2018年1月11日木曜日

【平成30年】謹賀新年

司法書士の岡川です。

皆様、あけましておめでとうございます。

もはや完全に時機に後れた賀詞の投稿であります。

今年最初の投稿からして遅滞気味であることから、今年の更新頻度も推して知るべしといったところですが、ま、のんびりコツコツと投稿を続けていきますので、暇なときにでも更新状況チェックして頂けると幸いです。

昨年は軽い気持ちで債権法改正ネタに足を突っ込んだところ、細かく見ていくと思った以上に改正点が多く、全然終わりそうにありません。
さっさと終わらしたいところですが、まだまだ先は長いです。
気長にお付き合いください。

とはいえ、延々と債権法改正ネタが続いていても、そろそろ飽きてくるので、今年はちょいちょい別のネタも挟もうかと思います。

というわけで、本年もよろしくお願いします。

2017年12月9日土曜日

債権法改正について(12)(債務不履行に基づく損害賠償請求)

司法書士の岡川です。

条文の順番的には、次は受領遅滞の話なのですが、これはひとまず飛ばして、債務不履行があった場合にどうなるか、というポイントの改正について取り上げます。

まずは、裁判所を通じて履行の強制(強制執行)ができるという内容の条文が414条にあるのですが、ここは基本的に表現が改められただけです。
具体的な強制執行の方法は、民事執行法に書かれていますので、民法には書かないことになったわけです。


次に、債務不履行に基づいて損害賠償ができるという規定。

現行民法では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」(415条)と規定されています。

一見すると、債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)は、後段の場合、つまり履行不能の場合にのみ要件になっているようにも読めます。
というか、普通に日本語を読んだらそうとしか読めません。

でも、一般的な解釈では、前段の場合、つまり履行遅滞であっても、損害賠償請求をするには帰責事由が必要だと考えられています。

こういうところが法解釈のいやらしいところ。
正しく日本語が読めても、正しい条文理解にはならないというね。

で、改正法は、その辺の文言も整理して、次のような規定になります。


第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

1項は書きぶりは異なりますが、現行法(の解釈)と同じです。
「債務者に帰責事由がないときは、賠償責任を免れる」という内容が但し書きになってるのも、現行民法においても立証責任は債務者側にある(と解釈されている)ので、実務に変更はなく、むしろ解釈が明確になったといえます。

2項は何なのかというと、履行が遅れたとか不完全だったために損害が生じたという場合(これらは1項の対象)ではなく、履行されてない場合に、「もう履行はええから賠償金くれ!」ということができるという規定(これを填補責任といいます)。
典型的には1号にあるように履行不能の場合ですが、2号のように明確に履行を拒絶しているような場合もありますね。

現行民法では、これに関する規定は存在しなかったものの、判例では認められておりましたので、改正法で明文化されました。


損害賠償の範囲については、特別損害(特別の事情による損害)について若干の改正がありまして、現行法が「当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」であるのに対し、改正法では「当事者がその事情を予見すべきであったとき」に賠償範囲に含まれるという規定になりました。

そのほか、損害賠償に関しては、中間利息控除について明文の規定ができたり、過失相殺について文言が若干追加されたりとありますが、基本的に現行民法の下で通用しているルールがそのまま明文化されたものです。

また、422条に代償請求権の規定が新設されましたが、これも判例・学説で一般的に認められていたものを明文化したものです。

では、今日はこの辺で。

2017年12月2日土曜日

債権法改正について(11)(履行不能)

司法書士の岡川です。

今日は、債務不履行の2つめの類型である「履行不能」について。

前提知識をざっくり説明すると、「できない」というのを「不能」といいます。
つまり、「債務を履行できない」ってことですね。

実は、「履行不能」の場合に債務がどうなるかという点についてのルールは、現行民法では明記されておりません。
それが条文に明記されるようになります。

第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

まあ、そんなわけで読んでのとおりであります。

ちなみにここでは、「原始的不能」(契約締結より前から不能)と「後発的不能」(契約締結後に不能となる)についての区別がされておりません。

伝統的な理解では、原始的不能の場合、債務不履行の問題ではなく、そもそも契約自体が無効であると考えられています。
法律行為の有効要件のひとつに(別に法律に規定があるわけではありませんが)「実現可能性」という要件があり、実現可能性のない=原始的不能な契約は無効だという理解です。

改正民法では、こういう原始的不能と後発的不能を峻別する考え方を取らず、とりあえず履行が不能な場合はどちらも債務不履行の問題として扱うというルールを明確にしました。

そのうえでの2項です。

これまでは、「原始的不能は契約自体が無効である」ことを前提として、契約締結上の過失の理論(これはマニアックなのでまた別の機会)とかを駆使して損害賠償請求の可能性が確立されていましたが、改正法では、契約自体は有効なので、それを前提に他の債務不履行と区別することなく損害賠償請求の道筋が明らかとなったわけです。
契約締結上の過失による責任と債務不履行責任では、その対象にズレがあります(一般的に前者の方が狭い)ので、改正により債権者に有利になったということができます。


後発的不能の場合については、現行のルールと大した差はありませんね。
条文上明確になったというだけです(文言の問題で、いくらか差は出るかもしれません)。

では、今日はこの辺で。

2017年11月16日木曜日

債権法改正について(10)(履行遅滞)

