2016年8月23日火曜日

弁護士による横領に対する給付金制度

司法書士の岡川です。

日本弁護士連合会が、「依頼者保護給付金制度」を新設するようです。

これは、成年後見業務などで弁護士が依頼者から預かっている金銭等の横領事件が起きた場合に、被害者に対して見舞金を支払う制度です。
成年後見業務に限らず、弁護士が依頼者から預かったお金を着服する事件がいくつも発生していることを受けての対策です。

弁護士による不正が発生した場合、被害者1人につき最大500万円(複数の被害者がある場合総額2000万円を限度)を支給するとのことです。


このブログでも過去に何度か取り上げましたが、成年後見人による不正(基本的には横領)が後を絶ちません。
多くは親族によるものなのですが、中には、専門職といわれる司法書士・弁護士・社会福祉士による不正事件もあります。

そして、専門職の選任される比率が増加するにつれて専門職による不正も増加しています。

成年後見人による不正は、親族だろうが専門職だろうが絶対にあってはならないことではありますが、特に専門職は、その専門的知見とともに社会的信頼を背景に選任されるものです。
専門職による不正事件は、本人に対して財産的損害を与えるだけでなく、本人やその親族の信頼を裏切るものです。
そして、成年後見制度や当該専門職能に対する社会的信頼をも棄損することにもなり、きわめて悪質です。

専門職後見に対する刑事処分は、通常の横領事件などに比べても厳しい判決が下されることが多いように感じていますが、それは当然のことです。


専門職の業界としても、不正に対して手をこまねいているわけにはいきません。

司法書士会では、成年後見制度が創設されると同時に「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」(リーガルサポート)という専門の団体を設立し、ここが司法書士後見人の養成、指導、監督を引き受けています(家庭裁判所に後見人候補者を推薦するのもリーガルサポートが行っています)。

そして、実はリーガルサポートにも今回日弁連が新たに創設したような見舞金と同様の交付金制度が存在しています。
金額も含め、内容が似通っているので、日弁連も、おそらくリーガルサポートの交付金制度を参考にして作ったんだろうと思いますが、たまたま似たのかもしれません。


日弁連の新制度について、弁護士から徴収する会費が財源となります。
これに対しては、弁護士からも批判が出ているようです。
「なぜ一部の悪い弁護士のために自分たちの会費が使われるのか」という批判です。

リーガルサポートの交付金制度はリーガルサポート設立当初から存在(当初は保険だったのですが)しており、またリーガルサポートは、強制加入団体である司法書士会とは一応独立した任意入会の団体なので、「嫌なら入会しない」という選択肢があります。

しかし弁護士会は強制加入団体。
反発の声があったとしても仕方はないかもしれません。
まあ、最終的には承認されるのでしょうけどね。


また他方で、こういう制度は、「不正があること」を前提にした制度です。
そのため「不正をなくすことが先ではないか」「不正が起こることを認めるのか」という批判もあります。

不正を「許す」わけにはいきません。
しかし、横領に限らず「犯罪」というのは、減らすことはできても絶対に「根絶」することは不可能な現象です。

残念ながらそこは前提として認めなければならないと思います。
たとえどんな対策をとっていたとしても、なお不正があることを「想定外」で済ませるわけにはいきませんから。


「犯罪を根絶する」というのは、理想論や理念としては理解できるにしても、現実的な発想ではありません。
人類を絶滅させるか、あるいは、SF世界のように完全な管理社会にでもならない限り、犯罪は必ず存在するものです。


もちろん「専門職後見人による不正」だけであれば、対象が限定されているので、限りなくゼロに近付けることはできます。
そのためのあらゆる対策を考えて実施する必要があります。

専門職後見人の三士会(司法書士会・弁護士会・社会福祉士会)のうち、司法書士会を除く他の2団体の内部事情は良くわかりませんが、リーガルサポートでは、色々な不正対策が行われています。
司法書士が後見人等候補者名簿に登載するには、常に研修単位を取得し続けなければいけません。
また、後見人等に就任後はかなり厳しく(それこそ会員から不満が出るくらいの)業務報告を求められ、指導・監督が徹底して行われています(本当に会員から不満が出るくらいの…)。

仮に不正をすれば、刑事処分だけでなく懲戒処分も受け、二度と司法書士として復帰することはできないリスクを負っています。


それでも、対策さえしておけば「未来永劫絶対に不正は起こらない」というようなことは保証できないものです。
実際に、あの手この手で不正をする人間が出てきているわけです。

