2016年11月28日月曜日

空き家問題解決(予防)の前提としての権利関係の問題

司法書士の岡川です。

先週の土曜日に、大阪府と高槻市(及び関連団体)が共催する「高槻市 安心・安全 空家の管理・活用講座」という、市民向けセミナーが開催されました。
私も大阪司法書士会の空き家問題対策検討委員会の委員(高槻市担当)として、「次代に先送りしない権利関係のポイント」についてお話をさせていただきました。
同じものを今年の1月にも行ったのですが、その第二弾です(といっても、高槻市の他に、大阪府下の市でも別途開催されていますが)。

空き家問題については、大阪司法書士会も取り組んでおります(参照→「空き家問題」)。
本格的な取組みが始まる前から私もこの問題には関わっています。


今回、私が講師をしたパートのテーマは、空き家問題を解決する大前提である「権利関係の確定」の重要性についてです。

せっかくなので要点をここでも少しご紹介します。

空き家問題には、色々と細かい問題があり、課題は多岐にわたるのですが、権利関係に関して大きなポイントとしては2点です。
それは、「相続手続を放置しないこと」「共有関係を放置しないこと」です。

特に前者の問題が後者にもつながってきますので、最重要ポイントとしては相続でしょうか。


過去にも書きましたが、空き家を含む不動産(建物と土地)の権利関係を公示するのは、不動産登記という制度です。
いわゆる不動産の「名義」というのは、不動産登記制度を指し、名義を含む不動産の権利関係は法務局に備え付けられた登記簿に記載されています。

で、この不動産登記、特に権利関係についての登記は、「権利」であって「義務」ではありません。
つまり、あなたがこの不動産について何らかの権利を有していることを社会的に認めさせることができる権利を有しているのであって、権利者は権利者として登記しなければならないというようなものではありません。

ということは、不動産について特に実生活上の問題が顕在化していない(名義が誰なのかにかかわらず現実に居住できている場合など)場合、その権利を特に行使しない(登記しないで放置する)ということが少なくありません。

そのため、登記簿を調べてみると、不動産の名義人として登記されているのが明治時代の人だとかそれより前の人だとか、そういうことが結構あります。

そういった不動産についていざ活用しようと思ったとき(売るとか誰かに貸すとか)、そのままでは何もできません。
必ず、現在生きている相続人(「相続人の相続人」とか、「相続人の相続人の相続人」とかも全部含む)の全員の合意を取り付けて、一度相続登記を経なければならないのです。

関係者は5人とか6人とかいうレベルではありません。
20人30人に及ぶことも珍しくありません。

もう、ほぼ他人同士の集まりです。
「ほぼ」どころか、完全に他人だったりもします(法律上の親族関係にない人同士ということもあります)。

この全員に連絡がつき、協力を得られることが絶対条件になるわけです。
絶望的ですね。


相続人の人数が多いことだけが問題ではありません。
名義人が最近の人で、相続人の数がそれほど多くなかったとしても、そのうちの一人でも行方不明になっていたりすれば、それだけで手間と費用と時間がかかります。

この問題は「時間が解決する」ものではなく、むしろ「時間の経過とともに悪化する」ものです。
当事者の一人が死亡すると、その相続人が新たな当事者に加わるわけですから、それだけ権利関係がより複雑化するのです。


もちろん、解決する方法は色々あるのですが、時間がたてばたつほど手間と費用と時間はどんどん増えていきます。
つまり、なるべく早く問題解決のために動かなければ、それだけ損するということです。

相続にかかわる問題は、予防が何よりも大事で、いざ問題が顕在化すればなるべく早い段階で手続に着手することが重要になります。


それから、共有関係というのも問題です。
共有というのは、相続によって生じることが多いですが、不動産を買ったときに夫婦の共有にしておく場合などもよくあります。

共有というのは、非常に不安定な状態でして、共有物の管理には共有者の過半数や全員の同意が必要になることがあります。
また、共有者の一部が死亡したり行方不明だったりすれば最悪です(上記と同じ問題が、さらに複雑化して出てくるのです)。


