2017年9月14日木曜日

債権法改正について(7)(消滅時効)

司法書士の岡川です。

改正法で時効に関する規定は大幅に変更されます。
前回紹介した「完成猶予」という概念もそうですが、消滅時効に関する規定も大幅に変わります。

改正の方向性としては、細かく分かれていた時効期間の規定がバッサリ削除されて一本化され、かなりシンプルな規律となります。

これで、短期消滅時効の存在を忘れて慌てる心配がなくなりますね。

まずは、一般的な原則が次のようにまとめられました。
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

改正で実質的に変わったのは、1項1号の部分ですね。
「知った時から5年」という新たなルールができました。

その他は、基本的に現行法と同じです。

それから特則もいくつか残っています。

第167条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。

債務不履行によって生命または身体が侵害された場合については、時効期間が「権利を行使することができるときから20年」になります。
もっとも、166条1項1号は排除されませんので、「知った時から5年」ルールは適用されます。

なお、生命・身体侵害といっても、不法行為の場合は別に規定(改正法724条の2)がありますので、167条は主に安全配慮義務違反で傷害を負った場合等の債務不履行事件について適用のある規定ということになりますね。

ついでなので、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についても一緒に紹介しましょう。

第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。

ほぼ現行法と同じことが書いてあるんですけども、「時効によって消滅する」というのが3年ルールにも20年ルールにもかかってくることが明確になったので、今まで「20年については消滅時効ではなく除斥期間」と解されていた判例が変更されることになった、ということのようです。
(「除斥期間」というのは、「時効じゃないから中断のルールが適用されない」とかいう制限があったので、批判も強かった)

まあ、現行法だって素直に文言を読めば20年も消滅時効だと書いてるわけで、それにもかかわらず除斥期間だと解釈されてきたのです。
とすれば、この改正法の書き方で「明確になった」と本当にいえるのか疑問なのですけど、まあ、そういう趣旨の改正らしい。

それから、人の生命又は身体を害する不法行為については、

第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

とあり、167条と足並みをそろえています(現行法より時効期間が長くなりました)。


定期金債権については、次のようになります。

第168条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき。

定期金債権の消滅時効はもともと第1回目の弁済期から20年と長期だったので、それに合わせて普通の債権が5年のところを10年、10年のところを20年にした感じです。


「確定判決から10年」のルールはそのまま維持されます(条文が169条に繰り上がりましたが)。


これら以外の規定については、1~3年の短期消滅時効の規定が全部削除されましたので、5年10年20年のルールに則って判断されます。

居酒屋談議でよくあった「飲み屋のツケは1年で時効」っていうアレが無くなります。
これからは、飲み屋のツケも5年間消滅しませんので注意しましょう。

ついでにいうと、商法から商事消滅時効の規定(商行為によって生じた債権の消滅時効は5年)も削除されますので、これも民法の規定に統一されます。

こんなところで、時効の話は終わりです。

次は、条文の順番でいうと質権と抵当権の話なのですが、ここは実質的に現行法と変更ないので、次はようやく債権編に突入します。

では、今日はこの辺で。

2017年8月29日火曜日

債権法改正について(6)(時効の完成猶予2)

司法書士の岡川です。

前回に引き続き、時効の完成猶予に関する改正点のご紹介。


1.催告による時効の完成猶予

現行法でもちょっと特殊な「催告」での時効中断については、改正法の条文は次のとおり。

第150条 催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。

規定ぶりは変わりましたが、他の条項と相まって現行法と扱いは変わりません。

ここでいう「催告」というのは裁判所を通さないでする請求とか督促とかです。

催告をしたら、一応時効は中断する(改正法的に表現すれば、時効の完成が猶予される)のですが、6か月以内にもっと強力な時効中断事由(典型的には、訴えを提起するなど)が発生しない限り時効中断の効力が生じません。
つまり、催告というのは、時効中断事由ではあるものの、訴え提起までの時間稼ぎ的なものになります。