そうである以上は、不正を防ぎきれなかった場合の「次善の策」として、事後的な被害救済策も用意しておくことは重要であると考えられます。
もっとも、実際の被害額と比べて500万円では足りない事例も多々あるわけで、やはりあくまでも「次善の策」に過ぎないのですが…。


今後、この給付金が使われないことを願いたいところです。

では、今日はこの辺で。

2016年8月4日木曜日

大渕弁護士「業務停止1か月」は重いか軽いか

司法書士の岡川です

テレビなどでもよく見かける大渕愛子弁護士が、所属する東京弁護士会から業務停止1か月の懲戒処分を受けました。
法テラスの規則に違反して、依頼者から不当に着手金や顧問料を受け取ったというのが理由です。

皆さんこの処分、重いと感じられるか、軽いと感じられるか、どうでしょう?

1か月間おとなしくしてればいいんだし、ちょっと長い休暇とるようなもん…くらいに思われるかもしれませんが、現実はそんな甘いものでもない。
同じ士業者の感覚としては、一般論として業務停止というのはたとえ1か月でもかなり重いものです。


業務停止中は、一切弁護士としての活動はできません。
弁護士を名乗ることも禁止なので、名刺を渡してはダメですし、原則として事務所の看板も撤去しないといけない。
バッジも身分証明もいったん弁護士会に返還するみたいです。

ここまでは、確かに大変ではありますけど、業務停止なんだから当然といえば当然ですね。

ただ、業務停止ということは、この程度にとどまりません。

業務停止期間中に新しい事件を受任してはいけないのは当然のこととして、既に受任中の事件についても、依頼者からの相談に応じることもできませんし、一切の処理をすることが禁じられます(期日に出席するどころか、事務所で準備書面の作成もしてはいけない)。

したがって、原則として全事件を辞任しないといけません。
辞任しないでそのまま事件放置したらそれはそれで懲戒事由を重ねる暴挙ですね。

それから、全ての顧問契約もいったん解除する必要があります。


そうなると、1か月後に復帰したところで、「さあ今日から仕事再開!溜まっていた仕事を処理しないと!」ということにはならない。
きちんと真面目に業務停止したら、仕事が溜まるどころか、業務に復帰した時には一切なにも残ってないはずなんですよね。

このように、「1か月分の収入が無くなる」程度じゃ済まず、この先しばらくの間の収入が完全に途絶えることになります。
新任弁護士のように、再スタートをしないといけない。


そう考えると、大渕弁護士に下された処分は結構重い。


ただ、その処分をされた理由として、「法テラス案件で別に着手金を受領した」というのは、ちょっと考えられないことではあるんですよね。

「知らなかった」と弁明されているようですが、今回の懲戒の理由は、厳密にいうと「着手金を受領した」ことではなく、「受領した着手金の返還を求められたのに、副会長が直接指導するまで数か月の間拒否した」ことです。
実は、着手金を受領したこと自体は、懲戒処分の3年の除斥期間(時効みたいなもの)にかかって処分対象から外されています。

知らなかったなら、法テラス事務局から連絡があった時点で間違いを認めて返還すればよかったのです。
それを拒否したのが悪質だとされたのでしょう。

そもそも「知らなかった」ってのがまずありえないし、仮に本当に知らなかったのだとしても、法テラスから指摘されたその時点で容易に知ることが可能です。

というのも、法テラスは、全ての弁護士が自動的に登録されるのではなく、法テラスと契約した弁護士・司法書士が登録されるものです。
そして、法テラスから支払われる報酬のほかに、依頼者から一切の金銭を受領してはいけないことは、契約条項に明記されています。
法テラス契約している時点で、知らないわけがない。

仮にそこは見落としていたとしても、契約書だけでなく色んなところに書かれていますから、法テラスを利用した手続を行っていれば必ずどこかで目にするはずです。

何をどう思ったんでしょうか…。
不可解です。


ところで、一般論はさておき、本件で業務停止は重すぎるから不服申立をするとかしないとか、そんな話もありますね。
これについては、過去の処分例とかとも見比べないと何とも言えません。