当たり前ですが、共有物は簡単に処分ができないのです。

共有物については、「権利を失う可能性」など別の問題もありますので、特に共有にすべき事情がなければ、なるべく早めに解消することが望ましいと考えていただいた方が良いかもしれません。


まあ、そんなわけで、空き家問題の裏には、結構な確率で相続問題があります。
そして、財産管理の問題、成年後見の問題なども絡んできます。

空き家の問題についてはお近くの司法書士(高槻の方であれば、例えは、お近くの岡川総合法務事務所とかですかね~)へご相談ください。


では、今日はこの辺で。

2016年11月17日木曜日

【再告知】遺言と成年後見制度に関するセミナー【高槻】

司法書士の岡川です。

直前なので再度告知をします。

11月19日(土)に、遺言と成年後見制度に関する市民向けセミナーが開催されます。

【主催(共催)】
大阪司法書士会
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート大阪支部
高槻市

【後援】
高槻市社会福祉協議会

【場所】
高槻市立総合市民交流センター(クロスパル高槻)

【内容】
○法律講座(午後1時~3時)
 ・第1部「相続と遺言~私の大切な人へ私がのこすもの~」
 ・第2部「これから始める成年後見」
○相談会(午後3時~5時)

詳しくは、こちらにチラシが掲載されています。

高槻市役所のホームページでも確認できます。

高槻市在住で、相続のこと、遺言のこと、成年後見のことに関心がある方は、是非お気軽にお立ち寄りください。


では、今日はこの辺で。

2016年11月11日金曜日

商人と商行為の話(その2)

司法書士の岡川です。

前回の話を見てわかると思いますが、ある行為が商行為となるかを確定するのには、「商人」の定義と「商行為」の定義を行ったり来たりすることもあり、非常にややこしいのです。

例えば、ある会社が人に金を貸した行為が商行為に当たるかが争われた事件があります。
これが商行為にあたるとすれば、商法522条(商事消滅時効の規定。民法の消滅時効より短い)が適用されることになる事案でした。
しかし、金銭の貸付行為自体は、商法に列挙された商行為ではありません。

これに対する最高裁の判断は、

株式会社が事業としてする行為は商行為とされる(会社法5条)。
  ↓
会社は「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」(固有の商人)である。
  ↓
商人の行為は、その営業のためにするものと推定される。
  ↓
会社による貸付行為は、会社の営業(事業)のためにしたものと推定される。
  ↓
反証がないので、当該貸付は商行為である。


ということで、結論としては商事消滅時効の規定が適用されるということになりました。
(この論で言うと、会社の事業外の行為には、商行為にならない行為もありうる、ということも含意していると考えられます。)


単なる貸付は(絶対的・営業的)商行為ではありませんが、営業的商行為の中に銀行取引というものがあります。
銀行は銀行取引を営業としてやってますから、商人だということになります(銀行は株式会社ですので、その意味でも商人ですね)。

ただ、銀行と同じようなことを銀行以外の金融機関もしています。
たとえば、信用金庫や信用組合、農業協同組合、労働金庫などなど。


ところが、信用金庫や信用組合は営利を目的とするものではない(また、これらは株式会社でもありません)ため、商法上の商人には当たらないと解されています。
なので、これらの(非営利の)金融機関からお金を借りても(当然には)商法は適用されません。

同じように、貸金業者は「銀行取引」をするものではないため、業者が個人の場合(会社でない場合)は必ずしも商人とはなりません。
つまり、個人の貸金業者については、(当然には)商法が適用されないということです。


ここでさらに気をつけないといけないのは、当事者の一方にとって商行為だったら、双方に商法が適用されるということです(商法3条)。
つまり、借りる側にとって商行為だったら、信用金庫とか個人の貸金業者から金を借りても商法が適用されます。