改正法でも内容は同じことで、催告によって時効が完成猶予されるのは6か月だけで時効期間の「更新」がないので、それを過ぎてしまえば、時効が完成することになります。

ところで、現行法では、裁判上の請求(訴え)をした後に、その訴えを取り下げると、条文上は時効中断の効果が生じない(現行民法149条)ので、裁判手続進行している間に時効期間が満了してしまうと、取り下げたくても取り下げられなくなってしまいます(取り下げた瞬間、遡って時効が完成してしまうので)。

そこで「裁判上の催告」という考えがあって、「裁判上の請求」としての時効中断効は認められない(条文に明記されているので)が、本来は裁判外で行われる「催告」と同視して、催告と同じ効力(6か月間の時効中断)だけは認めよう、というものです。

改正法では、前回見たとおり、訴えを取り下げたような場合に6か月時効完成を猶予することが明文で規定されましたので、あえて「裁判上の催告」という概念を持ち出す必要もなくなりました。

2.協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

これは、完全に新しい制度です。

時効が完成間近に迫っている場合、とりあえず裁判外で請求しておけば「催告」として6か月は時効が完成しません。

しかし、前述のとおり催告で時間を稼げるのは6か月だけなので、その間に話し合いではなくて訴えを提起しなさい、というのが法の要請なわけです。

とはいえ、せっかく相手方と話し合ってる最中にいきなり訴え提起でもしようものなら、険悪なムードになること間違いなしです。
でも、現行法は、相手方が債務を承認でもしてくれない限り(つまり、債務があることは認めつつ、その支払い方法について協議するような場合を除き)、話し合ってるそばから訴え提起しないと、時効完成してしまうんですよね。

そこで、新たに加えられた制度がこちら。

第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から1年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。

とりあえず話し合いをしましょう、というところまで書面で合意すれば、1年間は時効完成が猶予されます。
そして、2項において、合意を繰り返せば通算で5年まで延長することが可能とされます。

それから、3項において、催告と協議の併用はできないことになっています。
催告による完成猶予期間中に再度の催告をしても完成猶予期間は延長されないのとバランスをとったものです。


ところで、この3項の解釈としては、「催告によって時効の完成が猶予されている間」にされた協議を行う旨の合意に完成猶予の効力がないという規定なので、これは「催告から6か月以内であっても、当初の時効期間が満了した後の合意では、合意による完成猶予の効力は生じない」(催告と合意が逆も同様)という意味だと解されます。
つまり、例えば時効完成1か月前に催告をして、その催告から2か月後(=「時効の完成が猶予されている間」)に合意をしたとしても、そこから1年延長することはないということです。

他方、例えば時効完成1か月前に催告をして、その2週間後(=まだ時効期間が満了する前)に合意をすれば、それは3項が適用される場面ではないので、1年間の完成猶予が認められますね。

これは、再度の催告が認められないといっても、時効期間満了前に再度催告することは可能(時効期間満了前に行われた最後の催告から6か月時効の完成が猶予される)なのと同じです。

3.その他の変更点

債務者が権利を承認した場合(典型的には、金を返せと請求されている人が「返します」と相手に告げたような場合)については、現行法と内容的には同じで、文言だけが変更されました。

第152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。


それから、現行法では、天災等によって時効の中断ができない場合、天災等が終わって2週間まで時効が完成しないと規定されています。
逆にいえば、2週間以内に請求したり訴えを提起しないと時効が完成してしまいます。

さすがに2週間は短すぎるので、改正法では、天災等による時効の完成猶予期間は3か月となりました(改正民法151条)。



今日紹介した中では、やはり協議をする旨の合意によって時効の完成猶予の効力が生じるという規定が大きな改正点です。
もっとも、この規定がどこまで実務上使われるのかは未知数です。
消費者金融業者が債務者に合意書(と一見わからないような)書面を送りつけて、時効の完成を止めるのに使ったりするんでしょうかね。

まあ、それで猶予されるのは1年だけなので、こういうセコい使い方はあんまり実用的でもないかもしれません。


では、今日はこの辺で。

2017年8月16日水曜日

債権法改正について(5)(時効の完成猶予1)

司法書士の岡川です。

債権法改正について5回目。

取消とか追認とかの規定にも改正はあるのですが、細かい話になるのでスルーして、今日は時効の話。
時効に関しては、そこそこ大改正がされていますので、覚悟してください。