ただ、処分理由が限定的である(色んな理由で懲戒請求されたようですが、結局処分対象になったのは「返さなかった」という1点のみで、かつ、最終的には返還している)ことに鑑みて、一部で批判があるように、必ずしも「処分が軽すぎる」とはいえないとは思います。


ちなみに、これも一部で誤解があるようですけど、大渕弁護士は、「着手金を二重取りした」わけではありません。
一般的に法テラス基準の着手金というのは、弁護士事務所が定める着手金の額より安い。
そこで、法テラスから支払われる着手金と事務所報酬基準の差額(+法テラス基準にない「顧問料」という名目の報酬)を、依頼者から受け取ったわけです。

つまり、大渕弁護士が受領した弁護士費用の総額は、大渕弁護士の事務所の報酬基準を超えていない、ということになりますね。
(法テラス案件なのに事務所の報酬基準で受任すること自体が違反行為なんで、二重取りじゃないから悪くないという意味ではありません)


まあ、そんな感じで、業務停止っていうのは1か月でも結構ダメージでかい、ってことを踏まえて(逆に、法テラス案件で着手金を別途依頼者から受け取るなんて実務上あり得ない、ということも踏まえて)、本件処分が重いか軽いかを考えていただければよいかと思います。

 では、今日はこの辺で。

2016年7月17日日曜日

特殊詐欺にご注意

司法書士の岡川です。

facebookを見てると、「両親がオレオレ詐欺に引っかかって、コツコツためていた200万円がだまし取られたという事件」がシェアされていました。
息子が小切手を落として200万円が必要だという電話をしてきて、それを信じ切ったようです。

銀行に振り込むのではなく、犯人が家まで取りに来て、そいつに現金を手渡したようです。
その時の犯人の顔写真も晒されていましたが、最後まで少し疑っていた両親が写真を撮っていたとのこと。

それにしても顔写真を堂々と取らせるとは、余裕なのか、罪の意識がないのかわかりませんが…。
受け取るだけだから「知らなかった」と言えば罪には問われないという話で「受け子」に勧誘される例もあるみたいですけど、そう簡単に「知らなかった」が通用するほど世の中甘くないですからね。
世の中を舐めきった犯人なのかもしれません。

さて、どれだけ警戒していても、詐欺で騙される人が後を絶ちません。
今回騙された方も、自分は絶対に騙されないと思っていたようですが、息子の緊急事態を何とか助けようという一心で、見ず知らずの人間にお金を手渡してしまったようです。

子を心配する親心に付け入るのは何とも許せませんが、詐欺師というのはそういうもんです。

普通に考えたら、見ず知らずの人間に、家まで現金200万円を取りに行かせるなんてことはありえない。
でも、そういうありえないことでも信じてしまうのです。
そして、こういうふうに特殊詐欺に引っかかって犯人にお金が渡ると、それがまた詐欺グループの活動資金となって新たな被害者を生みます。

この繰り返しで特殊詐欺がなくならないのです。


ちなみに、今回の犯人、息子の名前はもちろん、生年月日や、兄の名前なども答えられたそうです。
それで信じてしまったようですけど、家族構成とか生年月日とか、詐欺のターゲットになった時点でそういう情報も漏れている可能性がありますので、それだけで信じてはいけません。
なんなら、小学校の名前とか本籍とか祖父母の名前とか、そんなのも知られてると思ったほうが良いでしょうね。

今の情報社会、闇のルートなんか一切持っていなくても、結構な情報をネットから知ることができます。


例えば、知人がfacebookでとある写真を掲載していました。
それは、自損事故をした車を撮影したもので、背景はどこにでもある町中の風景。

興味本位で、この写真から場所を特定できるか試してみたのですが、背景に映り込んだいくつかの情報とインターネットで調べた情報を駆使して、条件に一致するおおよその場所を推測し、グーグルマップで探してみたら、見事に同じ風景をストリートビューで発見することができました。

見ず知らずの人の職場とか、子供が通っている保育園とか、ネットで探せばいろんな情報が手に入ります。


私なんか本名をネットで晒してますしね。
職場の位置もバレバレです。

ちなみに私の職場の住所は、高槻市城北町一丁目14番26号シティパル城北105号の岡川総合法務事務所です。
電話番号は072-647-3305です。

ステマです。
よろしくお願いします。


合言葉というか、同一性を確認するための符号は、絶対に家族でしか知りえない情報でなければ意味がありません。
名前とか生年月日とか、そんなもんは周知の事実だと思っておいたほうがよい。
学校の名簿が流出してると、通っていた学校の名前とか、担任の名前とかも知られていると思ったほうが良い。
そういうもので確認すると、相手が知っていた時にはむしろ逆効果になりかねません(今回の件も、誕生日や兄の名前を知っていたことが、犯人を信じる一因となったようですから)。



