領能力がない(=意思無能力者に対して意思表示してもダメ)ことも98条の2で明確化されますが、これも同じことですね。


2.代理人の行為能力

実は、代理人が法律行為(代理行為)をするには、行為能力を有していなくても構いません(現行民法102条)。
つまり、代理人が制限行為能力者であったとしても、そのことをもって代理行為を取り消すことはできないわけです。

制限行為能力者の行為を取り消すことができるのは、制限行為能力者の保護のためです。
代理行為の効果は代理権を与えた本人に帰属し、代理人には効果が帰属しませんから、取り消すことができなくても制限行為能力者に不利益はないからです。
むしろ、制限行為能力者に代理権を与えた人は、そこから生じうる不利益も覚悟すべきだといえます。

しかし、本人の責任において代理権を与えた場合(任意代理)と異なって、法定代理の場合(例えば成年後見人等)、必ずしも本人の意思によらずに(法律に基づいて)代理権が付与されます。

そこで、現行102条は、代理人が法定代理人の場合にも適用されるのか(法定代理人自身が制限行為能力者であった場合は、その代理行為を取り消すことが可能か)という点で学説も分かれており、適用されないとする見解も有力でした。
法定代理人が制限行為能力者であった場合(例えば、Aさん自身が成年被後見人でありながら、Bさんの成年後見人に就任することも可能なのです)、代理権の行使が無制限に認められると、本人の保護に欠けるからです。

改正法では、この辺を立法的に解決しています。

まず102条は、次のとおり規定が変わります。

第102条 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

それから、被保佐人が単独で有効にすることができない行為、すなわち、保佐人の同意を得なければならない(逆にいえば、保佐人に同意権及び取消権のある)行為として、次の類型が加わりました。

第13条第1項第10号 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること

このように、ある人の法定代理人が制限行為能力者であった場合、現行102条が適用されるような結論にはならないことが明確になりました。
すなわち、法定代理人自身が成年被後見人であったとすれば、法定代理人としての行為は取り消すことが可能であり、被保佐人であったとすれば、その人の保佐人の同意を得なければ代理権を行使できない(同意を得ずにした行為は取り消すことが可能)となります。


もちろん、現実問題としては、家庭裁判所はそんなややこしい状況は確実に避けるので、「成年後見人の成年後見人に選任」何ていう話は聞いたことがありませんが、理屈の上ではありえる話なのです。



・・・

あー、代理ぐらいまで一気に解説するつもりが、これだけで結構な分量になりましたね。

続きは次回に回しましょう(てか、このペースだとあと何回投稿することになるんだろうか・・・)。

では、今日はこの辺で。

2017年5月25日木曜日

今話題の債権法改正

司法書士の岡川です。

なんと、5月も終わろうとしているのに今月はまだ1件も投稿してませんでした。
なんてこったい。

ストックしていたネタが枯渇気味であるところに、会務等が重なっており、なかなかブログの方まで手が回っておりません。
うーむ。


さて、気を取り直して。
法律マニア業界で今最もホットな「ネタの宝庫」は債権法改正でしょう。
ネタ枯渇気味の当ブログとしてもこれを取り上げない手はありません。

現在、長年議論されてきた債権法関連の民法改正法案が衆議院を通過して、もうそろそろ成立しそうなところまできています。

厳密にいうと、改正されるのは債権法だけではないので、「債権法改正」というのは正しくないと思いますが、わかりやすいから債権法改正ということにします。
「民法(債権関係)改正」みたいな表記もされますが、「かっこさいけんかんけい」とか言いづらいですし。


「債権法」というのは、「債権法」という名前の法律があるわけではありません。
これは法律(もっと絞れば私法)の分野のひとつであり、文字通り「債権」に関する法を債権法といいます。

俗に「民法は私法の一般法」とよばれるように、民法には、私法領域において原則的に通用するルールが定められています。
民法(私法)全体の共通事項である総則や、所有権等の物権に関する法である物権法、身分関係や相続関係を規律する親族法や相続法も、全て民法の中に(原則的な)規定が存在します。
民法(私法)の一分野である債権法についても、基本的な事項は、「民法」という法律(の特に債権編)に規定されています。

今話題の「債権法改正」というのは、主に民法の「第3編 債権」部分を改正することを指します。

ということで、民法の債権編を中心とする改正ではありますが、改正対象は総則部分にも及んでいます。
民法総則には、債権法にも共通するルールを規定している(総則部分にも債権に関するルールが存在する)からです。


現行民法(特に、親族・相続法を除く「財産法」とよばれる部分)は、明治時代に作られて以来、それなりに大きな改正も含めて、たびたび改正がされてきたものの、実はその基本的な枠組みはあまり変わっていません。
まあ、私人間(繰り返しですが「わたし-にんげん」ではなく「しじん-かん」)の法律関係を規律する基本的な(大まかな)ルールなので、そうコロコロと抜本的に変わることはないわけです。

それが今回の改正で大きく変わることになります。
「明治以来の大改正」とかいわれるのはそのためです。

「明治時代に作られたルールなので、今の時代にあっていない」ともよく言われますが、時代に合わせた細かいマイナーチェンジは何度もされていますし、また、全てのルールが民法だけに定められているわけではなく、多数の特別法が存在しています。
そのため、別に「明治時代にしか通用しないルールがそのまま残っているから変える」というより、長年蓄積されてきた多くの課題をこの機会に一気に立法的に解消しようという感じでしょうか。

なので、文言が変わるだけで、民法が定めている「ルールの中身」は実質的に変わらないことも多くあります。
確立した判例を条文上明記しただけの修正とかですね。

他方で、明確にルールが変更されている部分もありますので注意が必要です。


実質的な変更がされていない部分も含めれば膨大な改正になっておりますので、全部網羅するには結構時間がかかります。

「ちょうど一通り民法の勉強が終わったところ」という皆さんには、もう同情するしかないわけですけど、頑張って勉強し直しましょう。
今から勉強を始める皆さんは、改正のことも念頭に置いて勉強されると良いですね。

というわけで、債権法改正のネタもちょくちょく挟みつつ、ブログの更新も頑張ります。

では、今日はこの辺で。