まずは、「時効の完成猶予」の話から。
いきなり新しい概念が出てきましたね。

現行民法では、時効の完成するまでの期間が進行しなくなる制度として、時効の「中断」と「停止」がありました。

時効の中断というのは、一定の事由(例えば、訴えを提起して判決を得たり、債務を承認したり)があると、その時点で時効期間がリセットされる制度です。
「中断」といいつつ、実質的には期間計算のやり直しであって、中断事由が終わった後は、残りの期間経過で時効が完成するわけでなく、またゼロから必要な期間を経過する必要があります(すごろくでいう「振り出しにもどる」状態)。

他方で、「停止」というのは、一定の事由(例えば、時効完成直前に天災が起こって時効を中断できないなど)がある場合に、その事由が終わってしばらくは時効が完成しないという制度です。
こちらは、期間がリセットされるわけではありません。

改正法では、これらを「完成猶予」「更新」という概念で構成しなおしています。
つまり、とにかく時効完成までの期間が進行しなくなるのを全て「完成猶予」といい、そのうえで期間がリセットされる(現行法でいうところの中断)のを「更新」として規定しています。


まず、裁判上の請求等による時効の完成猶予については、改正法ではこうなります。

第147条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

現行法どおり、裁判上の請求等があれば、時効の完成が猶予され、その手続が進行中は時効が完成しません。
そして、判決等によって終了した時点から時効期間が更新されるのは、現行法の中断と同じです。

他方、訴えを取り下げた場合などは、現行法では、「中断の効力を生じない」ことになっていました(現行民法149~152条)が、手続中に時効が完成してしまうということがないよう、時効の完成猶予の効力が生じることとし、ただし、期間の更新はされずに、取り下げた時点から6か月で時効が完成することになっています。

ばらばらに規定されていた条文を整理し、判例法理を明文化だけなので、基本的には現行法とあまり変わりません。
次に、現行法同様、強制執行等でも時効の完成猶予が規定されています。

第148条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

前述の裁判上の請求と同じような規定ぶりですね。
実質的には現行法と大きく変わりませんが、疑義のあった部分も含めて明確に規定された形です。

それから、保全手続については、次のように、完成猶予期間が定められています。

第149条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分

見てのとおり完成猶予のみで更新なしですが、実質的には現行法とそう大きく変わりません。


時効の完成猶予は、今回の改正での目玉でもあるので、書くことが多いですね。
この辺で一回切って続きは次回。

では、今日はこの辺で。

2017年7月20日木曜日

債権法改正について(4)(無権代理・表見代理)

司法書士の岡川です。

今日は無権代理と表見代理の部分の改正の話。

条文の順番は逆になりますが、表見代理を理解する前提として、無権代理の話が必要になります。

無権代理というのは、文字通り、権限(代理権)の無い代理行為をいいます。
例えば、全く何の委任も受けてないのに、隣の家の土地と建物を第三者に売ってしまうような場合ですね。

勿論こんなことが正当な行為としてまかり通ってしまうと日本全国大混乱です。

そこで民法は、「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」(113条)と定めています。
ポイントは、無権代理は「無効」じゃなくて「(本人に)効果不帰属」だということですね。
無権代理行為自体は有効だけど効果が本人に帰属しない。
すなわち、売買契約は有効であることが前提となり、しかし効果は本人に帰属しないため隣の家の持主は所有権を失わないということです。
そのうえで、民法は、無権代理行為をした者に後始末(本人から買い取って相手に所有権を移転させるとか、損害賠償をするとか)をすべき責任を負わせています(117条)。

117条の規定は微妙に改正されていますが、細かい話なので条文を確認しておいてください。


ここまでは分かりやすい話。

さて、そうはいっても、相手方の立場としては、正当な代理人だと思って(金も払って)土地と建物を買ったわけです。
後から「実は代理人じゃありませんでした」とか言われても納得できるわけもなく、できればそのまま本人に効果を帰属させたいところです。