息子を語る電話があって金を貸してくれと言われても本人が取りに来るまで渡さないこと。
息子は仕事で忙しいんだから、そんないつでも電話に出られるわけじゃないこと(たまたま電話がつながらなくて不安になって騙される例が多い)。
誕生日とか家族の名前なんかは、誰でも知っていると思っておいたほうが良いこと。

少なくともこの3点、みなさんのご両親にも念を押しておいてください。
これで被害にあうリスクを少しでも減らしておきましょう。


では、今日はこの辺で。

2016年7月3日日曜日

内乱罪は「既遂犯を処罰しない罪」って本当か?

司法書士の岡川です。

ぷらぷらとネットサーフィンしてたら、久しぶりにおかしな記事を発見したので、取り上げましょう。

こんな記事を見つけました。

既遂を処罰していない罪はあるのか?


以前書いた通り、刑法は、既遂犯処罰を原則としており、未遂犯というのは例外です。

しかしこの記事では、次のとおり、内乱罪は、未遂罪のみ処罰する犯罪で、既遂犯は処罰されないというふうに書かれています。

内乱罪の既遂、つまり国の統治機構を破壊したなどという既遂については、処罰規定を置いていません。
これは、内乱罪が既遂となった場合、既に国の統治機構が破壊されるなどして、行為者を処罰することがそもそもできないからです。

誰だ、そんな適当な解説してるのは!

法律の内容を知るには、まず、条文を確認することが大切です。

内乱罪というのは、次のように規定されています。

国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。(刑法77条)

この条文は、このように読みます。

「国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱すること」を目的として暴動をした者

内乱罪の規定する行為はあくまで「暴動」であり、かつ、統治機構の破壊等をその目的とする場合に成立する「目的犯」です。

※目的犯というのは、犯罪の成立に一定の目的が要件となっているものをいいます

内乱罪における統治機構の破壊というのは暴動の「目的」であって、破壊することが犯罪の構成要件要素となっているわけではありません。
実際に統治機構を破壊しようがしまいが、それを目的とする「暴動」を行えば、それによって既遂に達します。

内乱罪も間違いなく「既遂犯」の処罰が規定されているのです。

記事では、
内乱罪は、宿命的に既遂を処罰することができない犯罪なのです。

とまとめられていますが、これは、何かの解説を読んで勘違いしているんだと思います。

内乱罪の保護法益は、国家の存立です。
この国家の存立という法益が現実的に侵害されてしまった場合、(もう国家は存在しないわけですから)暴動をした者を処罰することはできません。

つまり、処罰できなくなるのは、「既遂に達した場合」ではなく「保護法益が現実的に侵害された場合」です。
保護法益の現実的な侵害があった場合に成立する犯罪を「侵害犯」といいますが、内乱罪は、宿命的に「侵害犯として規定することはできない」ということになります。

そのため内乱罪は、法益侵害の危険が発生した段階(ここでは暴動をした段階)で犯罪が完全に成立する「危険犯」として規定されています。

この説明と、既遂犯と未遂犯の話とがごっちゃになっているのでしょう。

危険犯は、危険が発生したときに、既遂になるのです。
決して、未遂犯として規定されているわけではないのです。


犯罪には、

既遂犯と未遂犯
結果犯と挙動犯
侵害犯と危険犯

他にもいろいろとカテゴライズの方法はありますが、それぞれ似て非なるものなので、ごっちゃにならないように注意しましょう。

ま、これを知って役に立つのは、試験前の法学部生くらいだと思いますけどね!

あと、危ないから内乱はやめようね!