要するに、一見して条文に列挙された商行為に該当しなくても、何やかんやで結構商法って適用されるんですよね。


逆に、バリバリ仕事やってても商人でもなければ商行為にならないこともあります。
我々のような士業の業務も 、基本的には商行為ではなく、商人にはなりません。


商法が適用されると、単純に民法が適用される場合と違った結論になることもありますので、注意が必要です。
消滅時効とか委任報酬とか利息とか利率とか。


ちなみに、司法書士の簡裁代理等関係業務認定考査にも出るから、認定考査の勉強してる方は商法の存在をお忘れなく。

では、今日はこの辺で。

2016年11月6日日曜日

商人と商行為の話(その1)

司法書士の岡川です。

今日は引き続き商法のお話です。

商法を理解するうえで重要な概念が「商人」と「商行為」です。
商法の適用範囲は、これらの概念によって規定されています。
すなわち、商人や商行為について適用されるルールが商法で定められているのです。

もちろん、ここでいう「商人」の読みは「あきんど」ではなく「しょうにん」ですし、「商人」の語からイメージされるような「商売人」とは同義ではありません。

「商人」というと、何やら古めかしい言葉ですが、立派な法律用語なのです。


ここから下、商法の基本的な話なのですが、それでいて非常にややこしい話でもあるので、あんまり法律に興味のない人は読まないほうがいいかもしれません。


まず「商人」の定義ですが、これは、商法4条1項で「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」と定義されています。

これが基本的な定義なのですが、さらに、「店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者」については、商行為をすることを業とする者でなくても商人とみなされます(4条2項)。
これを擬制商人といいます(「擬制商人」に対し、1項の定義に当てはまる商人を「固有の商人」といいます)。
なぜ擬制商人という概念が必要になったのかは、後で出てきます。

固有の商人の定義を見ればわかるように、商人とは何かを把握するためには、その前提として「商行為」の定義が重要になります。
商行為が何かわからないと、商人の定義もわからないことになりますね。

そこで「商行為」の定義ですが、これは商法に具体的に限定列挙されています。
まず、以下の4種類の行為は、常に商行為となります(絶対的商行為)。

1.利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
2.他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
3.取引所においてする取引
4.手形その他の商業証券に関する行為

これらは、行為の性質上、営利性が強く、誰がやっても、1回きりの行為であっても商法の適用対象とすることが適当であると考えられる行為です。


それから、以下の13種類の行為は、「営業としてするとき」に限って商行為となります(営業的商行為)。

1.賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為
2.他人のためにする製造又は加工に関する行為
3.電気又はガスの供給に関する行為
4.運送に関する行為
5.作業又は労務の請負
6.出版、印刷又は撮影に関する行為
7.客の来集を目的とする場屋における取引
8.両替その他の銀行取引
9.保険
10.寄託の引受け
11.仲立ち又は取次ぎに関する行為
12.商行為の代理の引受け
13.信託の引受け

これらの行為のうち、「専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為」については、商行為から外されます。

さらに、「商人がその営業のためにする行為」は、商行為となります(附属的商行為)。
つまり、上記のような商行為を業とする者が「商人」であり、さらに、そのようにして定義された商人がその営業のためにする行為も商行為となるわけです。
また、「商人の行為は、その営業のためにするものと推定する」という規定がありますので、商人の行為であれば、反証がない限り商行為だということになります。


さて、ここで列挙した商行為を見てみると、例えば、第三者に売る目的で動産を取得したり、そこで取得したものを売却する行為は、絶対的商行為(1号)に当たります。

ところが、農業や漁業のように自分で自然から何かを取得しても商行為には当たりませんし、そのようにして取得した物を売ることも商行為として定義されていません。
つまり、農家が自分の畑でとれた作物を売っても、基本的には商行為ではありません。

かといって、自分の畑でとれた作物を売るのと作物を仕入れて売るのとで、常に異なる扱いをするのは具合が悪い。
農作物を売っている店があっても、その店が自分の畑でとれた作物を売ってるのか他から仕入れて売ったのかで商法の適用の有無が変わってくるのは不均衡だし、買う側によってはそんなこと知る由もないわけです。