そこで民法、代理人が正当な代理権を有していると信じて取引をした相手方を保護する規定を置きました。
それが「表見代理」です。

表見代理を基礎づけているのが、「真実と異なる外観を信じた第三者を(一定の要件の下で)保護する」という考え方(表見法理)です。
表見法理は「権利外観法理」とも呼ばれますが、厳密にいえば両者は異なるとも指摘されます(が、同じようなものと考えても大抵の場面では差支えない)。
表見法理、あるいは権利外観法理の表れとされている規定は、表見代理だけでなく、民法94条2項とか、商法・会社法にも存在します。


それはさておき、現行民法は、表見代理として3つの類型を用意しています。

1.代理権授与の表示による表見代理(109条)
本人が、第三者に対して、「他人に代理権を与えた旨」を表示し、その他人が表示された代理権の範囲内で代理行為をした場合です。
実際には代理権を与えていないのに、本人が(何を思ってか)委任状を与えていたような場合、相手方としてはその委任状を持っている人を代理人と扱って当然だし、逆に委任状を与えたほうが悪いわけで、この場合は本人が「実は無権代理だから効果は自分に帰属しない」と主張することは許されないわけです。

2.権限外の行為の表見代理(110条)
代理人が、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者にとっても代理権があると信じるべき正当な理由があるときです。
昔は「代理権踰越(ゆえつ)」というふうに言われていましたが、前回扱った代理権の「濫用」とは異なります(濫用というのは、あくまでも代理権の範囲内の行為)。
つまり、間違いなく代理人ではあるんだけど、与えられた代理権(基本代理権)の範囲に含まれない行為をしたという場合、しかも代理権の範囲に含まれると信じたことに正当な理由があれば、取引の相手方を保護すべきという考え方です。

3.代理権消滅後の表見代理(112条)
一度代理権を与えたら、その後その代理権が消滅したとしても、それは第三者には簡単にわからないものです。
そこで、代理権が消滅したことを知らなかった相手方は保護されています。

細かい要件論はさておき、このような場合に表見代理が成立することになり、有権代理と同じように扱われます。
これは改正法でも基本的に変わりません。


問題は、表見代理は3つの異なる類型に分かれ、それぞれが要件を定めているわけですが、

本人が他人に代理権授与の表示をした場合において、しかもその他人が表示された代理権の範囲外の代理行為をし、かつ、第三者がそれを代理権の範囲内の行為と信じるべき正当な理由があった場合。

あるいは、

代理権の消滅後に、元の代理権の範囲外の代理行為をして、かつ、第三者がそれを代理権の範囲内の行為と信じるべき正当な理由があった場合。

このような状況にどう対応すべきでしょうか。

判例は、これらの場合に、「2つの条文を重ねて適用する」という手法をとります。
これを「重畳適用」(ちょうじょうてきよう)といいます。
すなわち、前者の場合は、109条と110条の重畳適用、後者の場合は、110条と112条の重畳適用をして、表見代理の成立を認めるのです。

改正法は、この判例理論をそのまま条文化し、あえて重畳適用という手法をとらなくても、最初からそういった状況を想定した規定を新設しました。

第109条第2項 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

第112条第2項 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。


民法初学者が重畳適用という法解釈のテクニックを知る機会が失われてしまいましたが、そういうテクニックを駆使しなくても、条文を読めば結論を導けるので、わかりやすくなって良いですね。

では、今日はこの辺で。

2017年7月8日土曜日

債権法改正について(3)(代理)

司法書士の岡川です。

債権法改正の話はまだまだ続きます。
今日は代理に関する部分です。

代理行為の瑕疵に関する規定の変更は、古い判例の存在と条文の文言が明確でないために疑義が生じていた部分をわかりやすく(通説的な解釈に基づいて)記述しなおしたものと考えればよいですね。
代理人の行為能力については、前々回に解説したとおりです。

今日は、それ以外の重要な改正点を取り上げます。


1.復代理人

復代理というのは、代理人がさらに自分の代わりに事務処理する人を選ぶことです。
「代理人の代理人」というわけではなく、復代理人もあくまで本人の代理人になるわけですけども、本人が直接選任するのではなく、代理人が代理人を選任した場合が復代理人となります。
具体的場面でいうと、代理人の委任状は本人が署名押印しますが、復代理人の委任状は、本来の代理人(原代理人)が署名押印するわけですが、復代理人の行為は直接本人に帰属します。