司法書士の岡川です。

さてさて、本格的な債権法改正の論点に入ってきました。

今日から何回かは、債務不履行に関するルールの変更です。
その前に債務不履行については、過去の記事で復習しておきましょう(→「債務不履行の話」)。


まず、「履行遅滞」(債務の履行が遅れたこと。債務不履行の一種)になるのがいつの時点か?という点が、微妙に変更になります。

仮に確定期限(例えば「平成29年12月20日に支払う」という場合)、12月20日を1秒でも過ぎれば遅滞というのは明らかですね。
だから確定期限が定められている場合は特に問題になりません。


あ、ちなみに12月20日というのは私の誕生日ですので、皆様、遠慮なく何かしらの金品の交付をよろしくお願いします。


他方で、不確定期限(例えば「父親が死んだ日に支払う」という場合)、いつ父親が死ぬかは確定していませんので、どの段階から遅滞になるのかが問題になります。
素直に「父親が死んだ日」を1秒でも過ぎれば遅滞としてしまうのは具合が悪い。
なぜなら、「12月20日」であればカレンダー見てればわかることですが、「父親が死んだ日」というのは、債務者にとっても即時に認識できるとは限らないからです。
不確定期限について、その期限の経過=即遅滞となれば、債務者が知らない間に遅滞になっているという事態が生じてしまうのです。

というわけで、現行民法は「債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。」としており、「知った日」に支払えばセーフです。


これが、改正法では次のようになります。

第412条第2項 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。

期限の到来を債務者が知るより前に債権者が(知ってか知らずか)請求した場合でも、履行遅滞に陥るというルール。
このルール自体は、現行法の解釈として確立しているものではあるのですが、それが明文化されました。


そうそう。
法律系資格試験の受験生が混乱するポイントのひとつとして、「履行遅滞に陥る時期」と「消滅時効の起算点」の違いがあります。
両者は微妙に時期がずれることがありますので、各自しっかりと(意識的に)区別して覚えるようにしましょう。

この点は、消滅時効の時効期間に長短の類型ができたこともあって再整理が必要ですね。
改正法における消滅時効の基本ルールは次のとおり。

1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

そうすると、不確定期限がある場合、

・履行遅滞に陥る時点:請求を受けた時又は期限到来を知った時(早いほう)
・5年の消滅時効の起算点:期限到来を知った時
・10年の消滅時効の起算点:期限到来時

こんな感じでしょうか。
消滅時効が類型化されたことで、逆に分かりやすくなったかもしれませんね。


では、今日はこの辺で。

2017年10月25日水曜日

債権法改正について(9)(不能による選択債権の特定)

司法書士の岡川です。

今日取り上げるのは、「不能による選択債権の特定」に関する規律の改正。

特にこれだけ1回使って取り上げるほど重要な改正でもないんですが、他の改正とあまり関連性がないので、仕方なく。

とりあえず改正法を見てみましょう。

第410条 債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

前提として、選択債権というものがあります。

一般的に債権というのは、「Aという物の引渡しを受ける権利」といったふうに、その目的が特定されています。
ただ、場合によっては、「債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まる」という契約もあり得ます。

「AかBかCを売る」というような契約も可能なのです。


もちろん、履行すべき債務が特定されないままでは具合が悪いので、実際にどれを給付するかは、どこかのタイミングで誰かが「選択」しないといけません。
この場合の選択権は、原則として(特約がない限り)債務者が有しています(民法406条)。


さて、現行法は、選択債権の一部について給付が不能の場合(例えば「AかBかCを引き渡す」という債権があったとしてAが滅失したような場合)、原則として残存債権のみ請求できる(「BかCを引き渡せ」という債権のみが残る)と規定しています(現行民法410条1項)。

そして例外的に、「選択権を有しない当事者の過失」で給付が不能となった場合は、このルールが適用されない(同条2項)ので、不能となった給付(「Aを引き渡せ」という債権)も選択できることになります。
もちろん、不能となった給付そのものを求めることは無理なので、実際には、不能となった給付を選択したうえで債務不履行に基づく損害賠償請求をすることになりますが。

で、このルールが若干変更となりまして、基本的には不能となった後も(どの給付も)選択可能ということになり、例外が「選択権を有する者の過失による」場合となりました。

一部の給付が不能となった場合のルールをまとめると、こんな感じ。

(現行法)
原則:残存債権のみ請求可能
例外:選択権を有しない当事者の過失による場合、不能となった債権も選択可能

(改正法)
原則:不能となった債権も選択可能
例外:選択権を有する者の過失による場合、残存債権のみ請求可能


例えば、選択権が債務者にある場合において、債権者と債務者の双方に過失がなく一部の給付が不能となった場合を考えてみます。

現行法では、「選択権を有しない当事者(=債権者)の過失によらないから、例外の適用場面ではない」ので、現行法の原則ルールが適用されて、債権者は残存債権のみ請求可能となります。
改正法では、「選択権を有する者(債務者)の過失によらないから、例外の適用場面ではない」ので、改正法の原則ルールが適用されて、債務者は、不能となった給付も選択可能となります。


なんだかややこしいけど、まあ、条文そのままなので、そのまま覚えたらいいですね。

では、今日はこの辺で。