というわけで、最初に出てきた擬制商人という概念が生まれます。
自分の畑でとれた作物を売るのは商行為じゃないんだけれども、店舗を構えて本格的に売るようになったら商人とみなされますよ、という規定になります。

さらに、前述のとおり、商人の行為は商行為と推定されます。
つまり、農家が店で米を売っていたら商人とみなされ、その人の行為は商行為と推定されることになります。


さて、この話、もう少し続くのですが長くなったので、残りは次回に回すとします。

では、今日はこの辺で。

2016年10月28日金曜日

商法が改正されるようです

司法書士の岡川です。

地味に新聞等で報道されているのですが、商法が大きく改正されるようです。

以前もちらっと書いたことがあるのですが(→参照「六法全書と六法」)、「商法」という法律は「六法」のひとつに数えられ、基本的でかつ重要な法律のひとつです。

商法は商事に関する一般法であり、「商人」や「商行為」についての総則的なルールが規定されているのが商法ですので、商法なしには会社法も語れません。


もっとも、現行商法は、一昔(二昔くらいかも?)前とは大きく異なっており、六法の一員としてもてはやされていた、かつての栄光は失われかけています。
というのも、かつて商法に規定されていた多くのルールが独立し、個別の法律として制定されているからです。


手形や小切手に関する部分は、昭和初期に手形法と小切手法に持って行かれ、2005年には会社法が制定されたことで、会社に関する部分がごっそりと持っていかれ、2008年には保険法が制定されて保険に関する部分が消えました。

こんなふうに独立の法律ができた部分が削除されていった結果、現行商法がカバーする領域は、だいぶ狭くなりました。


春秋時代の周王朝みたいなもんですね。


条文数としては、パッと見は851条まであるんですけど、実際の条文数はそれよりはるかに少ない。
スッカスカです。

どれくらいスッカスカかというと、例えば33条から500条はありません。
もともと会社に関する条文があったんですが、前述のとおり会社法に全部持っていかれたので、まるっと全部削除されています。
この段階で既に500カ条くらい水増ししてることが分かります。


今でも残されているのは、「第1編商法総則」「第2編商行為」「第3編海商」です。

海商だけ浮いてる感じがしなくもないですが、現行商法の成り立ち(もともと広い範囲をカバーしていた法律から、色々と独立していった残りが現行商法)を考えれば仕方がないことです。


で、その浮いた感じの「海商」と、商行為の中にある運送関係の規定を中心に、このたび商法が改正されることになりました。
具体的にどう改正されるかは、まあ、日常生活にはあんまり関係ないから、運送関係の仕事をしている人だけ注目してればいいんじゃないかな。
(大きなところでは、商法制定時に存在しなかった航空運送の規定が新設されるとか。時代を感じますね)

それと、この機に、一部残っていたカタカナ交じりの条文が全部口語化されるそうです。
古い法律は、最近の法律と違って漢字とカタカナで書かれているのですが、商法にもカタカナ部分が残っています(第3編は全部漢字とカタカナで書かれています)。
それも、いわゆる「文語」ですので、慣れないと何を書いているか非常にわかりにくい。

民法や刑法などは既に口語化されているので、主要な法律では商法だけ取り残された状態でした。

それが解消されるとのことです。
ちょっと寂しい。


そうそう。
あんまり関係ないんですけど、商売をする人のことを「商人」といい、法律上は「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」と定義されています。

この「商人」という言葉の語源なんですけど、前述の周に倒された殷という国がありまして、殷は商とも呼ばれていたのですが、その「商の人」を指す「商人」(この場合「しょうひと」と読む)という言葉が転じて「商い(あきない)をする人」の意味になったとかいう説があるんですね(あくまで一説です)。
商の人(子孫)は、行商で生計を立てる人が多かったとかなんとか。

真偽不明ですけどね。


では、今日はこの辺で。