という前提で。

まず、復代理人を選任した原代理人の責任に関する現行民法105条の規定がバッサリ削除されます。
現行法では、原代理人は復代理人の「選任及び監督」について責任を負い、さらに本人の指名に従って復代理人を選任したときは原則として責任を負わないという規定になっています。
つまり、復代理人が選任されたら、原代理人の責任は軽減されるわけです。

が、そもそも本人と原代理人の間には何らかの契約関係(主に委任関係)があるわけで、責任が軽減されるのはおかしいということが主張されてきました。
なのでその見解を採用して、現行民法105条は削除(あとは一般的な債務不履行等のルールに従う)。

2.代理権の濫用

そもそも代理権の濫用というのは、代理人が代理権の範囲内で代理行為を行ったが、それが本人の利益のためでなく、代理人や第三者の利益を図る目的でなされた場合をいいます。
権限外のことをやっているわけではないが、権限を「濫用」した場合です。
現行民法は、代理権濫用の場合の処理について規定を置いていませんので、その処理の仕方に関して学説が対立するわけです。

民法総則を初めて学ぶとき、「動機の錯誤」と同じくらい学説の対立にワクワクする論点だと思います。
それでいて、判例法理である「93条但書類推適用説」という全くもって納得できない無理筋の理屈が通説としてまかり通っている現実を前に、民法解釈学のフリーダムっぷりに頭を抱えるポイントであります(最終的に「民法が悪い」という結論に至るわけですね)。

私も、判例通説がどうしても理解(納得)できなくて、早期の立法的解決を望んだものです・・・(遠い目)。


それが遂に!


・・・あ、その前に93条但書類推適用説って何かを軽く説明するとですね。

93条は前回紹介したとおり心裡留保の規定なわけですが、その但書は、「相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」と定めています。
これを代理権濫用事例に「類推適用」するということで、相手方が代理権濫用の意図を「知り、又は知ることができたとき」は、本人は、代理行為の無効を主張することができる、という考え方で、判例・通説とされています。

ただ、この説明は無理があります。

心裡留保というのは、法律効果を発生させるつもりがないのに意思表示をした場合であって、93条但書が想定しているのは、そのことを相手方が知っている場合にまで意思表示を有効とする必要がないから無効とするものです。

これに対して、代理権濫用というのは、代理人は(自己や第三者の利益を図るために)むしろ効果を発生させる(効果を本人に帰属させる)ことを意図しているわけで、ただ本人以外の経済的利益(本人に対する損害)を与えようとしているに過ぎない。
つまり、効果を発生させ、帰属させることについて代理人の内心と表示に全く不一致はないわけで、93条但書の適用場面と全く状況が異なり(これを「類推の基礎を欠く」という)、そう考えるとこれを無効とすべき理由がないとして、理論的には根強い批判があります。

にも拘らず判例・通説になっているのは、「相手方が知り、又は知ることができたときは無効」という規範が結論として妥当というのが大きい。


という背景があり、今回の民法改正では、結論そのままに、理論的には苦しい93条但書などを使うのではなく、上記規範(法理)を実定法上基礎づける根拠条文が新設されました。
第107条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

めでたしめでたし。

3.利益相反行為

現行民法108条には、自己契約(代理人が自分を相手方当事者として契約すること。つまりAさんの代理人であるBさんがAB間の契約を締結するような場合)と双方代理(AさんがBさんとCさんの代理人となり、BC間の契約を締結するような場合)を無権代理とする規定があります。
これらは、本人と代理人の利益が相反するからですが、典型的な自己契約や双方代理以外にも、利益相反が生じる場面はあります。
そこで、一般的に利益相反を禁じる規定が新設されました。

第108条第2項 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

今回紹介した中での最重要ポイントは、なんといっても代理権濫用規定の新設でしょう。
結論的には、判例理論と一致するわけで、その意味で実務への影響はほぼないと考えられますが、何といってもあの民法総則モヤモヤポイント最高峰の代理権濫用理論が立法的に解決されたわけですからね。
(まぁ他方で、要件論として重過失を求めていた信義則説等は立法的に排斥された形になりましたが・・・)

では、今日はこの辺で。