では、今日はこの辺で。

2016年6月28日火曜日

「弁護士VS司法書士」最高裁判決のざっくりとした解説

司法書士の岡川です。

一部業界で注目の「和歌山訴訟」の最高裁判決が出ました。
なぜ和歌山訴訟というかというと、第一審が和歌山地裁の事件だから。

この事件、厳密に詳しく解説すると非常に複雑な上に、一般の方にとっては日常生活に何の影響もないものですので、ざっくり解説していきますね。


事件の要旨は、「認定司法書士が債務整理において代理できる範囲はどこまでか」という点が争われた事件で、結論からいうと最高裁が司法書士の業務範囲を狭く解釈した、というお話。


別に日弁連が日司連を訴えたわけじゃなくて、「とある債務整理の依頼者が、とある司法書士を訴えた」という個別の事件なわけですが、そこでの争点は日弁連と日司連の見解の対立が根底にあったので、双方の業界が代理戦争やってたようなものです。

さて、では、どんな事件だったのか。

認定司法書士は、紛争の目的の価額が140万円以下の事件について、裁判外での和解交渉ができます。
逆にいえば、その金額を超える紛争では、代理人となることができないのです。
ここで、何をもって「紛争の目的の価額」とするかが問題になります。


貸金返還請求事件とか、建物明渡請求事件とかであれば簡単です。

貸金返還請求なら、請求する金額が紛争の目的の価額。
建物明渡請求事件なら、明渡しを求める部分の評価額の2分の1が紛争の目的の価額になります。


これに対して、債務整理事件というのは特殊で、依頼者は貸金の返還を請求する側ではなくて、債務の減額とか分割弁済をお願いする側。
しかも、債務整理事件の特色として、一社ではなく、複数の会社に対する債務の処理について依頼を受けることが少なくない。


司法書士側は、まず前者の争点について、「依頼者が利益を受ける額」が紛争の目的の価額だと主張しました(というか、実務では、日司連の見解として今までずっとそうしてきました)。
これを、「受益額説」といいます。

どういうことかというと、例えば150万円の債務があったとして、20万円の減額を求める場合は、依頼者にとっては20万円だけを争う(主張が最大限認められて得られる利益は20万円)わけなので、この20万円が紛争の目的の価額だということですね。

この場合、仮に裁判所に特定調停を申し立てるとすれば、債務が150万円であったとしても、20万円が「調停を求める事項の価額」となりますので、認定司法書士は調停手続代理人になることができます。
ならば、調停の前段階である裁判外の交渉でも同じだろう、というのが司法書士側の主張。

これに対して、最高裁は、弁護士側の主張を認め、「減額交渉をする場合も、債権額(債権者が主張する額)が紛争の目的の価額である」と判示しました(債権者主張額説)。
そのほうが依頼をする側にとってわかりやすい、というのが理由です。


もう一つの争点について、債務整理は、複数の会社の債務を一括して処理するのが一般的な事件です。
そうすると、3社に対して50万円ずつの債務があって、総額150万円の債務が残っていたらどうなるか。

ここで弁護士側は、債務の総額が紛争の目的の価額だと主張しました。
つまり、各社の個別の債務は140万円以下でも、合計して140万円を超えていればそれは司法書士の代理権の範囲外だということです。
これを「総額説」といいます。

これに対して、最高裁は、司法書士側の主張を認め、「個別の債務(債権者側からすれば債権)の額が紛争の目的の価額である」と判示しました(個別額説)。
その人が抱える債務の総額がいくらだろうが、債権債務は個別の相手との関係なので、合算する理由はないということです。


とまあ、表面上、それぞれの争点で一勝一敗のような感じですが、そもそも総額説なんていうのは筋の悪い主張(当事者でもない他の人に対する債務額を合算する理由など全くない)でしたので、主要な争点は、前者の「受益額説」か「債権者主張額説」かという点にありました。

で、ここで司法書士側の主張が認められなかったので、評価としては司法書士側の負け、ということになろうかと思います。

司法書士の業務範囲が狭まった、という報道もありますが、別に法律が変わったわけではないので、厳密に言えば、「そもそも最初からその範囲でしか業務はできなかった」ということになるのですが、司法書士実務では受益額説で動いてましたから、その意味で狭まったということですね。
まあ、争いがあるということで、念のため債権者主張額説に沿って処理していた司法書士も少なくないと思いますが。


認定司法書士の制度が新設されて以来、長年争われてきた点について、ついに最高裁が決着をつけたことで、一部業界では大きな話題となっています。
あ、一部業界って、司法書士業界のことね。


この件について、個人的に私の業務には全く影響がないのですけど、それはさておき、司法書士の活躍できる分野をもっと増やしていきたいですね。


うーん、ざっくりとした解説のつもりが、結構細かくなっちゃったですね。

では、今日はこの辺で。